猫耳なんて、萌えちまえ!!


「あったまおかしいわよ、絶対」
あくまで否定的な意見のサクラは、店内の壁に貼ったポスターをうっとりと眺めるいのに、顔をしかめながら言った。
今、いのは巷で人気のアイドル、南十字輝に夢中だ。
歌とダンスが得意で、白い歯が輝くさわやかな風貌はサクラも確かに好ましく思っている。
問題は、彼が頭部に付けているものだ。
「猫耳よ、猫耳。男のくせに頭にあんなものくっつけて、馬鹿みたい」
「えー、それがチャームポイントで可愛いんじゃないの〜〜。萌え系の猫耳王子様v」
すでに聞く耳は無いらしく、いのはポスターに向かって両手を合わせて目をハートの形にしている。
つい最近までサクラと一緒になってサスケを追い掛け回していたというのに、南十字輝以外は眼中にないらしい。
腕組みをしてため息をつくサクラは、ライバルが減って嬉しいというよりも、妙に寂しいような気持ちになってしまった。

 

「あ、いらっしゃいま・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・いの?」
口を開けたまま固まったいのを怪訝そうに見たあと、サクラは彼女の視線を追って振り向いた。
一人の男性客が花屋に入ってきただけで、他におかしな点はない。
その顔に見覚えがあるような気がしたサクラは、男性客と壁に貼られたポスターを見比べたあと、いのと同じように目と口を大きく開ける。
しがない商店街の花屋に、いるはずのない人物が、そこに佇んでいた。
「こんにちは。電話で注文した花を取りに来たんですけど」
言葉と共に彼の白い歯がきらりと光り、サクラは思わず片目を手で覆う。
そのまま目を擦ってみたが、ポスターから抜け出たような凛々しい立ち姿は、南十字輝に間違いなかった。
つい今しがた話題になっていたアイドルの登場に、二人の思考が止まってしまったのも無理はない。

「わ、わ、私、大ファンなんですーーー!!!」
「い、いの・・・」
「サイン、サインを頂けますか!!」
我に返ったいのがどこからか持ち出した色紙を持って駆け寄ると、慣れているのか、南十字輝は愛想良く微笑んだ。
変装のための帽子とサングラスを装備していてもスターのオーラは隠しようもない。
とにかく、彼の周りだけきらきらと輝いているように見えるのだ。
今まで会ったどの人物とも違う、圧倒的な存在感だった。
「そっちの子は、サインはいいの?」
南十字輝の整った横顔に見惚れていたサクラは、ふいに声をかけられ、思わず姿勢を正す。
柔らかく微笑む彼の顔から、いつしかサクラは目をそらすことが出来なくなっていた。
「是非、お願い致します!!」

 

 

実際に会ってみれば、猫耳が気にならなくなるどころか、それが彼の新たな魅力のように思えてくるから不思議だ。
夢心地のままサクラが帰宅したとき、何故だか南十字輝の
CDや写真集、猫グッズを山のように買い込んでいた。
全ては無意識の行動だ。
そのうちいのと一緒に猫耳を付けてコンサートに行くようになってしまうのかもしれない。
恐るべし、スターのカリスマ性だ。

 

「・・・・何やってるの、サクラちゃん」
「反省してるの」
集合場所でカカシを待つ間、サクラは暗い顔でしゃがみ込んでいた。
「屈辱だわ!ほんのいっときでも南十字輝に、猫耳王子なんかに惑わされるなんて、サスケくんファンとして失格よ!!」
「そのわりに、愛用しているように見えるけど」
事情はよく分からないが、サクラの頭には南十字輝ファンには必須の猫耳がしっかりと装備されている。
どうやら朝、寝ぼけて額当ての変わりに頭に付けて家を出てしまったようだ。

「何が「萌え」よ!!猫耳なんて、燃えてしまえばいいのよ!」
動揺したサクラは猫耳を取り外して地面に投げつける。
発作的にライターを取り出したが、それはいつまで経っても猫耳に着火されることはなかった。
思い出すのは、直に目にした、南十字輝の自然と人を惹き付ける微笑だ。
「・・・手、止まってるよ」
「う、煩いわね」
いちいち突っ込みを入れてくるナルトに怒鳴り声で答えるのと、猫耳に火がついたのはほぼ同時だった。
しかし、サクラがやったわけでなく、二人の向かい側に立っていた人物が使った術のためだ。
「・・・・・豪火玉の術」
恐る恐る顔を上げると、微かに頬を緩めて笑っているサスケと目が合う。
「いらないんだろ」
火遁の術を使った後だというのに、空気が冷え切っているように思えるのは気のせいではないはずだ。
見ると、傍らにいるナルトも顔を引きつらせている。

 

「・・・・なんか、サスケくん機嫌悪い?」
「えー、サクラちゃんのせいじゃないの?」
「私が何をしたってのよ!」
こそこそと話していたはずが、苛立ったサクラはいつも以上に大きな声を出してしまった。
それにびくついたのは、ナルトだけでなく、到着したばかりのカカシも同様だったようだ。
屋根から降り立ったカカシは、怯えたような眼差しをサクラに向けていた。
「何、何かあったのー?」
「ああ、すみません。何でもないんです」
「先生、おはようー。今日の任務はどんなのーー?」
それまでの会話を無視してナルトが訊ねると、カカシは抱えていた紙袋を探り始めた。

「ああ、新発売のキャットフードの販売だよ。これ、仕事中は全員に付けてもらうから」
話しながら、カカシは一番近くにいたサスケの頭にあるものをくっつける。
それは、彼が先ほど燃やしたのと全く同じタイプの猫耳だ。
嫌そうに眉をひそめたサスケだったが、猫耳を付けた後ではまるで迫力がない、むしろ今までで一番可愛らしい。
ラブリーな黒猫が一匹誕生した瞬間だ。
「も、萌えーーーー!!!」
南十字輝に会ったとき以上に興奮したサクラは、握りこぶしを作りながら、鼻血を吹きそうな勢いで絶叫していた。


あとがき??
銀魂が元ネタですよ。(笑)
新八の話をサクラ中心でやってみたら、なんだか痛い内容になりました。どうしよう。
猫耳は、意外とカカシ先生が似合うと思います。


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