サラサラ


上忍であるカカシには、様々な任務が舞い込む。
7班の担任であっても、Aランク任務を優先させて、下忍達に付き合えないときもあった。
そうしたときには、中忍以上の忍びに代任を頼むことを認められている。
その代任であるくのいちのナズナがカカシの元へと抗議にやってきたのは、カカシが深夜に帰宅したあとのことだった。

 

「全く。あなたは下忍達にどういう教育をしてるんですか!!」
「・・・はぁ。すみません」
頭ごなしに叱りつけられ、サクラはひたすら謝罪する。
「あの、それ本当にうちの子達がやったんですか」
「私を疑うんですか!!」
「いえ、そういうわけでは」
カカシはちらりとナズナの傷に目を遣った。

大袈裟な包帯を巻かれた怪我を、ナズナは7班の下忍達にやられたのだと主張している。
だが、カカシは彼らが意味もなくそうした乱暴を働くなど考えられなかった。
興奮したナズナの話だけでは、埒が明かない。

「明日、みんなに厳しく言っておきますから」
「頼みますよ、本当に!」
カカシが申し訳なさそうに言うと、ナズナはようやく踵を返す。
ナズナの苦情を聞いている間に東の空は白々とし始め、太陽はすぐにも顔を出しそうな気配だ。
眠る時間がないと知りつつ、どうしても足を寝室に向けてしまうカカシだった。

 

 

 

「おや、まぁ・・・・」
結局睡眠を取らずに集合場所である橋にやってきたカカシは、下忍達を見るなり絶句する。
ナズナに負けず劣らず、ナルトとサスケも傷だらけだった。
ナズナの方も、黙ってやられていたわけではなさそうだ。
むしろ、彼女よりもナルト達の怪我の数が多そうに見える。

「なーにがあったのさ。昨日」
「・・・・」
何か言いかけたナルトだったが、隣りのサスケに肘で突かれ、押し黙る。
ナルト達の顔を眺めてため息を付いたとき、カカシはサクラの様子がいつもと違うことに気づいた。
「あれ、サクラ。どうしたの、帽子なんかかぶっちゃって」
「あ!」
とっさに頭に手を遣ったサクラだったが、すでに帽子はカカシの手の内にある。
帽子にかくれていた彼女の髪があらわになった瞬間、カカシは驚きに目を見張った。
「・・・もしかして、喧嘩と関係ある?」
一昨日まで均等な長さだったサクラの髪の右脇が、不自然に切り取られている。
瞳に涙を滲ませたサクラに、それが昨日の騒ぎに係わっていることは一目瞭然だった。

 

 

 

全ては、サクラの長い髪にナズナが文句をつけたのが発端だ。
カカシの代理として現れたナズナは、何の前触れもなく、サクラの髪に刃物を当てた。
何をされたのか、サクラはすぐに理解できない。
目を丸くするナルトやサスケを見て、初めて自分の髪を切られたのだと分かった。

「あ、危ないじゃないか!何するんだよ!!」
「任務の邪魔です。髪を気にしているようでは、偉くなれませんよ」
「上忍には、伸ばしている奴もいるだろう」
握り拳を作ってナズナに食ってかかったナルトに、サスケも加勢するように口を挟む。
自分を睨み付けてくる二人を、ナズナは鼻で笑った。

「でも、あなた達は下忍でしょう。上忍になれたのだったら、髪を伸ばそうがどんな服を着ようがとやかく言いませんよ。私はちゃらちゃらした見かけの忍びが許せないんです」
「それなら最初に口で言えばいいだろ、おばさん!!あんた、そんなんじゃ絶対彼氏いないだろう!」
ナルトの最後の一言に、ナズナの眉がぴくりと動く。
そのあと、ナルトに攻撃をしかけたナズナにナルトが応じ、その日は任務どころではなくなったというわけだった。

 

 

 

