こいつら100%伝説 2
「いいかい、カカシにだけは絶対にばれないようにするんだよ!」
「はいはい、分かりましたってー」
「大丈夫ですから。こっちは俺達に任せて、早く会議室に行ってください」
しつこく念を押す綱手に、イズモとコテツは何度も頷いて見せる。
それでもまだ不安げな表情をしている綱手だが、仕方がない。
今日は里の有力者が集まって開かれる、月例会議の日だ。
今後の里の行方を左右する会合に、長である綱手が欠席するわけにもいかなかった。「ううっ、サクラ、私は心配だよ。くれぐれも注意するんだよ」
しゃがみ込み、彼女と目線を合わせた綱手は涙ながらに声を出す。
だが、綱手が必死に注意を促す相手はきょとんとした顔で彼女を見つめていた。
まだ3つか4つの少女には、綱手が何を危惧しているか全く分からない。
ただにっこりと笑顔を返した少女に、綱手の不安は募るばかりだった。
「さて、元に戻るのは半日くらい後だろ」
「そうみたいだな」
一人で人形遊びを始めた少女を横目に、イズモとコテツはぼそぼそと言葉を交わす。
体は小さく縮み、思考も退行したようだが、彼女がサクラであることにかわりはない。
今のうちに親しくしておけば、その記憶は後々のサクラにも影響するはずだ。
暫く視線で牽制し合い、ジャンケン勝負を始めた二人だったが、3度のあいこのあとに勝敗は決した。「サクラちゃん」
「んっ」
人形を抱える少女は、名前を呼ばれて振り返る。
「今日はお兄ちゃんと一緒に遊ぼうね。何がしたい?」
「これ読んでー!」
にこにこと笑うイズモに、少女はすぐさま絵本の一つを指差した。
彼女を膝の上にのせて絵本を読み始めたイズモを、コテツは羨ましそうに眺めている。
だが、勝負に負けた以上、文句は言えない。
綱手が仕事をさぼりがちなせいで、彼女の下で働く中忍達はやることは山積みなのだ。
書類整理の作業を続けるために、隣りの仕事部屋に移動しようとしたコテツは、扉を少し開けるなり思い切り後退った。
「よー!」
「か、か、カカシさん!!」
廊下に立つカカシの姿を確認した瞬間、コテツは思わず扉を閉めていた。
綱手の命令が頭に残っていたため、条件反射だったのだが、カカシとしては当然面白くない。
「ちょっと、どういうつもりだよ。俺を閉め出す気?」
「きょ、今日はサクラはここにいません。火影様が会議中なので、修行も休みなんですよ」
「ふーん・・・・・」つまらなそうに呟いたあと、カカシの気配がその場から消えた。
諦めてくれたのかと思ったが、後ろから肩を叩かれたコテツは背筋の凍る思いで振り返る。
「何を隠しているのかなぁ・・・」
いやに楽しげに笑うカカシと目が合い、コテツは引きつった笑顔で応えた。
サクラの修行部屋は、綱手の執務室のすぐ脇にある。
開けっ放しになっている窓を使い、隣りの部屋から進入したに違いなかった。
「キャー、何、何、この可愛い子供は!!?」
少女の存在はあっさりとカカシにばれ、彼は満面の笑みで彼女を抱え上げた。
突然の乱入者に驚いたのか、見開かれた瞳は緑色で、短く切り揃えられた髪は癖のない桃色だ。
カカシはどこかで見た覚えがあると思ったが、はっきりとは分からない。
「まさか、火影様の隠し子?」
「殺されますよ、そんなこと本人に言ったら」
「ん、この子・・・・」
眉をひそめたカカシは、少女の体に鼻を近づける。
「・・・・サクラの匂いがする」ぎくりとするイズモとコテツに目をやると、カカシは首を傾げながら訊ねた。
「どうしてサクラ、ちっちゃくなったの?」
「分かるんですか、すぐに」
「俺が何年サクラの追っかけをしていると思っているんだよ。サクラなら、大きくても小さくても、犬になっても猫になっても、道端の石ころになってもすぐ分かるよ」
「・・・・そうですか」
思わず「何年、追いかけ回しているんですか?」と訊きそうになったイズモだが、「12年」とあっさり答えそうで止めておいた。「医療術で、細胞を若返らせて治療する術を勉強していたようです。失敗した結果、彼女自身が若返っちゃったんですよ。チャクラを使い切るまでの間は、この姿みたいです」
