こいつら100%伝説


あらゆる医術、薬物に精通し、その実力は上忍レベルと噂される薬師カブトは大蛇丸の腹心の部下だ。
その彼からの直々の呼び出しとあれば、緊張しないわけがなかった。
音隠れの里の下忍になったばかりのくの一は、怯えたような表情でカブトを見つめる。

「君は“遠眼鏡の術”が得意だと聞いたけれど、本当かい?」
「は、はい。我が家に代々伝わるこの水晶玉を使えば、場所がどこであろうとここに映し出すことが出来ます」
「よろしい」
場の空気を和ませるように、カブトは穏やかな微笑を浮かべた。
「頼まれてくれるかな。それで是非調べてもらいたい人物がいるんだけれど」
「はい・・・」
初めての任務依頼に、くの一はごくりと唾を飲み込む。
本来ならば、その人物の特徴、チャクラの質を詳しく知っていなければ出来ない術だ。
この水晶玉の価値を知っていたからこそ、自分は下忍に採用されたのだと、彼女もよく理解していた。

 

「そ、その人物は、どのような・・・」
「木ノ葉隠れのくの一だよ。彼女はあの隠れ里の忍び達の心をほぼ手中に収めていて、その影響力は同盟国の風の国にも及んでいるらしい。一声かければ、5千の兵は確実に集まるとも言われている。そういうわけで、大蛇丸様も彼女のことは随分と気にかけていらっしゃるんだ」
「五代目火影、綱手ですね!」
“木ノ葉”の名を聞き、思わず口をついて出たその名前はカブトによって否定される。
「いいや。彼女に比べれば・・・、あの火影はまだまだ小粒だよ」

首を振るカブトの一言に、音隠れのくの一は目を見開く。
一つの隠れ里の長以上の実力を持ち、大蛇丸やカブトが“遠眼鏡の術”を使ってまで動向を知りたいと思っている存在。
同じ忍びの仕事をする者として、どのような人物なのか、非常に興味をそそられた。

 

 

 

 

「やったわ、成功よ!」
思わず歓声を上げたサクラの視線の先では、つい先程まで瀕死状態だった鼠が元気に動き回っている。
火影から直々に教えを受けているおかげか、サクラの力は飛躍的に向上していた。
チャクラのコントロールに気を配る大変な術だが、実践的な戦闘よりは遙かに向いているようだった。
鼠を籠の中に戻したサクラは、机の上にある書物へと目を向ける。

「火影様が来る前に、図書室に戻しておかないと・・・」
洗面台で手を洗い、返却する本を確かめていたサクラは、扉をノックする音に振り向いた。
「はい、どうぞ」
「おはようー」
挨拶と共に入ってきたのは、綱手の仕事の補佐している中忍のイズモとコテツだ。
サクラの修行部屋が火影の執務室と隣接していることもあり、彼らは頻繁に顔を見せている。

「これ、差し入れ。よかったら」
「いつも有難うございます」
中華まんと杏仁豆腐の包みを見たサクラは、嬉しそうに笑ってそれを受け取る。
毎日やってくる彼らのおかげで、サクラは昼の弁当を持ってきたことがなかった。
サクラの機嫌が良いことを察した彼らは、さっそく本題へと入る。

「あの、映画のチケットが手に入ったんだけれど、次の休みに一緒に行かない?」
「え?」
差し入れの包みの上に映画のチケットを置かれ、サクラは口籠もった。
「でも・・・・」
「三人一緒だから、別にデートの誘いとか、深い意味じゃないよ。大丈夫」
戸惑っているサクラに、二人は必死に笑顔を作って言う。
もちろん、「あわよくば恋人関係に・・・」と考える彼らだが、サクラがどちらを選ぶかは誘い出した後で決めればいい。

 

「・・・・じゃあ」
「ちょっと、そこ!!何をしている」
いい雰囲気になったとたん、乱暴に扉を開けて乱入してきた綱手に、イズモとコテツは顔色を変えた。
「あの、こ、これは・・・」
「前にも言っただろう!私の弟子にちょっかい出すな!!」
ずかずかと足を踏みならして近寄ると、綱手はサクラの手から奪ったチケットを引きちぎる。
そして、唖然としているサクラを力強く抱きしめた。

「サクラ、あんたは昔の私に似て可愛いんだから、もっと注意しないと駄目だよ。欲しいものがあれば私が持ってこさせるから、何でも遠慮無く言いな」
「ほ、火影さま・・・・苦しい」
綱手の豊満な胸に圧迫され、息の出来ないサクラは両手を動かして必死に訴える。
男性ならば喜ばしい状況だが、きわめてノーマルな思考の持ち主であるサクラには辛いだけだ。
サクラは度々こうして抱きしめられるが、火影が相手では強いことを言うわけにもいかなかった。

 

「サクラーー」
混乱する中、次に扉を開けて入ってきたのは、サクラの元担任であるカカシだ。
「あれ・・・・何だか人口密度高い?」
サクラの周りに集まる人々を見たカカシは、まずイズモとコテツをどかし、次に綱手から彼女の体を解放した。
「サクラ、帰りに毎日うちに寄るように言ったでしょう。何で昨日来なかったのさ」
カカシに両肩を掴まれて問いただされたサクラは、伏し目がちに呟く。
「・・・えっと、買い物をしていたら遅くなっちゃって」
「あんた、サクラとそんな約束していたの!?」
「ずるいです!!」
騒ぎ出した綱手達を、カカシは睨み付けた。

