一人暮らし?


サクラがお茶を入れて戻ってくると、カカシは先程見たのと同じ姿勢のまま動きを止めていた。
テーブルに湯飲みを置いてもまるで反応がない。
今まで見たことがないほど真剣な表情だったが、カカシが熱心に凝視しているのはアカデミー時代にいのと撮った写真だった。
頭にリボンを巻いたサクラがはにかんだ笑顔をレンズに向けている。

「先生、日本茶でいいんでしょう」
「あ、ああ、有り難う」
サクラが声を掛けると、カカシは我に返った様子で湯飲みに手を伸ばした。
「何か面白いものでも写っていた?」
「うん。凄く美味しそうだなーーーって思って」
写真立てを元の位置に戻し、えへへっと笑って頭をかいたカカシを、サクラは怪訝そうに見つめる。
いのとサクラ以外に、食べ物など写っていだろうか。

「で、今日は何の用だったの?」
「冷たいなぁ。一人暮らしを始めた生徒が心配で、様子を見に来たのに」
喋りながら、カカシはさりげなく傍らに座るサクラの肩に手を置く。
近頃サクラは綱手に呼び出されることが多くなり、カカシ班で一緒に行動することがめっきり減ってしまった。
数少ない医療忍者はどの仕事でも引っ張りだこなのだ。
優秀な忍びに成長してくれたことは嬉しいが、12の頃からサクラを間近で見守っているカカシにすれば少々寂しくもある。
「わざわざ来てくれて有り難いけど、もう子供じゃないんだし、一人でも平気よ」
「そーかなー」

妙に体を密着させてくるカカシに、サクラは顔をしかめたが、彼は構わず肩を抱いている。
一つの部屋に邪魔はおらず、二人きり。
アカデミー時代のサクラも思わず涎が出そうになるほど愛らしかったが、今が丁度食べ頃だ。
サクラ自身が「子供じゃない」と言っているのだからもう遠慮は無用だった。
他の誰かに摘まれる前に、熟れた果実のようなその唇を奪おうとカカシは顔を近づけていく。
そして、心の中で「いただきますv」と呟いた瞬間だった。

 

「イタッ!!」
ふいに掌に痛みが走り、カカシは反射的にサクラから手を離す。
振り返ると、いつからいたのか黒猫が敵意の眼差しでカカシを見つめ、毛を逆立てていた。
「あ、こら!乱暴なことしたら駄目じゃないの、サスケくん」
引っかかれて血の出たカカシの手を見たサクラはすぐに叱責したが、猫は気にした風もなく顔を背けている。
サクラが猫を飼っていたなど、聞いたことがない。
しかも、名前がサスケだ。

「ごめんね、カカシ先生。いつもは大人しい猫なのに。どうしたのかしら」
「・・・・サスケって名前なんだ」
「うん、やっぱり好きな人の名前を付けるのが定番じゃない」
カカシの問いかけに答えながら、サクラは治癒の術を使ってカカシの傷を治していく。
「ここに引っ越してきてすぐかしら。何だか扉の前でウロウロしていたのよね。餌をあげたら懐いちゃって」
その間も、シャーシャーと威嚇する声をあげる猫は二人の行動に目を光らせている。
どうも邪魔な奴だと睨んだカカシだが、思っていることは同じだったらしい。
カカシが出ていくまでサクラにまとわりつく猫が離れることはなく、結局何も出来ずに帰宅するはめになってしまった。
あわよくば泊まって帰ろうと思っていたカカシにすれば、とんだ番狂わせだ。

 

 

「お前も女なんだから、簡単に男を家に入れるんじゃない!!」
「・・・・すみません」
翌日、久しぶりに七班の集合場所へと向かったサクラは、頭ごなしにサスケに怒鳴られた。
どうやら昨日、任務帰りにカカシを家に入れたことを叱っているらしいが、その理由がサクラにはよく分からない。
むしろ、カカシが自分を気に掛けてくれたことをサクラは喜んでいたのだ。
「カカシ先生ならよく知ってる人だし、別に問題は・・・」
「あれだって一応男だろ!一人で暮らすなら、もっと注意しろ」
「はい・・・・」
何を言ってもサスケの目つきは険しいままで、サクラはしょんぼりと肩を落とす。
それにしても、カカシが家に来たことは誰にも言っていなかったはずだ。
何故知っているのか、ふと疑問に思ったサクラだったが、今の剣幕ではどうにも訊けそうな雰囲気ではなかった。

