禁断という名の10つの題
01:隣
02:交わした手
03:セカンド・キス
04:涙
05:友達
06:月の視線
07:偽り
08:溶けた心
09:下さい
10:想いの強さ
01:隣
部屋にこもって新たな発明に勤しむ景時の傍らには、望美が自室にいるときのようにくつろいで座っていた。
とくに何をするわけでもなく、景時が所要で出かけて家に戻ってくると、望美は彼のそばから離れなくなる。
最初は戸惑っていたものの、今では望美の衣に焚きしめられた梅の香りにもすっかり慣れてしまった。「・・・・・何かな」
望美が自分を凝視していることに気づくと、景時は作業の手を止めて訊ねた。
「景時さんのそれって、触ってくれって言ってるようなものですよね」
「・・・え?」
何のことか分からず、聞き返そうとした矢先、望美の手が景時の腹部に触れた。
布地がない部分なため、望美の掌の感覚が直に伝わってくる。
「うわっ、ちょ、ちょっと望美ちゃん」
「・・・・これ、一枚しか着てないんですか」
「きゃあーーー、や、やめてーーー」少女に対して手荒な真似は出来ず、服を捲られそうになった景時は必死に部屋の中を這い蹲って逃げ回る。
だが、望美は景時が今まで接してきたような淑やかな令嬢とは違い、腕力と運動神経は並以上だ。
「つーかーまーえーたーー」
「ひーー」
怨霊さながらの声音でしがみつかれた景時は、思わず悲鳴をあげる。
壁際まで追いやられたため、もうどこにも逃げ場がなかった。
「・・・・・・・何やってんの」
背後から呆れたような声が聞こえ、望美は景時の服を掴んでいた手を止めて振り返る。
「ヒノエくん」
「随分と騒がしいから姫君に何かあったのかと思えば、逆かよ」
「あ、あの、これはその、違うからね」
慌てて弁解する景時を無視してすたすたと歩くと、ヒノエは望美の前でしゃがみ込んだ。
「良くないと思うなぁ」
「何?」
「八葉ってのは神子姫様を守るために存在しているんだ。その神子姫が誰か一人だけ贔屓したら、仲間の間に亀裂が入るかもよ」
「・・・・・・そうかな」
「そうそう」
二人が会話をしている間に、景時はさりげなく望美から距離を取って元の文机のそばまで移動した。「だから俺と少し外に出かけないかい?俺の知り合いの家で仔猫が生まれたそうだから、見に行こうよ」
「うん、行く!」
動物好きの望美はヒノエの誘い文句に瞳を輝かせると、満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
「景時さん、また遊びましょうね」
「あー、うん」
景時に笑いかけた望美は、ヒノエに手を引かれていそいそと部屋から出ていく。
望美がいなくなっただけで、急に部屋の温度が3度ばかり低くなってしまったようだ。
これで邪魔をされずに新たな発明品の設計図に取りかかれると思った景時だったが、何故か彼女が隣りでいろいろ喋りかけてきたときよりも、アイデアがまとまらない。
頭を過ぎるのは、ヒノエと一緒になってはしゃぐ望美の姿ばかりだった。
あとがき??
