ラストダンスは私と


10月31日の夜、火影の催したハロウィンパーティーには木ノ葉の里の住人のほとんどが集まった。
この日ばかりは上忍、下忍、そして一般の人々も関係なく宴を楽しむ。
仮装が義務付けられた会場では、様々な物語の登場人物がごちゃ混ぜになっていた。
天使や悪魔、白雪姫やシンデレラ、ピーターパンとフック船長も今日は仲良しだ。

 

 

「いーなー、楽しそう」
廊下で通り過ぎる者達を横目で眺め、サクラはつまらなそうに呟く。
アリスの格好を模したサクラはエプロンドレスを着ていたが、それは仕事のためだ。
この日の7班の任務は皿洗いとゴミの片付け。
担任であるカカシが嫌な任務を引き受けたせいで、7班の面々は会場で遊ぶことはできない。
代わりに、パーティーの参加者達が食事をしたあとの残飯処理だ。

「・・・・ナルトは遅刻か」
いつまでたっても現れないナルトにしびれを切らし、サスケはいらついた声を出す。
仕事のために行くのだから仮装の必要はないと思ったのだ、建物に入る前のチェックで引っかかった。
給仕係りも清掃係りも、とにかく全員仮装。
受付の人間に魔法使いのローブを付けられたサスケは、箒を片手にずっとしかめ面をしている。

「カカシ先生はどこに行ったのかしら?」
「外の警備を任されているそうだ。さっきあそこから出て行った」
「そう・・・」
サクラはサスケの指差した中庭へ続く扉を見ながら頷く。
里の者達が浮かれていても、隠れ里としての守りを怠るわけにはいかない。
パーティーに行けない不満は残っていたが、担任のカカシが頑張っているのだからと、サクラは何とか気持ちを切り替えた。

 

「サクラちゃーーん、お待たせーーー」
やがて聞こえてきた声にサクラは怒りの形相で振り返ったのだが、その顔つきはすぐにぽかんとしたものになる。
小走りにやってくるナルトは、規定どおりちゃんと仮装をしていた。
いや、仮装と呼ぶのが正しいかどうか分からない。
「・・・・何、それ」
「マングースだってばよ!!」
着ぐるみを身につけ、被り物を小脇に抱えるナルトは笑顔で答える。
「そっちに持っているのは」
「ハブ」
右手に持つ蛇の玩具をナルトは嬉々とした顔でサクラの方に向けた。

「三日間徹夜で作ったってばよ!でも、これを被るとうまく喋れないんだよねぇ」
「ふーん」
マングースの顔の形をした頭部を被ったナルトを、サクラは冷ややかな目で見つめる。
仮装に浮かれるナルトは、自分達が何のためにここに来たのか、すっかり忘れているらしい。
サクラ達が皿洗いをする流し場はもう目と鼻の先だった。

 

 

 

 

山と詰まれた汚れた皿を、サクラは洗って洗って洗いまくる。
サスケとナルトは主にパーティー会場からの食器運びと回収場所までのゴミ出しが担当だ。
その彼らが、ぴたりと姿が見せなくなった。
誰か、知り合いに呼び止められたか、さぼっているかしているのだろう。
一人で働くサクラは次第にいらいらを募らせる。

「もう、嫌!!!」
泡だらけになった手を拭いたサクラは、近くにあったパイプ椅子に座り込んだ。
隣りの厨房では美味しい料理が作られ、会場に運ばれているというのに、サクラは流し場で一人きり腹をすかせている。
たまにコックの見習いが洗ったあとの皿を取りに来るが、今は十分間に合っているらしい。
「これじゃ、アリスじゃなくて、シンデレラよね・・・」
暗い表情で肩を落とすサクラは、開いた扉に顔をあげる。
ひょっこりと頭を出したマングースに、サクラは思わず顔を綻ばせた。
「遅いわよ、ナルト」

ナルトが着ぐるみを用意してきたのは正解だったかもしれない。
あの姿を見ていると、どうも怒る気が失せる。
そして、聞こえてきた綺麗な音色にサクラは耳を傾けた。
「テネシーワルツ・・・」
会場では皆がダンスで盛り上がっているのだろう。
この曲で好きな人と踊ることがサクラの夢だったが、皿洗いの仕事が入っていなくても、サスケが彼女の誘いを受け入れるとは思えない。

 

立ち上がったサクラは、扉を閉めようとした彼を遮り、にっこりと笑った。
「あんたで我慢しておくわ」
無理やりマングースの手を掴んだサクラは彼をリードしてステップを踏む。
もちろん、正式な手順など分かるはずがない。
曲に合わせて思うまま、楽しく体を動かしているだけだ。
狭い洗い場はもちろん飾りつけもなく、雰囲気はまるでなかったが、それなりに面白く感じられた。
不自由な着ぐるみでよたよたとしながら付き合うマングースにサクラは笑いかける。

「そこで、ストップね」
マングースの手を支えに、くるりと一回転したサクラは最後に彼に抱きついた。
ちょうど良くダンスの曲も終わり、サクラは着ぐるみの頭に手を添える。
「有難う!」
労うように撫でたサクラは、被っていると喋れないというナルトの言葉を思い出し、マングースの頭部を取り外す。
そして、彼女の笑顔はそのまま凍りついた。
すぐ間近で自分を見据える黒い瞳に、顔からみるみるうちに血の気が引く。

 

 

「さ、サス・・・・」
「ナルトの奴、捕まえてきたぞーー!!」
呆然としたサクラが声を発するのと、ナルトを抱えるカカシが部屋に入ってきたのはほぼ同時だった。
「え、ナルト!?」
「こいつなー、仕事さぼって会場の料理を食べてたんだ」
頭をかきながら「テヘッv」と笑うのは、魔法使いのローブを身にまとったナルトだ。
そして、マングースの着ぐるみ姿で顔をしかめているのは、サスケに間違いない。
「5分でいいから、衣装を取り替えるよう頼まれた・・・・」
「マングースのままだと、料理が食べられないってばよ!」
カカシの手から逃れたナルトは全く罪の意識がないらしく、笑って説明する。

青かったサクラの肌にゆっくりと赤みが差していく。
サスケと踊りたいという願望が、図らずも現実となったわけだ。
最初から本人だと知っていれば、強引に誘うことなど絶対にできなかった。

 

「ナルトを見つけたということは、外の警備というのは嘘で、中で遊んでいたんだな」
「うっ・・・」
赤い顔で俯いているサクラの隣りで、サスケはエクソシストに扮したカカシを言及する。
図星を指されたカカシはナルト共々、その後の皿洗いを任されることになった。
パーティーは終わりに近づいていたが、厨房のコックはまだ忙しく働いている。
「急ぐぞ。食べる物がなくなる」
「え、うん」
マングースに手を引かれたサクラは、駆け足で洗い場をあとにする。
その前にナルトと衣装チェンジをした方が良いのではないかと思ったサクラだったが、マングースの後姿を見ていたら笑ってしまって、言えなかった。


あとがき??
マングースの着ぐるみはのだめのマネです。
これ、随分前に書き出した物で、ハロウィンとか関係なく仮装パーティーネタでした。
しかも、データが消えていたので、全部書き直した・・・。(涙)
着ぐるみナルトも良いけど、着ぐるみサスケもなかなか可愛いかもしれないと思った。そういうキャラじゃないだけに。


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