魔法使いの弟子 2


サクラを捜して中庭をうろついていたナルトが東屋を覗くと、お抱え魔法使いのカカシが丁度彼女にキスをしたところだった。
椅子の背もたれに寄りかかり、全く無防備に寝息を立てるサクラは気づきもしない。
「女性アレルギー」という嘘を見抜いて以来、サクラはすっかりカカシを警戒しているのだ。
もし意識があるときに同じことをすれば、大騒ぎをして彼を突き飛ばすに決まっている。

「カカシ先生、そんなことして、またサクラちゃんに怒られるよー」
サクラに恋する少年としては、いささか衝撃的な光景だ。
ナルトがふてくされた声音で言うと、彼の気配を察していたカカシはようやくサクラから体を離す。
「サクラは怒った顔も可愛いよね」
振り向いたカカシは白い歯を見せて笑い、思いがけず素顔を目撃したナルトは息を呑んだ。
殺すか愛するか、最初に聞いたフレーズがナルトの頭の中をぐるぐると回る。

「あの・・・・、俺、殺されちゃうの?」
「まさかー、先生の息子は殺せないよ。ナルトはまあ、特別ね」
「えっ?」
口元のマスクを戻したカカシは、ナルトににっこりと笑いかけた。
「つい先ほど、私の仲間がお父上の救出に成功したという連絡が届きました。大臣の警戒が強くてなかなか城に入り込めませんでしたが、もう何も恐れるものはないですよ、殿下」
「・・・・・・」
「国王は毒を飲まされて体の自由を奪われていたようですね。今は絶対安静ですが、優秀な医術を使う魔法使いが揃っていますから、すぐ元気になられるでしょう。切り札を失った大臣がどんな手に出るか、暫く様子を見た方がいいかもしれません」

 

突然口調を改めたカカシに目を見張ったが、警戒する必要がないということはすぐに分かった。
カカシの穏やかな笑顔には、ナルトに対しての敵意は微塵もない。
むしろ、ナルトの全てを包み込むような暖かさがにじみ出ているようだ。

「私は昔、貴方の父上に教えを受けたことがありましてね。あの頃、彼は当代一の魔法使いだったんです。兄君が病で亡くならなければ、王位を継ぐこともなかったことでしょう」
「父上が・・・・」
「私がここに来たのは姫の警護というよりも、貴方を迎えに来たんです。お父上と顔がそっくりだからすぐ分かりました」
「んっ・・・」
ふいに声をあげたサクラに、カカシとナルトの視線は椅子で身じろぎする彼女へと注がれた。
さらさらと流れるような桃色の髪が肩から落ち、普段のじゃじゃ馬ぶりを感じさせない、愛らしい寝顔にうっとりとしてしまう。
同時に先ほどのカカシの不埒な行為を思い出し、ナルトは眉をひそめて彼を問いつめる。
「この子にちょっかい出すのも任務のうち?」
「いや、これは想定外」
「・・・・」
父を助けてくれたことは礼を言いたいが、サクラの肩を抱いて頬擦りするカカシを見ていると、どうにも複雑な心境のナルトだった。

 

 

 

「井戸に毒が!!」
「はい・・・・・」
不在中の国王代理として働くサクラの前に跪く使者は、辛そうに顔を伏せている。
ウズマキ国との国境付近で数ヶ月前から流行りだした、謎の疫病。
その原因は人々の生活に欠かすことの出来ない、飲み水に混入された物が原因だったようだ。
老若男女問わず、次々と死者が出ているという報告に、サクラは両手で顔を覆った。
「サクラちゃん・・・・」
傍らにいるナルトは気遣わしげに声をかけたが、サクラは小さく首を振る。
「許せない、許せないよ。私の命が狙われるだけならまだしも、こんなに大勢の人達に危害を加えるなんて・・・」

ウズマキ国からやってきた怪しい商人が夜中に井戸の周りをうろついていたという証言が取れているが、本人はすでに国に帰郷している。
疫病が流行りだしたのが数ヶ月前なのだから、商人を調べても証拠の品はすでに消されているはずだ。
サクラを狙った者が持っていた空の薬入れにも井戸に投げ込んだものと同じ毒物が入っていたと思われるが確証はない。
ハルノ国の国力を減退させようという意図がはっきりとしていても、打つ手がないのが現状だった。

 

「何か、ウズマキ国に乗り込む、しっかりとした動機付けのようなものがあれば・・・・」
会議場に重苦しい空気が広がる中、サクラの脇に控えていたナルトが、一歩前へと踏み出した。
皆の注意を引いたナルトは、周囲を見回しておもむろに声を出す。
「ウズマキ国王の一人息子が国の現状を嘆いて助けを求めてるってのは、理由にならないかな。俺がいれば、こっちが官軍であっちが逆賊だよ」
ナルトの口から出た予想外の提案に、顔をあげたサクラは涙の浮かぶ瞳をぱちくりと瞬かせる。
「・・・・ナルト?」
「俺、本名はウズマキ・ナルトっていうの。これが証拠」