「おはよー、あれ、どうしたの?」
30分程遅刻して現れたカカシは、元気のない様子のサクラと、自分を睨み付けるサスケを交互に見やる。
「先生ー、サクラちゃんの家に行ったんだって?抜け駆けだってばよ」
横からカカシに声を掛けたナルトも、サスケほどでないにしろ不満げだ。
「何言ってるのよ。お前やサスケの家にだって、いつも様子を見に行ってやってるだろ。同じだって」
「野菜を置いていくのはやめて欲しいってばよー」
両手を上げて抗議するナルトとそれをなだめるカカシを見ながら、サスケの忠告は考えすぎなのだとサクラは思った。
ナルトに対するカカシの言動は生徒思いの優しい教師そのものだ。
正確には、生徒の性別によって対応が微妙に違うのだが、鈍いサクラがそれに気づいた様子は全くなかった。

 

 

 

数日後、懲りずに土産持参でサクラの家を訪れたカカシは、中に入るなり仰天する。
「・・・・増えてる」
「カカシ先生、好きなところ座っていいわよ」
カカシの持ってきたスイカを切るサクラは、振り返らずに声を出した。
そして、カカシの足にすり寄って来ているのはオレンジ色の毛並みの猫だ。
先日の黒猫サスケは、サクラの足下で体を丸めて眠っている。

「あの・・・・、この猫もサクラが飼ってるの?」
「ああ、ナルトのこと」
スイカを皿にのせてやってきたサクラは、にっこりと笑って答える。
「いつの間にか家に上がり込んでたの。人懐こくて、青い綺麗な瞳がナルトに似てるからナルトって名前なのよ」
「・・・・へぇ」
「ナルト、あんたもスイカ食べる?」
サクラの呼びかけに応えて泣き声をあげる猫を、カカシはまじまじと見つめる。
もしや、と思うが、確証はない。
考えてみると、ナルトもサスケも近頃は任務が終わるなりいそいそと家路に就いていた。
彼らは本当に自分の家に帰っていたのだろうか。
それとも・・・・・。

 

「もー、この子達ったら気まぐれで、目を離すとどこかにいなくなっちゃうのよ。夜寝るときはいつも一緒なんだけど」
何気なく呟いたサクラの言葉に、カカシはすぐさま反応する。
「えっ、一緒に寝てるの、猫と!?」
「うん。私、寝相悪いからつぶさないか心配なんだけど、追い出してもベッドに入ってくるの。あっ、ちゃんとお風呂に入れて、綺麗にしてあげてるわよ」
「お風呂・・・・・サクラが体を洗ってくれるんだ」
「そう。あと、舌が肥えてるみたいでご飯は私と同じ物しか食べないのよ」
「へー」
魅力的なサクラの発言の数々に、カカシの心は9割方決まってしまった。
いずれ恋人同士になるとしても、今のうちに疑似体験をしておくのもいいかもしれない。

「サクラさー、もう一匹くらい猫を飼う余裕、ある?」
「え?何よ、突然」
「んー、何となく」
首を傾げたサクラに、カカシは曖昧に微笑んで応える。
一人暮らしの彼女の身辺警護という意味もあるが、サクラに可愛がってもらえるなら、猫の境遇もあながち悪いものでもなかった。


あとがき??
おまけ
SS用だったんですが、長くなったようなので、こっちに移動。
今後、サクラの家に左右で瞳の色が違う、少々年を食った三匹目の猫が混じりそうな感じです。
サスサクのつもりだったんですが、いつの間にかカカサク部分の方が多くなり、ただの仲良し七班になった気がします。
サクラ達は15歳くらい。(サスケは里帰り)


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