お兄ちゃんと一緒


「朔、ちょっといいかな」
「あら、どうしたの?」
「あの、その・・・・・」
珍しくもじもじとした様子で俯く望美に、朔は首を傾げる。
顔を赤らめて恥じらう姿は同性の朔であっても思わず抱きしめたくなるほど愛らしいが、何かあったのだろうか。
改めて辺りを窺った望美は、意を決して顔を上げた。
「景時さんって恋人はいるのかな?も、もしかして、許嫁とか・・・・」
「兄上に許嫁?」
驚きの声を上げた朔は、口元に手を当てて笑い出した。
「そんな人いないわよ。兄上なんて昔から全然もてないんだから。趣味も洗濯と発明で、他のことにあまり興味ないみたいよ」
「そうなんだ」
望美は胸をなで下ろし、朔はようやく彼女の不可解な言動の理由に気づいた。
「望美、もしかして兄上のことが気になるの?」

再び顔を真っ赤にした望美を見れば、答えは聞かずとも分かる。
朔からすれば、雄々しさに欠ける何とも頼りない兄なのだが、たで食う虫も好きずきというやつだ。
可愛い望美にこうまで想われるとは何とも羨ましく、妬ましい。
しかし、考え方を変えればこれは大きなチャンスだ。

 

 

 

「兄上―――!!」
「ごめんなさい!!!」
廊下を歩いていたところを朔に呼び止められた景時は、とっさに大きな声で謝罪していた。
「・・・・何で謝るんですか」
「いや、朔がそうやって怖い顔をしているときは、大抵叱られるときだからさ〜」
頭をかきながらアハハッと笑う景時に、朔は目をつり上げた。
「兄上の馬鹿!!こんなところで油を売ってるなら、望美を誘って外にでも出かけてください。暇なのでしょう」
「えっ、望美ちゃんがどうかしたの?」
訝しげに訊ねるところを見ると、彼はまだ望美の想いに気づいていないらしい。
「本当に兄上は鈍いわね!」
はっきり言ってしまいたいが、それでは朔にだけ想いを打ち明けた望美に失礼だ。
景時に詰め寄る朔は、真剣な表情で彼の瞳を見据える。

「兄上、望美のことをどう思っています?」
「望美ちゃん?」
唐突な質問だったが、朔の迫力に押された景時は目線を上げて考え始める。
「えーと、可愛いよね。うん、今まで会った中で、一番喋りやすい女の子かもしれない。洗濯のことも黙っていてくれたし、優しいよね」
「・・・そう」
どうやらまだ恋にまで至っていないが、これから発展する可能性は十分あるようだ。
景時の妹で、望美の親友でもある朔が一肌脱げば、カップルが成立するのも夢ではない。

 

「兄上、望美に梶原家の嫁になってもらいましょう」
朔がきりりとした眼差しで告げるのと同時に、庭にある鹿脅しの音が廊下まで響いた。
その言葉が脳内に伝達されるまで少しばかり時間がかかり、一瞬の間をあけて、景時は後方へと飛び退る。
「ええーーー!!な、何なの突然」
「兄上、よく聞いて。もういい年なんだし、これが最期のチャンスかもしれないのよ」
「さ、最期?」
「私、嫌です!嫁の来てが無くて、一人で寂しく暮らす兄上の老後の面倒を見る未来なんて」
朔は瞳に涙を滲ませて力説し、景時まで泣きそうになる。
「・・・・そこまで考えてるんだ」
妹が自分のことをどのように見ているかよく分かり、暗い気持ちになった景時だったが、朔はかまわず身を乗り出した。
「望美なら可愛いし明るいし素直だし、理想の伴侶です。さあさあ、兄上、早く望美を誘いに行ってください。今なら部屋にいるはずよ」

訳が分からないまま朔に背中を押され、景時はおずおずと後ろを見やった。
「朔、何でそんなに一生懸命なの?」
「兄上と望美が結ばれたら、私、還俗します。そして望美を「お姉様」と呼んでこの屋敷で幸せに暮らすんです。おそろいの着物を着て、兄上が働いている間に一緒に買い物に行って・・・・」
「あの、朔は黒龍のことが好きなんだよね」
さらに広がりそうな妄想に横やりを入れると、朔はにっこりと笑って応える。
「望美は別腹です」

