『無邪鬼』

 

仕事の合間の休み時間、畳の上に腹這いになりながら新聞を読んでいたときだった。
背中に、不自然な重みを感じた。
おそらく誰かが乗っかっている。
真選組副長の部屋へもぐり込み、こうしたことをする度胸があるのは、一人しかいない。

「総悟、おめーー・・・・」
眉を寄せて振り返るなり、土方は目を丸くする。
そこにいたのは彼が予想した人物ではなく、赤いチャイナ服にお団子頭の少女。
「寝転がって煙草を吸ったら、危ないアルヨ」
「て、てめー、何で屯所に」
「出入り口でミントンしていた奴がすんなり入れてくれたアル」
「・・・・・」
神楽のこの一言で、山崎が土方にボコボコにされることは決定した。

 

 

「・・・副長、それは」
「うっかりバナナをやったら懐かれた。この、サル娘が」
土方はうんざりした口調で言ったが、神楽は構わず彼の背中に引っ付いている。
はたから見ると、猿の親子のような格好だ。
体重の軽い神楽がいてもそれほど苦ではないが、副長としての威厳は消し飛んでいる。
廊下を歩くたびに隊士達のひそひそ声が耳に届くが、神楽が全く離れないのだからしょうがない。

「総悟はまだ、帰らねーのか!!」
「は、はい」
八つ当たりに怒鳴られた隊士は、涙ながらに返事をした。
沖田は恐怖映画を一晩中上映する“夏まで待てないホラーのゆうべ”に行っていて留守だ。
神楽は彼と果たし合いをしないと帰らないと言い張っているのだから、土方はそれまで神楽に付きまとわれることになる。
「あいつー、分かっていて戻らないんじゃねーか」
「イライラするのはカルシウムが足りない証拠だって、銀ちゃんが言っていたネ。牛乳を飲むヨロシ」
「お前がいなくなれば、イライラはすぐ消えるんだよ!」

 

口論する二人を遠目に眺め、山崎は密かに感心していた。
どんな時も煙草を離さないヘビースモーカーの土方が、今は煙草の代わりに飴玉を食べている。
背中に子供がいることを考慮しているのかもしれないが、口で言うほど神楽を疎ましく思っていないのかもしれなかった。

 

あとがき??
土方さんにくっつく神楽から、こんなものを連想しました。
ただ、土方さんの背中に乗る神楽が書きたかっただけのような・・・。
飴はおそらく神楽からもらった物です。バナナと物々交換。
イラストのお礼として、縹さんに捧げさせて頂きます。有難うございました!

 

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