なんでもお見通し〜♪
三代目火影の趣味は骨董品の収集だった。
彼が死んで以来、遺品の整理を手伝っていた木ノ葉丸は、箪笥の奥に眠っていたその箱を見つける。
厳重に鍵がかけられていたことから、よほど高価な品なのだと思った。
だが、出てきたのは壊れかけのレンズの厚い眼鏡一つ。
がっかりとした木ノ葉丸だったが、火影所蔵の品がただの眼鏡のはずがない。
一緒に入っていた、その眼鏡の使い方とおぼしき紙切れを見るなり、木ノ葉丸は目を丸くした。
「人の心が見える眼鏡―!!?」
「うん、木ノ葉丸が貸してくれたんだってばよ。まず、俺に使ってみてくれって」
ナルトと師弟関係を結ぶ木ノ葉丸は、とっておきの宝物を彼に献上したつもりらしい。
牛乳瓶の底のように厚い眼鏡を見るサスケは、怪訝な表情だった。
「サクラちゃんに最初に見せてあげようと思ったんだけど・・・・遅いなぁ」
言いながら、ナルトはきょろきょろと辺りを見回したが気配は微塵もない。
いつも7班の集合場所に一番にやってくるサクラは、今日にかぎって遅刻しているようだ。「しょーがないから、ちょっとお前でためしてみるか」
「え・・・」
サスケが振り向く前に、眼鏡をかけたナルトは彼の姿をじっと見据えた。
そして、その顔はあっという間に驚愕のものに変わる。
「さ、サスケ、お前・・・・」
「やめろ!!!!言うな!!」
「でも・・・・、お前」
ナルトが真剣な表情でにじり寄ると、サスケは同じ距離だけ後退った。全てを見透かすナルトの真っ直ぐな眼。
何もやましことなどない。
そのはずなのに、彼が何を言い出すか、とてつもなく怖い。
自分自身さえ知らない何かを言い当てられそうな、妙な恐怖があった。
「み、み、見るな、そんな目で俺を見るなーーー!!!」
「あ・・・・」
ナルトが手を伸ばすと、絶叫したサスケは一目散に駆け去ってしまった。
その場に一人佇むナルトは唖然として彼の後ろ姿を見つめる。「チャック全開だって、教えてやろうと思ったのに・・・・」
気配が完全に消えてしまった今では追うことは無理だ。
サスケを見た瞬間にそのことに気づき、心を見るどころではなかった。
一体、サスケは胸の内でどんなことを考えていたのか。
非常に気になるナルトだった。
「心が見える眼鏡ねぇ・・・・」
やがて現れたサクラにナルトは事情を説明したのだが、すぐには信じてもらえない。
「火影のじっちゃんの持ち物だし、絶対本物だよ。まず、かけてみてよ」
「んー・・・」
見たところただの眼鏡だが、人体に害があるようには見えなかった。
半信半疑のサクラはナルトの言うまま、それをかけてみる。
そこにタイミングよくやってきたのは、7班の担任であるカカシだ。
「おはよー」
イチャパラを読みながら歩いてくるカカシの声を聞いて、サクラは反射的に振り返る。「あれ、サクラどうしたの?眼鏡なんて萌えなアイテムつけちゃって」
首を傾げたカカシはサクラと目が合うとにっこりと笑いかけた。
すぐに笑顔が返ってくると思ったカカシだが、彼を見上げるサクラの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「カカシ先生の馬鹿!エロ上忍!!!不潔よーーーーー!!」
「あれ・・・」
肩に置かれたカカシの手を振り払うと、サクラは涙目で叫ぶ。
そのままサクラは先ほどのサスケと同じように走り去り、あとにはカカシとナルトだけが残された。「サクラ、どうしたの?」
「・・・カカシ先生、サクラちゃんのこと見て、どんなこと考えた?」
「えー、可愛いけど胸がもうちょっと欲しいなぁとか、これからどうやって大きくしてあげようかなぁとか、その方法をいろいろと」
「・・・・」
サクラが放り出した眼鏡を拾うと、ため息をついたナルトはそのまま座り込む。
下忍が一人のみでは、今日の任務は延期にした方が良かった。
「木ノ葉丸に早く返した方がいいな・・・」
眼鏡を持つナルトはいそいそと木ノ葉丸の家へと向かう。
最初は面白そうだと思ったが、どうやら騒動の種となるアイテムだったようだ。
なまじ人の心など覗かないほうが平和なのかもしれない。決意を固めたナルトは、通りの向こうにいるイルカを見つけると嬉しそうに顔を綻ばせる。
丁度腹が減ってきたところだ。
木ノ葉丸の家に行く前にイルカと“一楽”に寄る時間は十分にある。
「イルカ先生なら、清い心の持ち主だからきっと大丈夫だってばよ」
笑顔のナルトは軽い気持ちで眼鏡をかけた。
ナルトにとって彼は父親同然の存在。
何が見えても、ナルトのイルカへの信頼が揺らぐはずがなかった。
「あれ、ナルト!」
蹲るナルトに気づいたイルカはすぐに彼の元に駆けつける。
だが、ナルトは全くの無反応だ。
「どうしたんだ、こんなところで。具合が悪いのか?」
心配そうに訊ねるイルカだったが、その声はナルトの耳に届いてない。
「人間なんて・・・・」
涙ながらに呟くナルトの声には絶望の響きがあった。
あとがき??
ナルトは一体、何を見たのか・・・・・。
永遠の謎です。
純粋そうな人にかぎって、腹黒だったら怖いなぁ。
何気にカカサクが入っているのは個人の趣味。