魔法使いの弟子 1


いくつもの小国が寄り集まる木ノ葉大陸では、領土を巡り常にどこかの国が戦争を起こしている。
そんな中、ハルノ一族が治めるハルノ国は珍しいことに20年もの長きに渡って平和を保っていた。
欲のない国王が、防衛のために予算をつぎ込むものの、領地拡大の方にはあまり関心がないためだろうか。
だが、そうしたハルノ国と他国との均衡はある日を境に突然破られることになったのだ。

ハルノ家の唯一の跡取り娘であるサクラの暗殺未遂事件。
彼女に付き添った近衛兵が重傷を負ったが、幸いサクラは無傷だった。
捕らえられた犯人は、尋問をする前に自ら命を絶ったため、首謀者は不明だ。
だが、彼の所持品から渦書き模様の薬入れが発見されたことで、おおよそは予測出来た。
ハルノ家に隣接する国である、ウズマキ家の家紋に間違いない。
サクラを失えばハルノの家系は途絶える。
王位継承問題で揺れるハルノ国に戦を仕掛け、領地を奪い取ろうという魂胆なのだろう。

元々、ウズマキ家とハルノ家は仲が良く、サクラが幼い頃は交流があったと聞く。
だが、聡明だった国王が病に倒れたことから、国は乱れた。
虎視眈々と王座を狙う古参の大臣に政を牛耳られ、他の臣下は皆彼の言いなりになっているらしい。
大臣は自分の意見を聞く者のみを大事な職に就け、少しでも反抗的の者は僻地に追いやった。
病の王は数年の間一度として公の場に姿を見せず、もう殺されたのだと噂されている。

 

 

 

「あんな国、矢でも大砲でも、撃ち込んでやればいいのよーー!!」
「滅多なこと言わない方がいいってばよ、サクラちゃん」
癇癪を起こして叫んだサクラを、茶を運んできたナルトが小声で窘める。
姫であるサクラにこうした忌憚のない意見を言えるのは王と王妃を除いてナルトだけだ。
サクラの話し相手として城に招かれたナルトは、5年前に死んだ彼女の乳母の甥で、なかなか利発な少年だった。

「まだウズマキ国の刺客と決まったわけじゃないし、悪いのは大臣だけで国民に罪はないよ」
「・・・・分かってるわよ」
私室のソファーに腰掛けるサクラはふてくされて顔を背けた。
サクラが激怒しているのは、自分をかばい、入院した少年が彼女の幼なじみだったからだ。
代々ハルノ国に仕える騎士の家系であるウチハ家のサスケは、サクラが片思いをする相手でもある。
彼が止めるのも聞かず、ナルトを連れてお忍びで街に出たサクラはそのとき刺客に襲われた。
養生すれば治る怪我らしいが、自分の身勝手な行動のせいだと思うと、サクラはいくら悔やんでも悔やみきれない。

 

「あ、サクラちゃん、来たみたいだよ」
窓際に立ち、外を眺めていたナルトは庭から続く道を歩いてくる一行に目を留めて言う。
サクラの身辺警護をしていたサスケが入院しているため、代わりの者が国の外から雇われたのだ。
国一番の剣の使い手だったサスケに負けず劣らず腕が立つと評判の男らしい。
武術だけでなく、魔術を操りあらゆる災難から依頼人を守るという。
魔法を使う者は特殊な資格が必要で、“魔法魔術協会”に所属しなければならないが、彼はその中でエリートの部類に入る。
今まで彼が雇われて死者を出した事件が起きたことは一度もないようだ。

「・・・・追い返してやる」
「えっ、何で?」
「もうこっそり城の外に出るなんてことはしないし、ナルトがいれば十分よ。サスケくんが帰ってきたときに居場所がなくなっちゃうわ」
「でもさー、王様も王妃様もサクラちゃんのことが心配なんだよ。“魔法魔術協会”への依頼って凄くお金かかるんだよ」
「知ってるわよ・・・・・・・そういえば、ナルトのお父さんって魔法を勉強していたことがあるんでしょ。あなたは習わなかったの?」
「あれ、俺、そんな話、したっけ?」
話の途中、ドアがノックされサクラは表情を引き締めてその方角を見つめる。
どんなときも、第一印象が大切だ。
ハルノ家の嫡子にふさわしく、気品のある対応をするよう昔から教え込まれている。
そして、びしっと言ってやるのだ。
サスケ以外に、護衛の人間などいらないということを。

