運命!


任務続きの毎日で、誰もが望んだ久方ぶりの休日だった。
それが、何が悲しくていつもどおりのメンバーの顔を見なければならないのか。
サクラとカカシとヤマトとサイ、おそらく茶店に呼び出された全員が同じ思いだったはずだ。
「あんたね、皆を集めておいてつまらない用事だったら承知しないからね」
サクラなどは話を聞く前からナルトを睨んで威圧している。
「すっごい珍しいものが手に入ったってばよー。まあ見てみてよ」
言いながらナルトがテーブルに置いたのは、箱に入った小さなガラス球だ。
無色透明、重みも普通のビー玉とそう代わらないように見える。

「何よ、これ・・・」
「ラブラブボールっていうんだ。通販で買って昨日届いたんだけど、その玉を覗くと将来結ばれて幸せになる運命の人の顔が映るらしいよ」
「ええっ!?」
簡単にボールを掌にのせて動かしていたサクラは、危うく床に落としそうになった。
ナルトの言葉に、自然と皆の視線はボールへと集中している。
「なにそれ、面白そうじゃないの!あんたはもう覗いてみたの」
「ううん、まだ」
「いんちきじゃないのー??通販なんて怪しいよ」
「でも、発売元は有名なメーカーだし、今までいろんなヒット商品を売り出してますよ」
訝るカカシに、ヤマトはボールの入っていた箱を眺めながら呟く。
確かに箱には誰もが知る企業名が印字されており、いい加減な商品を売り出すようには思えない。

 

「試してみればわかるわよー。じゃあまずは私がやってみるわね」
未来を垣間見れるということに興味津津なサクラは、何のためらいもなく片目をつぶってボールを覗き込む。
その後は、時が止まったかのように長い沈黙が続いた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・サクラ、ちゃん?まだ見えないの」
5人のいる席には妙な緊張感が漂い、たっぷり1分は経過した頃だろうか。
恐る恐るといったナルトの呼びかけに、サクラの肩が僅かに震える。
「どうしたの?」
「絶対にありえない!!!!」
店中に響き渡るほどの、絶叫だった。
握りこぶしを作るサクラの顔は怖いくらいに真剣だ。

「いんちき、いんちき商品よ!ナルト、こんなものさっさと返品してきなさい」
「えーー、高かったのに」
「一体誰が映ったんだ??」
皆が首を傾げる中、サクラが放り投げたボールをサイがさっと掠め取る。
「なかなか興味深い。返品しちゃうなら、その前に見てみようかな」
「あああーーーー!!!!」
何故か慌てたサクラがボールを奪い返そうとしたが、すでに遅かった。
「・・・・あれ、サクラが見える」
ボールを見つめたまま呟きをもらしたサイにサクラの顔は青くなり、ナルト達はどよめいた。
サクラの反応を見ると、おそらく彼女の方にもサイが運命の人として映ったのだろう。
「えっ!!それってつまり」
「サイとサクラちゃんが結ばれる運命・・・」

あまりに意外な展開に一同は開いた口がふさがらなくなる。
女心というものを一切理解していないサイは、毎日のようにサクラを怒らせる発言を連発し、二人は犬猿の仲なのだ。
その二人が運命的な恋人だと言われても、あまりに意外な組み合わせすぎて信じることが出来ない。
「サクラと結婚なんて、嫌だな」
眉を寄せたサイの本音に、サクラの怒りがついに爆発した。
「それは私の台詞よーーーーーーー!!!!」

 

 

互いの非難合戦を始めた二人をよそに、ナルト達は離れた席へと移動する。
ボールのことがきっかけでより一層彼らの溝が深まったように思えるのは気のせいだろうか。
「本当に不良品なのかねぇ」
「まあ、せっかく買ったんだし、返品するにしても見ておこうかな」
ボールを覗き込んだナルトの反応は早かった。
「嘘!!!?」
「ナルト?」
「ギャーーーーーーー!!!俺、絶対嫌だったばよーーー!!」
突然頭を抱えて喚きだしたナルトの取り乱しように、カカシとヤマトは目を丸くする。
「ど、どうしたんだ、ナルト」
「しっかりしろ」
「ナルトーーーーー、やっと見つけた」
その瞬間、賑々しい店内に入ってきた人物を見るなり、ナルトの顔はあからさまに強張った。

「つ、綱手のばーちゃん・・・」
「いやー、博打で有り金全部持っていかれちゃって。ちょっと貸してくれないかい」
「そんなこと言って、前も俺の財布持っていったってばよ。それに金は全然戻ってこないし」
席から立ち上がったナルトはさりげなく店の出入り口へと視線を走らせたが、逃がすような綱手ではない。
「そうだったかね。まあ、金貸すのが嫌ならちょっと賭場までついてきな。ナルトが賭けると何故か当たりが良くてねぇ」
「イヤイヤイヤ、博打で金稼ぐ気ないし。ばーちゃんと結婚なんかしたら一生苦労しそうだってばよ」
「は、結婚?わけのわからないこと言ってないで、さっさと行くよ」
逃げの体勢のナルトを強引にねじ伏せた綱手は、ナルトの首根っこを掴んでにこにこ顔だ。
こうなった彼女に逆らえる者はこの里にはいない。
「いーーーやーーーーーー・・・・」
引きずられながら遠ざかっていくナルトに哀れみの眼差しを向けつつ、カカシとヤマトは彼の運命の相手が誰だったのかを知った。
「ナルト・・・・」
「これが運命」