ちょっと寂しい景時さん・・・。
腹丸出しの彼の服は何か意味があるんでしょうか。
02:交わした手
部屋の外側に作られた板敷きに座ってた望美は、突然後ろから目隠しをされた。
こうした悪戯をするのは望美の身近な人物ではヒノエか白龍くらいだ。
そして、白龍は今、朔と買い物に行っている。
「もー、ヒノエくんってばまた・・・」
不満を漏らしつつ振り向いた望美は、その姿勢のまま固まってしまった。
「か、か、景時さん」
自分の勘違いに顔を赤くした望美だったが、景時の方も困ったように頬をかいている。「ごめんなさい。あの、ヒノエくんがいつもくっついてくるから、今度もてっきりそうかと思って」
「・・・・そうなんだ」
慌てて取り繕った望美の言葉に、何故か景時は沈んだ声を出した。
普段の景時は望美に触れることなど滅多になく、今の目隠しでさえかなり勇気を出したのだ。
「・・・景時さん?」
「いや、ちょっと羨ましいな〜なんて。そんなにいつも望美ちゃんとベタベタしてるなんてさ」
照れ笑いと共に言うと、望美は居住まいを正して景時に向き直った。
「じゃあ、景時さんも私の体の好きなところに触っていいですよ!!」
「えっ」
「さあ、どうぞ!」両手を広げた望美は、何を期待しているのか、瞳を輝かせて景時を見つめている。
だが、本人の了解を得ているとはいえ、いきなり柔らかそうな彼女の胸や尻に触れるわけにもいかない。
「・・・じゃあ」
おずおずと手を伸ばした景時は、膝の上にあった彼女の掌を握るのが精一杯だった。
「景時さんの手・・・、あったかいですね。それに大きい」
「そうかなぁ、普通だと思うけど」
にこにこと笑う望美は、手を握り合った状態のまま景時の顔を覗き込む。
「今度は私から景時さんに触ってもいいですか?」
「えっ」
返事をする暇もなく、望美に飛びつかれた景時は反動で後ろにひっくり返る。
おかげで、手を握るだけで我慢した意味が全くなくなってしまった。
あとがき??
うちは望美ちゃんの方が積極的〜。いや、他の景望サイト様もそうかな?
まぁ、今のところじゃれているだけなんですが。
03:セカンド・キス
買い物に出かけた望美は、大通りから一つ入った路地でそのカップルを見かけた。
互いに身を寄せ合い、熱烈なキスをしている。
昼間から随分と大胆だと思いながら眺めていると、袖を引かれて体の重心が後方に傾いた。
「望美ちゃん、早く行くよ」
うっかり見入ってしまったが、景時と一緒だったのだ。「景時さん、私達もやりませんか、あれ。今なら他に人もいませんよ」
カップルを指差すと、景時は慌ててその手を掴んだ。
「だ、駄目だよ〜、嫁入り前の娘さんがそんなこと言ったら」
「でも、私のいた世界ではキス、いえ、口付けは挨拶みたいなものなんですよ。親しい人とはよくするんです」
「えっ、そうなの!?」
「はい」
主に日本ではなく海外でのことだが、景時に分かるはずがない。
「だから、いいじゃないですか。ねっ」景時との関係を一歩前進させたい一心だったのだが、何故か彼の表情はみるみる曇っていく。
「景時さん?」
「じゃあ、望美ちゃんも、その、誰かとあんな風に・・・」
「・・・・・」
目の前のいる望美を見ることもなく、景時の考えはいつも後ろ向きだ。
これほど「好き好き」オーラを彼に向けているというのに、何故伝わらないのか望美は心底不思議だった。
「したこと、ありますよ」
「・・・えっ」
「凄く小さい頃に、父とよくしてました。だから景時さんは私の二人目です」その後の景時のほっとした顔を見たら、心に芽生えた意地悪な気持ちはどこかに飛んでいってしまった。
理由を訊ねても、おそらく笑って誤魔化されるに違いない。
あとがき??
この後、チューしたんでしょうか??
