嫉妬


「よく手なずけたね。野良猫のような子なのに」
頭上から降ってきた声に、サクラは思わず苦笑を漏らした。
サクラの膝枕で眠っているのは、黒猫ならぬ黒髪の少年。
安心しきったその寝顔は、いつもより幾分幼く見える。

「10年もかかったわよ」
傍らに立つカカシに言葉を返しながら、サクラは羽織っていた上着をサスケの体にかけた。
穏やかな日和だが、木陰の温度は少し肌寒く感じる。
「徹夜で仕事してたみたい。だから、ぐっすり」
「そばにいるのがサクラだからだと、俺は思うけどね」

 

場所は、アカデミーにほど近い木立の中。
たまの休日だというのに、サクラはと不平も言わずサスケの昼寝に付き合っていた。
何をするということもなく、時間は過ぎていく。
だけれど、サクラの心は今までになく、満ち足りた気持ちで一杯だった。

 

 

 

「何で俺から逃げてるの」

のんびりとした空気は、その瞬間に変化した。
見上げた先にいるのは、サクラのかつての担任。
サクラも、少し前から気づいていた。
彼が生徒に対する以上の気持ちで、自分を見ていることに。
無意識のことだったが、避けるような行動を取っていたかもしれない。

「先生、私・・・」
「ストップ。その先生ってのは、もうやめてよ。サクラがそんな風に呼ぶから、俺はいつまでも「先生」でいなきゃいけないと思っちゃうんだ」
「・・・・」
「10年も同じ人を好きなことは凄いと思うけどさ、もっと視野を広げてみようと思わない?世界中に男はごまんといるのよ」
少しおどけた口調だったが、その瞳は真剣だった。

 

 

どこかで猫が鳴いている。
飼い主とはぐれた、迷い猫だろうか。

沈黙の中、カカシはサクラの返事をじっと待っている。
この状況では、逃げることも出来ない。
困惑気味に眉を寄せていたサクラは、観念したように口を開いた。

 

「先生、私のファーストキスの相手って、サスケくんじゃないの」
サクラの唐突な告白に、カカシは意表を突かれる。
珍しく、驚いた表情をするカカシを見て、サクラはくすりと笑った。

「サスケくんが押しても引いても反応してくれなかったときに、何人かの人と付き合ってみたの。サスケくんとは全然違ったタイプの人と。知らなかったでしょう」
「・・・うん」
「でもね、いなかったんだ。サスケくん以上に優しくて、繊細で、放っておけない感じのする人は」
眠り続けるサスケの頭にそっと手を置くと、サクラはカカシへと視線を戻す。
小首をかしげたその姿は、どこか悲しげに見えた。
「私、カカシ先生のことは大好きよ」

最初から最後まで、サクラはあくまでカカシのことを「先生」と呼んでいる。
カカシの訴えを無視して。
「それが答え?」
寂しげに笑うカカシに対し、サクラは微笑み返しただけだった。

 

 

 

 

カカシがいなくなって暫くしたあとも、猫は鳴き続けている。
すぐ近くにいるようなのに、不思議と姿は見えない。

身動きならない状態のまま首を巡らせていたサクラは、ふと、サスケの目が開いているのに気づいた。
彼が真っ直ぐに見つめているのは、サクラの顔。
伸ばした指先には、桃色の髪が絡まっている。

「あれ、サスケくん起きて・・・・」
サクラの声は、ふいに途切れた。
唇が合わさったのはほんの数秒のことだったが、サクラは目を丸くしたままだ。
目元を擦ったサスケは、何事もなかったかのように同じ場所に横になる。

「いつから?」
どこから聞いていたのかと訊ねたそばから、サスケの瞼は再び閉じられる。
あとはまた、規則的な寝息が聞こえてきた。

 

木漏れ日の光はゆらゆらと地表を照らし、涼しげな風は草木の間を通り過ぎていく。
木陰を横切った猫の鳴き声は、仲間への呼び掛けだったろうか。


あとがき??
サスケ、台詞無し!!!それなのに、サクラちゃん独り占め!羨ましい奴め!
サクラが「好きな人ができたのー!」と言っていた頃を7、8歳として、10年。
7班はもう解散しているのですね。
タイトルはたぶんサスケの心情ですが、自分だってナルトとチューしたじゃないの。(笑)

こう、サスケはですね、日々サクラに冷たくて、サクラが頑張っても頑張っても手が届かなくて。
サクラも段々と、諦めちゃおうかなぁと思うわけです。
でも、サクラが他の人に目を向けようとするそのぎりぎりのときに、サスケはふっと優しいことを言ってくれちゃったりするのです。
それで、サクラは立ち往生してしまう。
私の思い描くサスサクはそんな感じ。
奴は計算しているのか、どうか・・・・・。

 

サスサク←カカのシチュエーションは、高柳紗雪様からのリクエストでした。
相互記念のイラストを頂いたお礼だったかと。
そして、リクエストを受けたのは8月・・・。
途中、活動休止していたこともあって、完成が11月になってしまいました。(言い訳1)
サスサクにカカシ先生が絡むシリアスは苦手で・・・・。ギャグなら何とか。(言い訳2)
長々とお待たせして、申し訳ございませんでした。


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