「へぇ・・・・」
「って、ちょっと!!待て!」
小さなサクラを抱え、自然な動作で窓から出ていこうとしたカカシをコテツは何とか掴まえる。
「どこに連れて行くんですか!」
「俺の家」
「・・・・彼女を連れて帰って、どうしようっていうんですか」
「えー、そんなこと、ここじゃあ言えないなぁ」
険しい表情でサクラを奪い返したコテツに、カカシは苦笑する。
「冗談だってば」
上の空で過ごした会議が終了し、綱手はすぐさまサクラのいる部屋に直行した。
イズモとコテツには厳しく言っておいたが、カカシはボーフラのように発生し、サクラにまとわりつくのだ。
可愛い弟子をむざむざと悪い男の餌食にするわけにはいかない。
小さくなったサクラは術も使えず自分を守る手だてが一つもないのだから、綱手達が守るしかなかった。「サク・・・・」
勢いよく扉を開いた綱手は、目に飛び込んできた光景に、目と口を大きく開ける。
服を脱がされたサクラが、下着姿でうろうろと歩いていた。
それを追いかけているのは、要注意人物のカカシだ。
「この、馬鹿者―――!!!」
「ギャーー!」
綱手に頬を張られたイズモとコテツは、部屋の壁に叩き付けられた。
「あれほど、あれほどカカシに気を付けろと言ったのに・・・・」
走り回るサクラを何とか掴まえたカカシは、がっくりと項垂れる綱手と、口から血を流して倒れるイズモとコテツを交互に見る。
「あの、何か勘違いしていないですか?」
「・・・え」
「小さいサクラの着せ替え撮影会をしていたんですよ。ほら、シンデレラと白雪姫」
カカシはポラロイドカメラで撮影した写真を綱手に渡した。
服は貸衣装屋から取り寄せたものだろう。
サクラが可愛くポーズを取る写真を微笑ましく眺めた綱手は、それをそのまま懐へと仕舞い込んだ。
「没収」
「えええーー!!!」
「サクラは私の愛弟子なんだから、当然だよ。さ、サクラをこっちによこしな」
「横暴だ!!」
「五月蠅い。サクラはこれから私と遊ぶんだよ!」綱手とカカシが激しく言い合う中、服を身につけたサクラは開きっぱなしの扉から外に出ていく。
トイレに行きたかったのだが、建物は広く、場所がまるで分からない。
たまにすれ違う忍び達も、どうしてこのようなところに子供がいるのかと、好奇の眼差しを向けるだけだ。
顔を歪めたサクラは、その中忍が話しかけなければ、確実に大声で泣き喚いていたはずだった。
「サクラっていうのかー。俺の生徒にも同じ名前の子がいたよ」
「んっ」
イルカに頭を撫でられたサクラは、嬉しそうに顔を綻ばせて彼を見上げる。
手にはもらったドーナツを持ち、至福の表情だ。
トイレまで案内してもらったあと、サクラはイルカによって中忍専用控え室へと連れてこられていた。
何故、彼女が火影の部屋の付近をうろついていたかは分からないが、子供好きのイルカに迷子を放っておくことはできない。「えーと、家の場所とか両親の名前とか、言えないかなぁ・・・」
必死に身元を聞き出そうとするイルカの気持ちを知らず、ドーナツを食べ終えたサクラは彼に抱っこをねだっている。
同じ頃、綱手やカカシは必死にサクラを探していたのだが、イルカがそれを知るはずがない。
こうしてサクラが元の姿に戻るまでの間、一番長く時間を共有し、好印象を与えたのは彼女の正体を知らないイルカだった。
その後イルカは大いにサクラに懐かれることになったのだが、綱手やカカシ、その他諸々のやっかみが恐ろしく、喜ぶ余裕はなかったという話だ。
あとがき??
1は『サクラちゃん祭り』に捧げたのですが、それを読んでいなくても分かる内容だと思います。
うちの駄文は、イルカ先生がいい目を見ている話が意外と多いです。
無欲の勝利というか・・・・。
以前、サスケがちっちゃくなる話を書いたので、サクラでもやってみました。
アホな話で申し訳ない。