04:涙
八葉は神子を守るために存在している。
だから、望美をかばって斬られたことに、景時は少しも後悔はしていなかった。
「景時さん、しっかりして!」
「兄上!!」
冷静な妹の切迫した声を聞いて、相当傷は深いのだと知る。
目を開けると青ざめた望美の顔がすぐ近くに有り、景時は無理に笑おうとして、失敗した。
咳き込んだ口からは血の痰が出てくる。
今から知らせたとしても、別行動をしていた弁慶達が駆けつけるまで暫く時間がかかりそうだ。「どうしよう、血が、血が止まらない・・・」
「望美、落ち着いて」
周囲の敵は術を使って大方追い払ったが、まだ油断のならない状況だ。
だが、望美にはそうしたことを考える余裕はなかった。
「ごめんなさい、景時さん、ごめんなさい」
景時にすがる望美は悲しげな顔で謝罪を繰り返す。
君のせいではないと言いたかったが、舌が上手く回らず長い言葉は喋れない。
望美の気持ちを少しでも和ませたくて、景時は残る力を振り絞って片手で印を組んだ。
「・・・・これ」
一瞬にして、景時の体から流れた血が赤い花へと変わっていく。
実際に触ることも出来る花に、望美は何が起きたのか分からず目を見開いた。
「・・・幻術の、一種だよ」
切れ切れに話す景時は、頬を緩めて望美を見上げる。
「綺麗・・・でしょう」
もちろん、こんなことをしても怪我が治ったわけではない。
視覚が惑わされているだけだが、血を見て動揺していた気持ちは落ち着くはずだ。
そして、戦場に咲いた花々を呆然と眺めていた望美の顔は、見る見るうちに歪んでいった。「馬鹿!!」
大きな声で怒鳴った望美の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。
重傷を負っているというのに、まだ他者を気遣っている景時の姿が無性に悲しかった。
彼はいつだって自分ではなく誰かのために動いている。
異世界に来て不安になったときも、初めての戦場で敵を斬ったときも、けして弱い姿を見せなかった望美が初めて泣き崩れた。
「こんな、こんなことに力を使わないでください・・・」
「ごめんね」と謝ったらまた叱られてしまいそうで、景時は口をつぐんだ。
他の誰のためにも、こんなに一生懸命になりはしない。
そう言えば、彼女の涙は止まらなくなってしまうだろうか。
あとがき??
元ネタは『地球の王様』。
同じようなのNARUTOでも書いたなぁ。
05:友達
「よー、久しぶり。こんなところで会うなんて偶然だなぁ」
旅を続ける龍神の神子一行の前にひょっこりと現れたのは、八葉の一人の将臣だった。
ちょくちょく姿を消すわりに、すっかり仲間に溶け込んでいるのは彼の人徳だろうか。
「将臣くんだーー!」
「もー、兄さん、今までどこに行っていたんですか」
譲が不満をこぼす横で、望美は将臣に飛びついていく。
「元気だった?怪我とか病気とか、してない?」
「それは俺の台詞だ。また食い過ぎて腹壊したりしてたんじゃないか」
「何よ、それ!」
ハハハッと笑う将臣は、頬を膨らませた望美を躊躇うことなく抱きしめた。
何も知らなければ、遠距離恋愛をしていた恋人達の再会の場面に見えないこともない。「あの二人って・・・」
「子供の頃からあんな感じですよ。ところかまわずじゃれ合うのは、そろそろやめて欲しいですけど」
訊ねられる前に、譲は眉を寄せて皆の疑問に答えた。
譲だけではなく、望美に好意を持っている八葉は面白くない気持ちで将臣を見ている。
中でも景時は仲睦まじい二人の様子にかなり衝撃を受けたようだった。
「望美ちゃん」
朔の姿が周りに無いことを確認し、景時は宿の中庭を散歩していた望美に駆け寄る。
「景時さん、どうしたんですか?」
「あの、あのさ・・・」
「はい」
望美ににっこりと微笑まれた景時は、言葉に詰まりながらも、思い切って話を切り出す。
「の、望美ちゃんはオレのこと、どう思ってる?」
「好きです」
望み通りの返答に思わず頬が緩みかけたが、景時は気を引き締めて質問を続ける。
「じゃあ、将臣くんは」
「好きです」
全く同じ口調、同じ笑顔で答えられ、景時は目の前の世界が大きく揺らいだのを感じた。
望美は景時といるときによく「好き」という言葉を口にする。
それはさして特別な意味はなく、周りにいる気に入った人間に、平等に向けられるものだったらしい。「どうしたんですか!?」
突然その場にしゃがみ込んだ景時に、望美は目を丸くする。
「いや、何だか、急に力が抜けちゃって・・・・」
苦笑いをしながら傍らを見やると、望美の顔が不自然なほど近くにある。
驚いて身を引く間もなく、掠めるようなキスをされて景時はそのまま後方に尻餅をついてしまった。
頬を染めてはにかむ姿は、景時にしか見せない、望美の特別な一面だ。
「将臣くんのことは好きですけど、友達だし、私がこういうことをしたいと思うのは景時さんだけですよ」
あとがき??