 

 

案内の者に連れられ部屋に入ってきたその男は、簡単な挨拶をしたあとに、サクラに向かって頭をさげた。
隠者のようにローブを纏う姿は強いようには全く見えない。
さらには、顔の半分は口元を覆うマスクで隠されているため、表情が殆ど読めなかった。
「あなた、失礼じゃないの!顔を見せなさいよ」
「申し訳ない。私の一族の掟で、素顔を見られたらその相手を殺すか愛するかしないといけないんですよ」
どこか間延びした声で言うと、彼は頭をかきながら続ける。
「姫様はどちらをお望みですか?」
どちらもご免だったサクラは、もう顔について言及しないことにした。
早々に出ていってもらうのだから、どうでもいいことだ。

「名前は?」
「いくつもありますが、故郷に残してきた教え子達にはカカシ先生と呼ばれていました」
「じゃあ、カカシ先生。父と母が何と言ったか分かりませんが、あなたは必要ありません。帰って結構です」
「はあ・・・・・」
カカシは不思議そうに首を傾げたが、サクラは大真面目だ。
目の前にいる男がどれほど強いかは知らないが、サスケ以外の者を護衛として側に置く気はない。
「でも、お給金はもう頂いてしまったので、それは無理です」
「私がいいって言ってるのよ。父と母には私が言っておくから、さっさと出ていって」
「駄目ですよ。私も“魔法魔術協会”ではエリートと呼ばれる者ですから、お金だけもらってさよならってわけにいかないんです」

 

それから30分は押し問答は続いたが、カカシはなかなか頑固だった。
サクラが何を言っても「ご両親に命令されたから」と一歩も引かない。
「言うこと聞きなさいーーーー、馬鹿ーーー!!」
気の短いサクラはすでに気取った物言いをやめ、怒り心頭といった様子でカカシに詰め寄っている。
「・・・・あの、あんまり近くに来ないでください」
「はあ!!?」
突然気弱な声を出したカカシに、サクラは怪訝そうに聞き返す。
「私は女性アレルギーなので、側に異性が寄ってくると気分が悪くなるのです・・・・」
カカシは心底具合が悪そうに青い顔で俯いている。
だが、それならばサクラにとって好都合だ。

「離れて欲しければ、この仕事を辞めるって言いなさいーー!」
「ああー、やめてぇーー」
サクラに抱きつかれたカカシは声だけは弱っていたが、どう見ても顔は笑っている。
さらには彼女の背中に手を回してしっかり抱えているのだから、カカシの言葉は嘘に違いない。
「サクラちゃんってば、人を疑うってことを知らないからなぁ・・・・」
まだ言い合いを続けている二人を眺め、ナルトは小さくため息をつく。
少々怪しい見かけだがそう悪い人間に見えず、サクラをしっかり守れる人間ならば、ナルトにとってそれで十分だ。

 

「ん?」
ふと目が合った瞬間、カカシが自分に笑いかけたような気がして、ナルトは首を傾げた。
妙に意味ありげだったが、彼とは初対面なのだから、そんなはずはない。
魔術を学んだことがあっても父親は魔法使いではなく、ナルトにいたっては魔術に関する書物に触れたこともないのだ。
サクラとじゃれあうカカシはすでに他の人間は眼中にないようで、なんとなくホッとした気持ちでナルトは二人を見つめていた。


あとがき??
サクラ祭りの作品を書く気持ちにならなかったので、ちょっと息抜きでファンタジー。
おまけ
SS用だったのに、長くなったような。
タイトルは別に意味はないです。デュカスですか。
『薬師アルジャン』を読んでいて書きたくなったんですが、内容には全く関係ありません。
続きはあってないようなもの。3分の2仕上がってるのですぐアップできるかと。
・・・・・全部通して読むと、ナルトの話な気がする。
あんまり深いこと考えていない気軽なSSなのです。


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