「サクラは俺の部下なんですから、当然でしょう!」
「他の部下二人に逃げられたくせに」
言葉に詰まるカカシに対し、綱手はさらに追い討ちをかける。
「大体、サクラを私に推薦したのはあんたじゃないの。もうサクラは私の弟子なんだから、私の所有物だよ」
「火影様がサクラを独り占めするとは思わなかったんですよ!俺はいつだってサクラのために行動しているのに・・・」
「お、落ち着いてください。そもそも、彼女は誰のものでもなく、自由に行動する権利があります。だから、俺達と映画に行ってもいいはずでしょう」
「映画!?何の話だよ、それ」

カカシと綱手の討論は、イズモとコテツも交えてさらに白熱していく。
机の上の本を持ち上げたサクラはこそこそと部屋から出たが、誰も気付くことはなかった。

 

 

 

「・・・何でみんな仲が悪いのかしら」
本を抱えるサクラは小さくため息を付く。
とぼとぼと廊下を歩くサクラは、向こうからやってきた中忍を見るなり顔を綻ばせた。
「イルカ先生!」
「おお、サクラ」
授業を終えたばかりなのか、出席簿を持つイルカはサクラと目が合うとすぐに駆け寄ってきた。
「重そうだな。手伝うよ」
「えっ」
サクラが返事をする前に、イルカは5冊ある本のうちの4冊を手に取る。

「図書室までだろ」
「そうですけど、イルカ先生は、これから・・・」
「昼休みまで自由時間だよ。そうだ、これを運んだら一楽にラーメンを食べに行こう」
にこにこと笑うイルカを見上げるサクラは、釣られたように微笑む。
いなくなったナルトの代わりなのか、サクラは最近よくイルカと一楽に寄っていた。
昨日、カカシの家に行かなかったのもイルカと一緒にいたからだ。
サクラが出入りしている部屋の前を、イルカが毎日遠回りをしてうろついていることを彼女は全く知らない。

 

「はっ!!」
突然、険しい表情で振り向いたイルカに、サクラは目を丸くする。
「先生?」
「・・・今、物凄い殺気を感じたような」
きょろきょろと周りを見回したサクラは、不思議そうに首を傾げた。
「気のせいじゃないですか。誰もいないみたいだし」
「・・・・そんなはずは」
注意深く辺りを窺うイルカに、サクラは苦笑する。
「イルカ先生ってば、中忍なんだからもっとしっかりしてくださいよー」
「あ、ああ」
サクラに促され、再び歩き出したイルカだったが、誰かに見られている感覚はいつまでも消えなかった。

 

 

 

 

「うーん、あの中忍は抹殺リストに入れておかないと・・・」
水晶玉の映像が途切れるなり、せっせとメモを取り始めたカブトを見上げて、音隠れのくの一は顔を引きつらせている。
「あの、調べて欲しい人物って、彼女ですか?」
「そう。春野サクラ、大蛇丸様もお気に入りの、木ノ葉隠れの里で一番の要人。あの微笑み一つで何人もの忍び達の人生を狂わせる、一騎当千の凄腕くの一だよ」
「・・・・よく分かりませんが、それほどの人材ならば攫って来ればいいんじゃないですか?」
「そうはいかない。春野サクラは木ノ葉の至宝だ。彼女は気づいていないけれど、その周囲は常に腕利きの忍び達が守っているんだ。彼女に手を出そうとして、何人の音隠れの仲間が命を落としたことか・・・」
「はぁ・・・」
「彼女を侮ったらいけないよ。ほら、これは木ノ葉で一番の発行部数を誇っている“月刊:サクラ通信”。隠し撮りをした彼女の写真が満載で、今月号は特別付録のSAKURAバンダナが付いてくる」
「・・・・・・」

無言になったくの一は、サクラの笑顔が表紙になった雑誌を見ながら思う。
近頃、大蛇丸が付けていた奇妙なピンク色バンダナはこの付録だったのかと。
「風の国でも発売が開始されたようだし、うちも負けていられないと大蛇丸様が息巻いていたよ。同じ班で活動していたサスケくんのスカウトにも上手く成功したし、彼が持ってきたサクラ嬢のレア写真で写真集を発行しようと思っているんだけれど」
熱く語り出したカブトから顔を逸らし、音隠れのくの一は言いたい言葉をすんでの所で呑み込んだ。

 

・・・・馬鹿ばっかりだわ。


あとがき??
最初はカカシ先生とサクラの真面目な話を考えていました。
しかし、途中でどうにも筆が止まり、180度路線を変えさせて頂きました。
サクラが綱手姫に弟子入りしたことを記念したお祭りなので、それにちなんだ話を書こうと思ったのですが・・・・。
スランプ中なため何とも不出来なSSになってしまい、申し訳ございません!
他の方々の素敵な作品、楽しみにしています。
主宰のまゆさん綾乃さん、楽しいお祭りを開催して頂いて、有難うございました。


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