うちの神子は私の影響で将臣くんのことが大好きです。(景時さんの次に)
将臣くんの方は来る者は拒まずなので、望美が望めばラブラブになるだろうし、望美が他の誰かを好きなら応援する。
おおらかお兄ちゃん。
そういえば、景時さんって将臣くんのこと何て呼んでいましたっけ??譲くんと一緒で、将臣くんにしてしまいましたが。
06:月の視線
「望美ちゃん、誕生日が近いんだってね」
朔から話を聞いたのか、ぼんやりと夕食のことを考えて空を眺めていた望美は、景時に声をかけられて振り返る。
「何か、欲しいものある?」
「・・・・・・」
言われて望美が凝視したのは、目の前にいる景時自身だ。
一番に欲しいものといったら、すでに決まっている。
だが、戸惑う景時を見ていると、本音を漏らすのはやめた方がいいようだった。
「じゃあ、一つお願いがあります」
その日白龍の神子一行が逗留したのは、雄大な自然を一望できる絶好の位置にしつらえた露天風呂が自慢の宿だった。
食事のあと、近くを散策した譲が風呂に入ろうとすると、入り口に『清掃中』の札がかかっている。
そして、サンショウウオが扉の前で堂々と座り込んでいた。
「・・・・・・・これって、景時さんの式神?」
ちらりと顔を上げたサンショウウオは、譲を威嚇するように小さな唸り声をあげた。
何故式神がこの場所にいるか不明だが、とにかく風呂に入れないならば長居は無用だ。
振り向くと、譲のあとに来た他の逗留客もサンショウウオに脅かされて引き返している。
清掃中のはずの風呂場に誰がいるのか知っていたならば、譲は簡単に諦めたりしなかったことだろう。
「何だか貸し切りみたいですね〜。他にも人がいるかと思ったのに」
「そ、そうだね〜。アハハ」
望美と並んで湯につかる景時は、乾いた笑いで答える。
誕生日の祝いに一緒に風呂に入りたいと言われたときは驚いたが、断り切れずに結局望美の言葉に従ってしまった。
せめて望美と距離を置きたいと思うのに、望美はぴったりと寄り添っている。
あらゆる衝動を堪える景時には、天国とも地獄とも言える時間だったが、望美が喜んでいるのだから当初の目的は達成できたはずだ。「景時さん、今日は満月ですよ。綺麗―」
「望美ちゃん」
「はい?」
「あの、オレと一緒にお風呂に入ったこと、みんなには内緒にしてくれないかな」
景時が神妙な面持ちで頼むと、望美は不思議そうに首を傾げた。
「朔にも?」
「朔にも!」
望美の全裸をしっかりと見たうえに、背中の流し合いをしたことが知られれば、おそらく他の八葉に殺される。
望美を妹のように大切にする朔も黙ってはいないはずだ。
「でも、お月様は見てますよ」
無邪気に月を指さすと景時が何とも情けない顔になってしまったため、望美はくすくすと笑って頷いた。
「分かりました。二人だけの秘密ですね」
あとがき??
江戸時代に作られた最初の銭湯は混浴だったそうですよ。(風紀が乱れたため、天保の改革で男女別々にされた。一体、風呂場で何を!)