 

後に残されたのは、ラブラブボールと気まずい空気だ。
ただの透明なボールと思っていたそれが、今は何故か恐ろしい。
「・・・テンゾウ、見ないの?」
「カカシ先輩こそ」
「俺は最初からこんなものに興味ないし。大体、未来なんて知らないからこそ毎日が楽しいんだと思うんだよね」
「そんなこと言って、怖いんじゃないですか。誰も映らなかったら一生独りで寂しい老後ですよ」
みえみえの挑発だったが、彼女ナシ○年ということを考えると、あながち冗談ですますこともできない。
「ハハハッ、怖いはずないだろう。こんな子供の玩具」
「さすがカカシ先輩。じゃあ、はい」
「・・・・おい」
上手くのせられたような気がしたが、引くに引けないカカシはゆっくりと眼にボールを近づけていった。
最初はぼんやりとしていた映像が、徐々に姿を形作っていく。
それはカカシの想像をはるかに超えた衝撃的な映像だった。

「危ない!」
カカシの手からぽろりと落ちたボールを、ヤマトは慌てて掴んだ。
「先輩?」
カカシの目の焦点があっていない。
うつろすぎて、まるで死人の瞳のようだ。
「近所の野良猫って・・・人間ですらないって・・・・・」
「えっ?」
意味不明な言葉を繰り返すカカシに、ヤマトは怪訝そうに首を傾げる。
カカシの顔は青いを通り越して蒼白だった。
「俺、旅に出る・・・・。あと、よろしく」
「ちょ、ちょっと、カカシ先輩!」
ふらつくカカシは上忍らしからぬ力のない足取りで店の出入り口へと向かっていった。
あれでは無事に自宅までたどり着けるかも不安だ。
よほどのショックを受けたのだろう。
「一体何が映ったっていうんだ」

 

 

結局一人茶をすすることになったヤマトは、どうにも納得できずに箱の中のボールを眺めていた。
ボールを覗いたのはまだ三人だったが、一人も幸せになれそうな相手を見れた人間はいない。
結ばれるべき運命の人というよりは、むしろ・・・・。

「こんにちはー。ナルト知りません?」
思考を中断させたヤマトが顔を上げると、ナルトの保護者ともいうべきイルカが頭をかきながら立っていた。
「ああ、こんにちは。ナルトはさっきまでここにいましたけど、火影様に連れて行かれて・・・」
そのまま賭場に向かったとは、ヤマトもこの真面目な教師には伝えられない。
「そうですか。さっき一楽で会ったときにこの茶店に行くって言っていたから追いかけてきたんですけど」
「それは?」
イルカが持っている紙切れに気づいたヤマトは、指をさして訊ねる。
「ああ、ナルトの忘れ物です。通販で買った商品にくっついてきた取り扱い説明書みたいですよ。またくだらない物買ったんじゃないかと思うんですけど・・・・」
「どれどれ」

 

『「ラブラブボール」について』
将来結ばれると絶対に不幸になる相手がボールに映ります
これを参考にして最良の伴侶をゲットしてください
グッドラック☆☆

 

「・・・・・・・・なるほど」
説明書に目を通すなり、深々と頷いたヤマトにイルカは不思議そうな顔をする。
「え、どうしたんですか」
「いや、もうちょっと早く届けてくれたら非常に助かったなぁと思いまして。ハハッ・・・」
笑おうとしても引きつった笑みしか浮かんでこない。
一番大事な部分を読み間違えているあたりがなんともナルトらしく、全く人騒がせな話だった。


あとがき??
元ネタは「うる星やつら」。たまたま
TV付けたら再放送やっていまして、この話だった。
サクラに恋愛感情持っていないカカシ先生って久々ですね。ラブラブなのも書きたいですよ。

 

おまけのサイ&サクラ

 

「サクラのことは、そんなに嫌いじゃないかな」
「あんたねー、そんな言い方されて嬉しいはずないでしょう。どこまで女心が分からないのよ」
不毛な言い争いに疲れたのか、机に頬杖をつくサクラはため息とともに言う。
「へぇ、じゃあサクラは僕に好きって言われた方が嬉しいんだ」
「・・・・・は?」
「そんなに好かれていたなんて、知らなかったよ」
表面的な笑顔を浮かべるサイに、サクラは呆れてしまって声も出ない。
「でも、君と結婚なんてやっぱり想像できないな。悪いけど他にいい人を見つけた方がいいよ」
「・・・・・」
何故、自分が失恋したような心境にならないといけないのか。
そもそも微妙に会話が成り立っていないのは気のせいではないはずだ。
何があったとしても、こいつが運命の人というのは絶対にありえないと心で思うサクラだった。


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