砂の友


「おはよーー」
「!?」
早朝、ゴミ出しのためにサンダルをひっかけて外に出ようとしたサクラは、扉の前に立っていた人物に目を丸くする。
丁度チャイムを鳴らそうとしていたのか、カカシがにこにこ顔で手を振っている。
朝の苦手な彼が何故こんな時間にここに、いや、それ以上に今は非常にまずい。
引きつった笑みを浮かべたサクラは、考えるよりも先に体を動かしていた。
「え、何で?!」
少しの間を空けてから閉じられた扉に、今度はカカシの方が驚きの声をあげた。
「えーと、今、起きたばかりなんでノーメイクなんです。また後で来てください」
「メイクなんていつもしてないじゃない。それより何か食べさせてよ。夜勤明けで腹ペコなんだ」
「斜め前の喫茶店はモーングやっていますよ。そっちでお願いします!」
扉を背に立つサクラは強い口調で主張する。
別にやましいことはないのだが、彼が見たら絶対に大げさに騒ぐであろうものが部屋には存在していた。

「なるほどー・・・・そういうわけ」
今度は部屋の中から聞こえてきた声に、サクラはぎょっとする。
いったいどんな術を使って侵入したのか、敷きっぱなしになっている来客用布団の前でカカシが突っ立っていた。
そこで無防備な寝姿をさらしているのは、おそらく現在里で一番の賓客だ。
「で、何で風影様がサクラの家で熟睡しているわけ?」

 

 

 

「おかわり」
「はい、はい」
我愛羅に米を盛った茶碗を差し出すと、サクラは再びカカシに向き直った。
「だから、先生が勘ぐるようなことは何もないんだってば。私達はお友達なの」
「へー・・・」
ちゃぶ台を境にサクラと向かい合うカカシは、彼女の隣りで黙々と食事を続ける我愛羅を半眼で見つめる。
いつのことだったか、サクラは仕事帰りに迷子になった我愛羅に遭遇した。
聞けば腹が減っているらしい。
近くの飯屋は全て閉店の時間だったため、サクラは徒歩一分もしない距離にある自宅に招いて簡単な手料理をご馳走した。
以来、彼はここに居ついている。
里の長である彼には豪華な宿も用意されているだろうに、木ノ葉隠れに来る用事があると連絡も無くひょっこりと顔を出す。
無碍にも出来ずサクラが持て成しているというのが現状だった。

「っていうか、食事はともかく泊めないでしょう、普通。一人暮らしの女の子の家に」
「食べたらすぐ眠くなるお子様体質らしくて、一度寝ると朝まで起きないんですよ。しょうがないじゃないですか」
「そんなこと言って、何か間違いが・・・」
「おかわり」
我愛羅の茶碗が差し出され、再び話は中断した。
「ああ、はいはい」
一応、焼き魚と煮物と漬物、ご飯に味噌汁といった定番の朝食メニューはカカシとサクラの前にも置かれている。
だが、この場で平然と食事をしているのは我愛羅だけだ。

 

「俺はサクラを心配して・・・」
「よけいなお世話ですよ。我愛羅さんは先生と違って紳士ですから問題ないです」
「ちょっ、何、その言い方!恩師に向かって」
「おかわり」
空気を読まずに繰り返される合いの手に、カカシの堪忍袋の緒もついにぶち切れる。
「早いって!さっきからおかわりおかわりって、何杯食べるの君は!!」
「・・・・」
しかられたと思ったのか、無表情ながら多少しょんぼりしたように見える我愛羅の姿に、今度はサクラが目を吊り上げる。
「先生の鬼、横暴よ!!彼を誰だと思っているわけ、風影様よ、風影様!国際問題なんだからね」
「うっ・・・・」
その若い外見から、ついサクラと同じように接してしまうが彼はれっきとした里長だ。
そして本気で戦えば、カカシを圧倒する力を持っている。
会議の席では他を威圧する空気を持っているというのに、サクラの隣りにいる今は借りてきた猫のように大人しいのが不思議だ。

「じゃあ、二人の間には本当に何もないのね」
「・・・・・・・」
「・・・・・何、この間は」
「一緒に風呂に入った」
「ギャーーー!!」
視線をさまよわせるサクラに代わって答えたのは、それまで傍観者に徹していた我愛羅だ。
叫び声と共に我愛羅の口をふさぐサクラを、カカシはぽかんとして見つめる。
「風呂?」
「ちちち、違うんです!寝ぼけた我愛羅さんが間違って私のいるお風呂場に乱入しただけで、一緒に入ったわけじゃあ・・・」
「お風呂でばったり遭遇ハプニング!!!?なんてうらやましい!!」
思わず立ち上がったカカシの声が一オクターブ高くなる。
「俺もここに住む!それならもううるさいことは言わない!!」
「出てってください」

 

 

それから、ぽいっとゴミ袋と一緒に家の外に捨てられたカカシは、しくしくと涙しながら職場に舞い戻った。
このまま帰っても到底安眠できそうにない。
サクラの様子から、どうやら二人はまだ清い関係のようだが、これからどうなるかは分からないのだ。
何とか国際問題になることは避けて、サクラから我愛羅を遠ざけるにはどうすればいいのか・・・。
悶々と考えながら上忍専用控え室に入ったカカシは、その場にいた全員の視線をいっせいに浴び、思わず後退りをした。
「え、何?」
「お前の生徒も、なかなかやるなぁ」
「木ノ葉新聞の一面を飾るなんて、なかなか出来ないよ」
「えっ、えっ??」
口々に言われ、戸惑うカカシに上忍の一人が新聞を差し出した。

『風影様の恋人は、木ノ葉隠れの里の医療忍者?』
記事の見出しと写真を、カカシはげんなりとした顔で見つめる。
近頃大きな事件が全くなかったため、やけに広いスペースを使った記事だ。
隠し撮りをされていることも知らず、写真の中のサクラは我愛羅の隣りでにこにこと笑っている。
「・・・言わんこっちゃない」


あとがき??
とくに続きはありません。どうなるんだろうこれ、カカサクか、我サクか。
以前書いた我サクとちょっと繋がっているような感じですね。
拍手用SSでしたが長くなったのでこっちに。


戻る