ゲームでの温泉イベントは楽しかったですが、混浴ならどうなっていたのか、果たして。(笑)
うちの望美は若い娘にしてはいろいろアバウトなんですが、景時さんは彼女の肌を他の男には見せたくなかったらしい。
お題コンプリートを祝して最期くらいは艶っぽい話にしようと思ったのに、全然でしたね。風呂にまで入れたのに!
健全というか、ほのぼのが似合うカップルだなぁ。
07:偽り
洗っても、洗っても、掌についた血が取れないような気がした。
体にも服にも血の匂いが染みついている。
洗濯を日課にするようになったのは、少しでも気持ちを落ち着けるために必要なことだったからだ。
いくら洗い流しても、香を衣に焚きしめても、汚れた過去は二度と綺麗にならないというのに、やめられない。
「景時さんのことが、好きです」
望美に柔らかな微笑みを向けられた景時は、同じように笑顔を作りながら、泣きそうになった。
彼女は何も知らないから言えるのだ。
望美のように、自分を心から信じてくれた者を頼朝の命令で何人も殺めてきた。
清浄なる空気を纏う彼女に、自分はあまりに不釣り合いだ。「そういうことは、もっと他の奴に言った方がいいよ。俺なんか、全然駄目な男だからさ」
「駄目じゃないです。私は景時さんがいいんです」
「・・・・」
「私、本気ですよ」
真っ直ぐに見つめてくる望美の視線を受け止めきれず、景時は彼女に背を向けて歩き出した。
「景時さん」
「じゃあ、これで自分の顔に傷をつけられる?」
追いすがる望美に差し出したのは、景時が携帯している小刀だ。
刃物で自分の肌を切り刻むなど、若い女性に出来るはずがない。
「それなら、本気だって信じてあげる」
驚きに目を見開いた望美は、言葉を失ったようだった。
当然のことだ。
そのまま踵を返そうとした景時は、仕舞おうとした小刀を奪われてギョッとする。
「何だ、そんなことで良かったんですね」
「望美ちゃん!!」
言うが早いか、鞘から抜いた小刀を頬にあてた望美に景時は声を荒げる。
とっさに手を振り払わなければ、本当に望美の顔に傷が残るところだった。
「景時さん?」
きょとんとした顔をしている望美を見て、本当に涙が出そうになった景時は、彼女を強引に抱き寄せた。
「・・・・・嘘だよ」
こんなことをしなくても、望美が戯れに告白をする女の子でないのは分かってる。
彼女の身に何かあったらと考えただけで、胸が痛くて死にそうだ。
この先どんなことがあったとしても、腕の中のいとしい人を傷つけることなど、一生出来ないに違いない。
「ごめんね」
あとがき??
うちの望美ちゃん、どれだけ景時さんのこと好きなんだろう・・・。
08:溶けた心
「将臣くんと譲くんと、どっちが本命なの?」
授業の間の休み時間、親しいクラスメートが唐突に聞いてきた。
教室の隅で他の男子と談笑する将臣をちらりと見ると、望美は素っ気ない口調で答える。
「どっちも違うわよ。ただの仲の良い幼なじみ」
「えー、もったいない」
「だって、体がおっきいんだもの」
話しながら顔をしかめると、クラスメートは怪訝な表情で望美を見た。
「何それ?」
「何だか威圧感があるじゃない。恋人にするなら可愛い系の男の子がいいかな。身長が私と同じくらいの」
「ふーん」
縁側に座ってひなたぼっこをする望美は、ふと元の世界で交わしたそんな会話を思い出す。
望美の好みのタイプでいうと、八葉で選ぶなら敦盛などがなかなかいい感じだ。
品があり、華奢で小柄で、愛らしい外見をしている。
「おかしいわよね・・・・」
実際に望美が恋をしたのは、理想とは正反対の、背が高くて年齢も随分と上な青年だった。
庭先から自分の膝へと視線を下げた望美は頬を緩ませる。
望美の膝枕で眠る景時は、最初は恥ずかしがって遠慮していたというのに、熟睡しているようだ。「可愛いなぁ」
大の大人でも可愛く見えるときがあるということを、望美は景時に会って初めて知った。
目覚めてすぐ、赤い顔で自分に謝る景時の姿が目に浮かぶ。
無防備な寝顔は普段より幼く見えると聞いたことがあるが、彼は逆に大人びていて、年相応の素顔を垣間見たようだった。
彼は場の空気を和ませるために、どんなときも必死に笑顔を作っている。
何があっても、彼を守りたい。
平和を愛し、誰よりも戦場の似合わない彼が、平穏な毎日を過ごせるように。
景時の髪に優しく触れながら、そのために自分はこの世界に来たのだと望美は思った。
あとがき??