話しながら、上着の裾を掴んで腹部を見せたナルトに、サクラは仰天する。
ナルトの腹部に浮かび上がる、渦巻き模様の痣。
何かの文献で読んだことがあるが、それはウズマキ一族の血を引く者にのみ現れる特徴だ。
そして、ウズマキ・ナルトというフルネーム。
国の名前を名字として使用出来るのは、直径の王族のみと昔から決まっていた。
「えええーーーーーーー!!!お、王子、ナルトが!?」
カカシ以外、その場のいる誰もがすぐには事態を呑み込めず、顔を見合わせて言葉を交わしている。
ナルトは何年も前からサクラに仕え、彼女も使用人として接してきたのだ。
掃除も洗濯も、誰よりも率先してこなしてきたナルトが、突然身分のある者と言われても混乱は増すばかりだった。

「な、何でうちの城に、乳母の甥は!?」
「サクラちゃんを暗殺するよう言われてここに来たんだよ。そうしたら、父ちゃんの命を助けてくれるっていうからさ。でも、俺がいつまで経っても動かないから大臣の奴、刺客を送り込んできて俺をけしかけたりして・・・・。あれは本当はサクラちゃんじゃなくて、隣りの俺を狙っていたんだ。本物の乳母の甥は監禁されてるけど、ちゃんと生きてるから安心して」
最期の言葉にホッと息を付いたサクラだが、まだ大きな疑問が残っていた。
城の誰もがナルトを疑わず、サクラに最も近い場所にいた彼ならば、暗殺もたやすかったはずだ。
それが何故、年々もこうしてサクラの側で安穏たる日々を送っていたのか。

「だって、好きになっちゃったんだもの、サクラちゃんのこと」
皆の共通の疑問に、ナルトは実にあっけらかんと答えたのだった。

 

 

 

恐怖政治を行う大臣に元々人望などあるはずがなく、ハルノ家の後ろ盾を持つウズマキ親子の登場によって形勢は一気に逆転した。
彼に不満を持っていた家臣達が集結し、大臣とその取り巻き達はクーデターが起こって三日後にはその地位を追われることとなった。
王の情けにより殺されることはなかったが、牢に一生涯幽閉され、自由はない。
つい先頃までは贅沢の限りをつくした生活を送っていたことを考えれば、死ぬより哀れな末路かもしれなかった。

 

「本当に良かったです」
「ん、君達のおかげだよ。本当に有り難う」
にこにこと笑うウズマキ国の王は、自分を助けるために尽力した元弟子の魔法使い達を広間に集め、心からのねぎらいの言葉をかける。
大臣によって地下牢に閉じ込められていた国王はあと数ヶ月放置すれば命を失う危険な状態だった。
仲間意識の強い魔法使いの同志達の暗躍なしに、国を救うことは出来なかったはずだ。
王は主だった国の重鎮達を呼び戻し、政情が安定したウズマキ国は再び他国との交流が盛んになっている。
全てがいい方へと転がったはずが、魔法使いの目に、国王の笑顔に少しの陰りが見えた気がした。

「何か、悩み事でもございますか?」
「ああ、いや、ナルトのことで、ちょっとね」
不安げな魔法使いを見つめ、国王は少しだけ寂しげな表情になった。
「せっかく親子水入らずで暮らせると思ったんだけど・・・・。ハルノ家に入り婿するって言って、息子が飛び出していっちゃって」
「ええ!!?ナルト殿下が!」
「んー、でも、サクラ姫にべったりな魔法使いと、すかした近衛兵がライバルで、結構大変みたい」
息子の手紙に書かれた文句をそのまま口にした国王は、困ったように笑った。
サクラにべったりという魔法使いは、国王の昔の弟子でもある。
親しい者を二人も虜にしたサクラ姫とは、どのような人物なのか。
少なからず興味をもった国王だったが、休んでいた間たまっていた仕事の量は尋常ではなく、姫や息子に会いにいける日は遠いようだった。


あとがき??
どこが息抜きなんじゃーーーー!!!ってくらい、時間がかかりました。何でもない話なのに。(涙)
サスケ、不憫な・・・・・・・・。(←一番の感想)
サクラを守ったつもりが、ナルトの代わりに重傷を負い、戻ってきたらサクラに悪い虫(カカシ)がくっついているし。
愛の差がここまで出た話は無かった気がします。
無意味にカカサクラブラブ場面があるのは私の趣味です。
ラブリー王女サクラ、騎士サスケ、王子&愛玩動物ナルト、魔法使いカカシの番外編をいつか書けたらいいと思います。
坊ちゃんのフォローしないとー。
カカサクになりそうな予感ですが。


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