春にして君を想う


適当に仕事をこなして、あまり目立たず、でしゃばらず。
食うに困らないだけの日銭を稼いで、安穏に暮らすことのみをモットーにしていたのだ。
それが、気づけば同期の仲間を差し置いて中忍になり、一番の出世株になっていた。
全く人生何が起きるか分からない。
火影の信任も厚く、その日もシカマルは彼女の命令で砂隠れの使者を迎えに行ったのだった。

 

 

 

「綺麗だな」
後ろを歩く気配が立ち止まったのに気づき、シカマルも同じように足を止める。
砂影の姉であり、外交官としての役目を担っているテマリは道端に自生する花をうっとりと眺めていた。
木ノ葉隠れの里ではよく見かける、ありふれた花だ。
毎日同じ道を通っているシカマルは、一度としてその花に興味を持ったことはない。
「そうか?」
「うちの里は木ノ葉隠れと違って、花はハウスで栽培しないと咲かない。こんな風に日常的に花が見られるなんて、夢みたいだ」
その場でしゃがみ、淡いピンクの花に触れたテマリは嬉しそうに微笑む。

傍らで彼女の様子を窺い、シカマルはなんとなく奇妙な心持ちだった。
忍びとして強い戦闘能力を持ち、勇ましいといったイメージの彼女は、ふとした瞬間にこうしたあどけない表情を垣間見せる。
その一つ一つが、妙に印象に残るのだ。
「そこにある木は、桜だ。春になるとそれは見事な花が咲く」
「へぇ・・・・」
シカマルが二股に分かれる路の先を指し示すと、テマリはすぐに関心を示した。
まだつぼみも膨らまないその木を見ても、満開の桜の花を想像するのは無理だろう。
「じゃあ、その頃になったらまた来る。案内を頼めるか?」
「・・・・・」
「面倒くさい」の文句を呑み込んだシカマルは、無意識のうちに頷いていた。
彼女の邪気のない笑顔を見てしまっては、断れる人間はそうそういないに違いない。

 

「いのー、女ってそんなに花が好きなのか?」
「当たり前じゃない。お花をプレゼントされて嫌な気持ちになる女の子はこの世にいないわよ」
「そうか?もらうなら、花よりどら焼きの方が嬉しくないか」
「・・・・・あんた、そんなんだから女の子にもてないのよ」
いのにきっぱりと言い切られ、シカマルはふてくされたように顔を背けた。
火影とテマリの会談の間、外に出されたシカマルはすることもなくいのの花屋に寄ったのだが、一人で店番をする彼女は忙しそうだ。
早々に立ち去ろうと思い踵を返すと、ふいに肩を叩かれる。
店の売り物と思われる花束を差し出しているいのを、シカマルは怪訝な表情で見やった。

「・・・・なんだよ」
「特別にあげる。お花の好きな、その彼女にプレゼントしてあげなさいよ」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げたシカマルに、いのはくすくすと笑い声をもらした。
「いっつも眉間にしわを寄せて「面倒くせー」って言ってるあんただから、よっぽど気になってる子なんでしょう。これならそんなに高くない花だし、気軽に受け取ってもらえるんじゃない?」
にやりと笑ったいのの言葉に、シカマルは苦虫をつぶしたような顔になる。
女の勘は、時として非常に鋭くなるのだ。
自分でもはっきりと気づいていない思いを、簡単に言い当てられてしまったのだから、恐ろしい。

「・・・・本当なんだろうな」
「何?」
「花をプレゼントされて、嫌な気持ちになる女はいないって」
おずおずと花束を受け取ったシカマルに、いのはしっかりと頷いた。
「もちろん。まあ、好きな相手からだったら、一番嬉しいんだけれどね」

 

 

 

柄にもないことだと思いながらも、いのの言葉に背中を押され、不安を残したままシカマルは火影の執務室に向かう。
何より、花を見つけたときの彼女の笑顔をもう一度見てみたかったのだ。
シカマルが目的の部屋の前にたどり着くと、タイミングのいいことに、テマリが扉を開けて出てきたところだった。
彼女の姿を見るなり早くなった鼓動を、何とか落ち着かせようとシカマルはつばを飲み込む。
そして顔がこれ以上赤くならないことを必死に神に祈った。
「それでは、失礼します」
綱手に挨拶をして扉を閉めた彼女に、シカマルは決死の覚悟で歩み寄る。
丁度、廊下に人気のない今しかチャンスはなかった。

「やる!」
振り向こうとしたテマリにすかさず花束を向けると、彼女はぽかんとした表情でシカマルの顔を見つめた。
無言のまま、穴が開くほど凝視している。
喜ばれるか、気のない素振りをするか、どちらかだと思っていたのだ。
そんな反応をされると、シカマルの方としてもどう対応すればいいかわからない。
「こ、木ノ葉と砂の友好のためだ」
あまりに苦しい言い訳に、やっぱりやめればよかったという考えがぐるぐると頭の中を巡る。
そして、シカマルがいのを心の底から恨んだときに、ようやく、彼女の口元が微かに綻んだような気がした。

「・・・有難う。凄く嬉しい」
花束を受け取り、明るく微笑んだ彼女を見た瞬間、花束を持ってここまで来たときの照れくささなどどこかに飛んでいってしまった。
出来ることなら、今すぐ、いのをここに呼んで聞きたい。
今の彼女の表情は、ただ花をもらえたことが嬉しかったのか、相手が自分だったから嬉しかったのか、どちらなのか。
普段頭の回転はいい方なのだが、自分で彼女に直接訊ねるという選択肢は、何故かちらりとも浮かばないシカマルだった。


あとがき??
シカテマはお気に入りのカップリングの一つ。
なんだか書きたい気持ちになったので、今のうちに書いておく。
テマリ視点の話も書けたらいいなぁと思います。
私がシカマルで気に入っているところは、やっぱり頭がいいところですよ。
どんなにピンチのときも、余裕の表情で作戦を考えてくれていたりすると、なんだかホッとしますよね。
大好きないのちゃんはナルトの次に書きやすいキャラなもので、いろいろ登場してもらって助けて頂いています。
有難う、いのちゃんーー!!


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