夏模様


任務で遠出をした7班が里に戻ると、行き交う人々の様子が微妙に普段と違っていた。
慌ただしい雰囲気で、浴衣を着たカップルが嫌に目に付く。
笛や太鼓の音色、そして道々に飾られた提灯を見て、4人はようやく今日が里の夏祭りの日なのだと気づいた。
8月は仕事に忙殺され、皆「夏休み」という単語とは縁遠い生活をしていたのだ。

 

「今日はこれで終わりでいいんだろ」
にぎにぎしい町の様子に目を細めたサスケは、カカシを見上げて訊ねる。
「うん。俺はこれから報告書を出しに行くから、お前達はもう帰っていいよ。明日は8時に集合ね」
「分かった」
返答を聞いたサスケはそそくさと自宅に向かって歩き出す。
周囲が暗くなればたちまち芋を洗うような混雑になり、この大通りもまともに歩けなくなることは目に見えていた。
そうなる前に早く帰宅しようと思ったのだが、急に腕を引かれてサスケは立ち止まる。
「・・・・何だよ」
「一緒に行きましょうよ、お祭り」
「嫌だ」
自分の腕を掴んでいるサクラに、サスケは間髪入れずに即答した。

「じゃあ、6時にお稲荷さんの鳥居の前ね。ナルトにも伝えておく」
「人の話を聞け!」
「ずっと待ってるから」
にっこりと笑ったサクラは、ナルトのもとへと駆けていく。
少々強引なのは分かっていたが、年に一度の夏祭り、たまには付き合ってくれてもいいはずだ。
賑やかなことが大好きなナルトは祭りの誘いをもちろん
OKし、浴衣を仕舞った場所を考えながら歩くサクラの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「二人とも、ひどい・・・・・」
目的地に向かって歩いていたときの笑顔はすっかり消え去り、鳥居の前に立つサクラは涙声で呟く。
時計を見ると、時刻はすでに6時半だ。
サスケどころか、ナルトの姿も付近にはなく、本当に泣きたくなってしまった。
去年買ったお気に入りの浴衣を身につけ、アップにした髪には蜻蛉玉のかんざしも挿しているのだが、見てくれる人がいないのではいくら着飾っても無駄だ。
盆踊りの会場にはすでに大勢の人が詰めかけ、楽しげな家族連れやカップルを見るたびに、一人で佇むサクラは悲しくなってくる。

「それはさ、サスケくんは無理かもしれないけど、ナルトはちゃんと来なさいよ。明日会ったら、ぶん殴ってやる・・・・」
ブツブツと独り言を繰り返していたサクラは、ふいに肩を叩かれ、期待に瞳を輝かせる。
「ナル・・・・」
「お姉ちゃん、一人なのー」
「もしかして、ふられちゃったのかなぁ」
背後に立っていたのは見たこともない少年達で、サクラはがっかりと肩を落とした。
今日ばかりは忍びの隠れ里も警備が緩やかになるため、近くある村や町から大勢の人々がやってきているのだ。

「あの、人を待ってるので・・・」
「それにしては、待ちぼうけを食らってるじゃないの。ずっとここに立ってるでしょう」
いつから見られていたのかと、頬を赤くしたサクラに少年達はなおも言い募る。
「ちょっとくらいいいじゃん。俺達と遊ぼうよ」
「や、嫌だ、触らないでよ!」
肩に手を置かれたサクラは思わず怒鳴りつけたが、まるで効果がないようで、少年達はにやにやと笑っている。
なおも強引に自分を連れ出そうとする彼らの行動に、サクラは非常に頭に来た。
その気になればくノ一のサクラは一般の少年達を叩きのめすことなど簡単だ。
人目を気にしながらも、どの術を使おうかサクラが考えを巡らせていたとき、少年の手の重みがサクラの肩から消える。

 

「それは、俺の連れだ」
驚いて振り返ると、一人の少年の手を掴んで捻りあげているのは、座った目をしたサスケだ。
もともと人を威圧するような端麗な面立ちの彼が誰かを睨むと、思わず竦んでしまう空気を作り出す。
固まってしまった少年達を押しのけてサクラの手を取ったサスケは、すでに彼らのことを忘れたように人混みを縫って歩き出した。
「サ、サスケくん、何でここに?」
「お前が祭りに来いって言ったんだろ」
呆れたように言ったサスケは何故か怒っているようだった。
待たされたというのに怒られるなど理不尽だと思ったサクラは、視線の先に現れた鳥居を見るなりハッとする。
サクラが先程まで立っていたのは、木ノ葉神社の鳥居だ。
そして、サクラが待ち合わせ場所として指定したのは、稲荷神社の鳥居。

「あっ、サクラちゃん!」
案の定、稲荷神社の鳥居の下で待っていたらしいナルトは、サスケとサクラの姿を見つけるなり駆け出してきた。
「やっぱり向こうの神社の方にいた」
「えーー!」
大きな声を出したナルトに、サクラは深々と頭を下げる。
「・・・・・あの、ごめんなさい」
「会えたから別にいいってばよ。それより」
足を一歩踏み出したナルトは、浴衣を着るサクラを頭から足の先までまじまじと見つめた。
「サクラちゃん、凄く可愛いってばよ!」
「有り難う」
にこにこと笑うナルトに釣られて、しょんぼりしていたサクラも微笑みを浮かべる。
そして、自然と二人の目はサスケへと向けられた。
きらきらとした瞳で自分を見るサクラにたじろぎながらも、サスケは咳払いをして声を出す。
「・・・・似合ってる」

 

 

 

射的に輪投げに金魚すくいに綿飴。
思う存分遊んだ3人は、サクラを真ん中に、手を繋いで帰路に就いていた。
もう人波に揉まれてはぐれる心配はないのだから放しても構わないのだが、誰も何も言わないためそのままになっている。
サクラの巾着にはナルトとサスケが取ったゲームの景品がぎっしりと詰まっていた。
明日になればゴミ同然になると思われるがらくたばかりだが、今のサクラには何よりの宝物だ。

「楽しかったね」
「ねーー」
小首を傾げてナルトと一緒に微笑みあったサクラは、サスケにも笑顔を向けた。
「来年も、また3人で行こうね」
「・・・・ああ」
少し掌に力を込めたサクラに、同じように握り返して応える。
簡単な口約束のはずが、サクラの瞳にはそうは思えない力があるような気がした。
空に瞬く星の下を歩きながら、ナルトとサクラは明るい声音で会話を続けている。
たまに話をふってくるサクラに頷くサスケは、来年も一緒にいられることを一番強く望んでいるのは、たぶん自分なのだと思った。


あとがき??
サスサクナルということしか指定がなかったので好きに書かせて頂いたのですが、非常に楽しかったです。
今、頭がサスサクモードなため、前者の方に力が入ってしまったような・・・・。
とにかく、この3人が可愛くて凄く好き、という気持ちが伝われば幸いです。
長々とお待たせして、申し訳ございませんでしたーー!!!(>×<)

477999HIT、あめ様、有り難うございました。


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