深淵


オビトが死んで以来、毎日、彼の名前が刻まれた碑の前で懺悔する。
もう二度と、過ちを繰り返さないために。
赤い瞳は罪の証だ。
自分の顔を鏡で見るたびに、オビトの死を思い出さずにいられなかった。
先生やリンと仕事をしていても、以前のような雰囲気はない。
班の中の明るい空気は、彼によって作られていたのだと、いなくなって初めて気付いた。

 

 

「・・・・先生は強いですね」
「ん?」
慰霊碑を見つめながら、自分の背後に立つ先生の気配に、自然と呟きがもれた。
あるいは、非難が混じったものだったかもしれない。
こうして碑に刻まれたオビトの名前を眺めているだけで、心が震える。
外見だけでも平静でいられるようになったのは、随分と時間が経過してからだ。
それまでは、彼の偲ばせる物を見ただけで、悲しみに胸がつぶれそうだった。

だが、自分とは対照的に、先生はそうした姿を微塵も見せない。
オビトの死を含め、火影に淡々と任務報告をする彼を横目に、本当に人の血が通っているのかと疑問に思った。
無惨なオビトの遺骸を目にしても、盛大に行われた葬儀の席でも、先生は冷静そのものだ。
教科書で教えられたとおり、何があっても取り乱さず、忍びの鏡のような存在。
頭では分かっていても、納得は出来るはずがない。
冷たい人だと思った。

 

「先生はオビトのことなんて、もう忘れちゃったみたいだ」
言葉と共に、皮肉げな笑いを口元に浮かべて振り返る。
案の定、先生はいつも通り、柔和な表情で自分を見つめていた。
だが、それも一瞬のことだ。
「そう、見える?」

 

 

 

 

「そう見える?」

 

頭の中で、繰り返し、繰り返し、リフレインする。
自分はどうしてあんなことを言ったのだろう。
あのときの、先生の顔。
たぶん、一生忘れられない。

 

 

 

 

「見えないや」

 

十年以上経過してからの返事に、前を歩いていたナルトとサクラが振り向いた。
「えー、何か言った、先生?」
「・・・何も」
すぐに駆け寄ってきたナルトの頭を撫でながら言う。
ナルトもサクラも、掛け替えのない、大切な生徒。
彼らを守るためならば、この身を犠牲にしても構わなかった。
たぶん、先生も同じ気持ちだったのだ。

自分の生徒の死を、どれほど悔やんだことだろう。
あのとき、先生は次代の火影として期待を担っていた。
悲しみに打ち拉がれていたも、けして人前でそれを見せてはいけない。
上の人間の動揺は、下の者にも伝染するのだ。
先生の落ち込んだ姿を見ていたら、自分も立ち直ることが出来ず、リンも長く思いを引きずっていたことだろう。

泣くことの出来ない先生に、自分の言葉はどれだけ辛辣に聞こえたか。
考えただけで胸が塞がれる。

 

「ねーねー、先生、一楽のラーメン食べて帰ろうよ」
「いいよ」
簡単に答えると、ナルトとサクラは揃って目を丸くした。
「珍しい」
「いつも逃げちゃうのにねぇ」
顔を見合わせる二人に思わず眉間に皺が寄った。
「何だよ、食べたくないの」
「「食べたい」」

笑顔を浮かべた二人を見て、自然と自分の顔にも笑みが広がる。
オビトと違い、サスケは生きているのだ。
残る一人の生徒を助け出すためにも、暗い顔をしている暇はない。
頼もしい仲間に成長したナルト達がいれば、過去のような悲しい結末は避けられる。
そう、願わずにはいられなかった。


あとがき??
単行本を見たら書きたくなりました。
実際、一楽のラーメンを食べたのはイルカ先生とナルトなんですが。


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