新春
「今年の新年会はカカシ先生の家でやるわよーvみんな集まってね」
「「ええーーー!!」」
年が変わって最初の顔合わせの日、突然のサクラの発言にカカシとナルトは同時に声をあげた。
ナルトとサスケのみならず、新年会を行うとされている家主のカカシでさえ初耳だ。
「俺は仕事が・・・」
「次の日曜は休みでしょう。ちゃんとスケジュール調べてあるんだから。チームワークが大事ならこうした集まりだって大切にしないと」
腰に手を当て威厳高に言うサクラには、カカシも反論できずに黙り込む。
そして、何よりも効き目があったのは皆の顔を見回したサクラの言葉だ。
「来た人には私からキスのプレゼントがあります」
当日はきちんと時間通りに全員が集合場所に揃っていた。
「じゃあ、買い物してから先生の家に向かうわよ!」
にこにこ顔のサクラは新年会ということで、正装の和服姿だ。
艶やかな着物を纏って微笑むサクラを見られるだけで十分に目の保養にはなる。
さらには頬に軽くとはいえ、サクラのキス付きの新年会なのだから誰も文句は言えない。「あー、そうそう」
食料を十分に買い込んだあと、サクラは荷物を持ったナルトとサスケを先に行かせてペット用品店に立ち寄った。
買ったのは犬猫でも食べられる甘さ控えめのケーキや菓子だ。
「先生、パックン達もちゃんと口寄せの術で呼び出してね」
「いーけど、何で」
「今年はパックン達の年でしょう。そう思って新年会を企画したのよ」
ケーキの箱を両手で抱えるサクラは、カカシを見上げてにっこりと微笑む。「先生のこといつも守ってくれているんだから、戌年のときくらいきちんとお礼をしないと」
「・・・うん」
サクラの頭に手を置いたカカシは、彼女の心遣いに少しばかり胸が熱くなる。
契約を交わした以上、主人のために働くのは当たり前。
いつの間にかパックン達を忍具の一つのように思っていたことを、深く反省したカカシだった。
サクラの持ってきたおせち料理や町で購入した食材はあっという間に皆の胃袋に収まり、忍犬達を仲間に入れてのすごろくやかるた大会は大いに盛り上がる。
たが、楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうものだ。
夜の9時を回る頃には、サクラとカカシは二人で散らかし放題となった部屋の片づけをしていた。
カカシはナルト達と共に帰っていいと言ったのだが、自分が言い出したことだから最期までやるといって、サクラはそれを拒んだ。
だが、正直なところサクラがいてくれてカカシは大いに助かった。「もー、ナルトってばコップを2つも割っちゃって。今度代わりの物買って持ってくるわね」
掃除機で部屋全体を綺麗にしながら、サクラはぶつぶつと呟いている。
日頃から家の手伝いをよくする方なのか、サクラはカーペットの染み抜きから、床の雑巾がけまで実に手際よくこなしていく。
むしろ新年会を行う前よりも整頓され、別の家に来てしまったかのようだ。
窓枠に指を置いても、塵一つない。「サクラー、そろそろ帰らないとご両親が心配するよ。送っていくからさ」
「うん」
手を洗い流し、持参した割烹着を脱いだサクラはぴかぴかになった部屋を満足げに見回した。
「先生、椅子の周りにあった手裏剣のお手入れセットはまとめてあそこの箱に入れておいたから」
「ああ、そう。有り難う」
「エッチな雑誌はベッドの下に戻しておいたわ。18禁のDVDも元通り「世界名画シリーズDVD」の3番と4番のケースに入ってる」
「・・・・有り難う」
心なし肩を落としたカカシは、いろいろとサクラに弱みを握られたように感じた。
言葉の端端に全く嫌味を感じないあたりが逆に寒い。
「張り切りすぎて、ちょっと喉が渇いちゃった。先生、帰る前に冷蔵庫にあるジュース一つ飲んでいい?」
「いいよー」
外出用のコートを羽織ろうとしたカカシは、冷蔵庫を閉める音を聞きながら、ふと思う。