 

 

 

昔からしっかり者の妹に弱い兄は、その意図を計りかねたまま望美の部屋を訪れることとなってしまった。
几帳の陰から覗くと、望美は物憂げな様子で庭を見つめている。
どうも話しかけることが躊躇われたが、景時は兄を応援する朔の姿を頭に思い浮かべながら、一歩前へと踏み出した。

「・・・・望美ちゃん、ちょっといい?」
「景時さん!」
振り向いた望美は、先程までの憂い顔を消して満面の笑みを浮かべる。
釣られて微笑んだものの、困ったことにこれから先どうするかは全く考えていなかった。
「せ、洗濯、手伝ってくれないかな」
とっさに口から出たのは、おそらく女の子が喜びそうにない言葉で、景時は自分でも情けなくなる。
弁慶やヒノエならば、もっと上手く彼女を誘うことが出来るのだろう。
これなら朔に馬鹿にされても仕方がない。

「いいですよー。洗濯物、そんなにたまっていましたか?」
立ち上がった望美は景時が落ち込んでいることも知らずいそいそと駆け寄ってくる。
「ごめんね、せっかくのんびりしていたのに・・・」
「いいえ」
気を遣っているわけではなく、景時に向けられるのは望美の心からの笑顔だ。
「景時さんと一緒だから、嬉しいです」
「・・・・・」
その微笑みに暫し見入った景時は、頬が熱くなるのを感じて慌てて視線をそらした。
望美のそばにいると、どうしてか心がほんわかと和んでいく。
全く似ていない兄妹だと散々言われ、自分達もそうだと思ってきたが、どうやら女の子の好みに関しては共通していたようだった。

 

 

「兄上ったら」
どこかに出かけるのかと思えば、井戸の近くで洗濯を始めた二人を眺めて、朔はため息をつきたくなる。
滅多に女性と出歩かない景時は、おそらく逢い引きにふさわしい場所が分からなかったに違いない。
しかし、景時と睦まじく喋る望美は他の誰といるときよりも楽しげで、朔はほっとしてしまった。
「でも、何で兄上なのかしら・・・・」
妹が言うのも何だが、朔の目から見て八葉の男性達は皆兄よりも魅力的な殿方ばかりだ。
そして景時といえば、軍事に関する総括責任者だというのに洗濯が趣味で、人一倍臆病で、何事も嫌になると途中で放り出してしまう。
取り柄は誰に対しても優しいことくらいだろうか。

「あ、神子。見つけたーー」
真剣に悩んでいた朔は、後ろから聞こえてきた声にハッとして振り返った。
「神子―――」
そのまま駆け出そうとした白龍を、朔は襟首を掴んで引き寄せる。
せっかく二人きりにしたというのに、ここで邪魔が入っては朔が景時をけしかけた意味がなくなってしまう。
「白龍、向こうで私の手伝いをしてくれない?垣根が壊れているところがあるの」
「えっ、でも神子と一緒に・・・・」
「白龍」
あくまで穏やかな口調だったが、朔の笑顔には何故か逆らえない威圧感があった。
「・・・・うん」
白龍の腕を引いて踵を返すと、さらなる邪魔者、譲がきょろきょろと首を動かしながら近づいてきた。
「望美先輩がどこに行ったか知りませんか?」
「兄上と近くまで買い物に」
望美の居所を知っている白龍は不思議そうな顔をしたが、朔に一瞥されては、何も言えない。

 

「今日はいいお天気だから、洗濯物が早く乾きそうですね!」
「そうだね〜」
弾んだ声の望美に景時はのんびりと返事をする。
仲良く洗濯を続ける景時と望美は、彼らの支援者が他の八葉達を井戸から遠ざけていることなど知る由も無かった。


あとがき??
・・・・・・・・おかしい、主役が朔になってしまった。
いや、ゲームの朔はこんなんじゃないんですけど。(^_^;)私の頭の中ではこうなってる。ファンの方、すみません。
ここはどこだろう。鎌倉の梶原家??
もう一つくらいラブラブな景時
×望美を書きたい・・・・・。暗いやつとか。


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