月と水の夜


森で迷い犬を捜す任務の休憩時間。
サクラは何やら口論をしているナルトとサスケを静かに傍観している。
常日頃、何かと理由を付けて反発しあう二人。
だが、サクラには、彼らからはどこか共通した匂いが感じられる。
心の奥底では、誰よりも分かり合っているような気がしていた。

 

 

「サスケくん!」
ナルトとサスケの間に無理矢理割って入ると、サクラは綺麗にラッピングされた包みを差し出す。
中に入っているのは、甘い匂いのするハート型クッキーだ。
「これ、昨日作ったの。良かったら一緒に食べない?」
「俺には、俺には!?」
思わず口を挟んだナルトを、サクラはじろりと睨んだ。
「あんたの分なんてあるわけないでしょ」

思った以上にきつい口調になってしまったその言葉に、ナルトはあからさまにショックを受けた表情になる。
「いーよいーよ、どうせ俺は邪魔者だよ!二人で仲良くしてれば」
すねてしまったナルトは、駆け出すのと同時に煙のように姿を消した。
そしてナルトの気配がなくなったあとも、サクラは彼のいた方角を見つめ続けている。
先程までとは打って変わった、気落ちした表情で。

 

「そんなんじゃ、伝わらないぞ」
「・・・・」
「サクラ」
「だって、急に優しくしたりなんて出来ないよ」
振り向いたサクラは、目にうっすらと涙を滲ませている。
「あんな風に私の前からいなくなるなんて、初めて。もう嫌われちゃったかしら」

そのまま俯いてしまったサクラの頭をサスケは軽く叩く。
「あの諦めの悪い奴がすぐに気持ちを変えるはずがないだろ。もう少ししたらけろりとした顔で戻ってくるに決まってる」
優しさの伝わるその声音と眼差しに、サクラは少しだけ口元を綻ばせる。
「・・・サスケくんは、優しいね」

 

 

 

休憩地点からさほど離れていない湖の岸辺にナルトは座り込んでいた。
膝を抱えながら、水上を滑走するあめんぼをぼんやりと見つめている。
最初は三匹が併走していたが、いつのまにか、一匹のあめんぼが輪の中から外れてしまう。
そんなことには気づかずに、残る二匹はすいすいと気持ちがよさそうに先を進んでいた。

「・・・・サスケも、サクラちゃんのこと好きなのかな」
手近な小石を摘んだナルトは、小さく呟く。
近頃のサスケは、以前のようにサクラを邪険にすることがなくなった。
むしろ、任務でのサクラの負担が少なくなるよう、気を遣っているように見える。
歯噛みしたナルトは、寂しげに漂っている一匹のあめんぼに目線を移した。
「サクラちゃんは、サスケを好きだから、俺のこと嫌いなのかな」

ナルトが何気なく投げた小石を、あめんぼは楽々避けていく。
残る一匹のあめんぼが遠くに行ったあとも、水辺には大きな波紋がいつまでも残っていた。

 

 

重い腰を上げたナルトがもとの場所に戻ると、そこにはサスケの姿しかなかった。

「あれ、サクラちゃんは?」
「先にカカシのところに戻ってる。これは、お前のだ」
サスケはサクラが残していったクッキーの袋を、ナルトに投げつける。
その声が、ナルトには若干苛ついているように聞こえた。
ピンク色に着色されたハート型のクッキーとサスケの顔を見比べたナルトは、不思議そうに首を傾げる。
「お前、機嫌悪い?」


あとがき??
ナル→サク←サスと思わせておいて、サク→ナル←サス。
いや、普通にサス→サク→ナルでも構いませんが。
まぁ、この三人でぐるぐるしてるということで・・・・。可愛いこちゃんS。ラブリーv
元ネタは梶原にき先生の『月と水の夜』。ゆうこちゃんが出てくる話。


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