この家の冷蔵庫に、果たしてジュースなど入っていただろうか。
新年会用に買った物は全て飲み尽くしてしまったはずだ。
「あの・・・、サクラ?」
恐る恐るキッチンに戻ってきたカカシは、倒れ込むサクラを見るなり大きく目を見開く。「サクラ!!」
「・・・・気持ち悪い」
駆け寄ったカカシがサクラを抱き起こした瞬間、彼女の手から落ちたのは酒の入った缶だった。
外側を見ると果実のイラストが描いてあり、ジュースと間違えるのも無理はない。
だが、たった一口か二口で酔っぱらうなど、よほど酒に弱い体質なのだろう。
「吐く・・・」
「えっ、ちょ、ちょっと待って」
床が汚れるのは良いとして、サクラの着ている高価な着物が台無しになったら大変だ。
サクラが移動出来ないならせめてバケツか洗面器を持ってくる時間が欲しい。「帯が・・・苦しい」
「じゃあ緩めてあげるから。もう少し我慢して!」
後ろからサクラの帯を解こうとしたものの、よほど念入りに縛ってあるのかなかなか形は崩れない。
そうこうするうちにサクラの顔色はますます悪くなり、限界が近いとはっきり分かった。
もはや無我夢中だ。
「カカシ先生ー、忘れ物したってばよ。サクラちゃんまだいるー??」
「鍵、あいていたぞ」
扉が開き、どたどたと入ってきたナルトとサスケの声を聞くなりカカシの顔はパッと輝いた。
地獄に仏とはこのことだ。
「丁度良かった!!お前達も脱がすの手伝ってくれ、洗面器でも・・・・・」
振り向いたカカシは、二人が硬直して自分達を見つめていることに気づき、段々と口調を緩やかにしていく。
彼らの視線をたどると、そこには着物を強引に引っ張られてぐったりとするサクラが横たわっている。
酒の缶は転がったままそこに放置され、自分が今、非常に誤解されやすい状況にいることをカカシはこのとき初めて自覚した。「おいおい、二人とも落ち着いて・・・・」
「何やってるのーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「あれか、あれをやりたかったのか!!悪代官が着物の帯を引っ張って女をクルクルさせるやつか!!!そのまま手込めにする気だったな!」
弁明しようとするカカシの声はナルトの絶叫で掻き消され、興奮するサスケはなにやらジェスチャーでサクラの状態を表現している。
「ち、ちが・・・」
「このハレンチ教師め!!!それでも教育者か!!」
「俺達が帰った後にサクラちゃんに無理矢理酒を飲ますなんて、最悪だってばよーー!ひどいーー!!」
サスケは険しい表情でカカシを睨み付け、ナルトは何故かおいおいと泣いて訴えている。
「・・・・吐く」
青い顔で呟くサクラは、現場の混乱など耳に入っていない様子で、必死にトイレを目指して床を這い蹲っていた。
「あれ、カカシ先生。何でそんなに離れて歩いてるの?」
「・・・・サクラの半径3メートル以内に近づかないよう言われたから」
「ふーん?」
翌朝、二日酔いもなくすっきりした顔で任務にやってきたサクラは、酒を飲む前後のことを全く覚えていなかった。
よってカカシの無実を証明することも出来ない。「サクラちゃん、もっとこっち側を歩くってばよ!」
「またエロ教師に狙われるぞ」
「え、う、うん・・・」
首を傾げるサクラは、怪訝な表情をしながらもナルトとサスケにガードされて歩き続ける。
一人ぽつんと後ろを歩くカカシはしくしくと涙を流していたが、常日頃18禁本を持ち歩いていることもあり、全く下忍達には信用されていない。
今後、7班での集まりが家である際は、アルコール類を冷蔵庫に入れておかないこと。
それを心に固く誓い、そっと涙を拭ったカカシだった。
あとがき??
私もサクラちゃんで着物をクルクル「あーれーー」ってやつをやってみたいです・・・。
似たような話ばかり書いていてすみません。