「可哀相に・・・・」
事情を聞き終えたカカシは、サクラの髪の短くなった部分にそっと触れる。
切られた髪は、どんなことをしても戻らない。
サクラがどれほど髪を大事にしていたか知っているだけに、7班の面々はいたたまれない気持ちだった。

「そういえば、ナズナ先生、恋人と別れたって噂だなぁ。確か、彼氏が浮気したんだったよ。サクラと同じ、桃色の綺麗な髪の女の子と」
「そんなの私怨じゃんか!」
腰に手を当てたナルトは、不満げに言う。
「まぁ、下忍達の風紀が乱れてるってのは、先生達の間で話題になっていることだよ。ナズナ先生の行動は極端だったけど、また何か言ってくる人がいるかもね」
てくてくと歩みを進め、橋の欄干に腰掛けるとカカシはサクラを手招きした。
「サクラ、おいで」

近づいてきたサクラに後ろを向かせたカカシは、取り出した櫛で彼女の髪をとかし始める。
「先生?」
「邪魔だって言われないように、俺が結ってあげる」
「え、い、いいわよ、そんな」
思わず逃げようとしたサクラの肩をカカシが捕まえた。
「遠慮しないで。俺、なかなか器用なのよ。えーと、こうやって・・・・・・できた!」
サクラの髪を高く結い上げると、カカシはにっこりと微笑む。
本人が器用だと自称するだけあって、うまく髪のなくなった部分が分からないようにしてあった。

「毎朝結ってあげるからねv」
「じ、自分でできるわよ」
「俺がやってあげたいんだよ」
カカシは笑顔のままサクラの頭を撫でる。
カカシが座っていることで近くなった目線に、サクラの顔は自然と赤くなった。

「ナルトとサスケも髪を伸ばしたいんだったら、俺が結ってやるぞ」
「いや、いい」
「俺も」
普段の仲の悪さを感じさせず、二人は揃って首を横に振っている。
その様子に思わずカカシが苦笑すると、サクラも釣られたように微笑を浮かべた。
沈んだ表情のままだったサクラの初めての笑顔に、一同ホッと胸をなで下ろす。

 

「でも、先生も本当は髪は短くした方がいいと思う?」
「いや、別に」
サクラがおずおずと訊ねると、カカシは首を傾けた。
「サクラが伸ばしたいなら、伸ばせばいいよ。人に迷惑をかけていないなら、俺は髪型も服装も何でもいいと思ってる」
「じゃあ、俺が突然坊主頭になったり、女装してきたりしても何も言わない?」
「何があったかは気になるけどね」
ナルトの突拍子もない発言にカカシはくすくすと笑い声を立てる。

「だって、人の言われるままに自分を変えていったら、何が自分だか分からなくなっちゃうんじゃないか」
「・・・えーと」
難しい顔をしたサクラの頭に、カカシはぽんっと手を置く。
「サクラはサクラでいればいいってことだよ」

 

 

 

それからサクラの髪結いはカカシの日課となった。
どんなに遅刻しても、任務前にサクラの髪は綺麗に整える。

「カカシ先生、もしかして忍者じゃなかったら美容師を目指していた?」
「よく分かったね」
暇さえあればサクラの髪をいじるカカシに、彼女は半ば呆れていた。
「実はサクラの髪は前から触ってみたかったんだ。うなじも綺麗だしー」
髪を結い終えたカカシがどさくさに紛れて襟首にキスをすると、サクラは甲高い悲鳴を上げる。
その直後に蹴り出されたナルトとサスケの足を、カカシは軽くかわしてみせた。
「サクラの髪、サラサラで本当に気持ちいいのよ」


あとがき??
ケイ太さんのサイトの『サラサラ』というイラストを見て、サクラの髪をいじるカカシ先生を書きたくなりました。
よって、ケイ太さんに捧げます。(笑)
書き始めたらえらいスピードで完成したので、驚いた作品。
ほのぼの7班(?)のイメージです。


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