うちの望美ちゃんは、景時さんを励ますよりも、逃亡EDを受け入れちゃいそうだと思いました。
09:下さい
源氏と平氏の戦いに終止符が打たれ、平和な世の中になったというのに、心にぽっかりと穴が空いてしまったようだった。
全てが終わって数日経ったある日、望美は景時に告げたのだ。
元の世界に帰るということを。
何となく、彼女はこのまま自分のそばにいると思っていた景時は、心底驚いた。
だが、考えてみると当たり前のことかもしれない。
向こうには彼女が今まで暮らしてきた世界があり、家族もいる。
無理に引き留めて困らせるよりは、笑顔で見送った方が彼女のためなのだと、景時は何とか自分に言い聞かせていた。
「本当に、いいんですか?」
明日には望美が帰るという夜に、景時の部屋を訪れた朔は浮かない表情で訊ねた。
ここ数日、景時が無理に明るく振る舞っていることを、妹の彼女は見抜いている。
「望美ちゃんの意思を尊重することが、一番大事なんだよ」
書物を読んでいた景時は、振り返ることなく答えた。
望美が帰ると言いだしたとき、一番驚いたのは彼女がずっと景時を思っていたことを知っていた朔だ。
これには何か原因があると考えた朔だが、望美はけして口を割らない。
それならば景時自身が動かなければならないというのに、弱気な彼はなかなか重い腰を上げなかった。
「望美は、最期まで兄上のことを信じていました。兄上も、自分の目で見た望美のことをもっと信じてあげてください」
何を言っても無駄だと思ったのか、朔は景時の背中を一瞥して退室していく。本当は、書物を広げていても、内容は全く頭に入っていない。
思い出すのは、いつも自分に微笑みかけ、銃を向けたときですら目をそらさなかった望美の姿だ。
単純に、自分よりも向こうの世界を選んだのだと思っていた。
だが、もし何か別に理由があるとしたら・・・・・。
立ち上がった景時は、頼朝と対峙したとき以上に緊張した面持ちで、望美のいる対の屋へと向かった。
「話があるんだ」
眠ることが出来なかったのか、部屋にいなかった望美は、中庭で月を見ていた。
明るい満月のおかげで、灯火が無くとも彼女の表情がよく分かる。
悲しげに眉を寄せた望美は、彼の聞きたかったことを自ら喋り始めた。
「宮家の姫君と縁組みの話があるって聞きました。私がいたら、やっぱり迷惑でしょう」
「誰が・・・・」
「郎党の方々が噂していました」
俯いた望美は、小さな声で答える。
そうした話があることは真実だ。
だが、景時にはその話を受け入れる気は全く無く、折を見て断りの書状を送ろうと考えていた。「私には、何もないんです。「白龍の神子」の名前は、戦が終わったら何の意味もなくなる。高貴な血筋のお姫様がお嫁さんになった方が、ずっと景時さんの役にたつもの」
「望美ちゃ・・・」
「ごめんなさい」
一歩踏みだそうとした景時から、望美は後退して距離を取る。
「これ以上、景時さんの顔を見ているのが辛いんです。景時さんが、綺麗なお姫様と一緒になって、私のことなんて忘れちゃうのかと思うと、私、耐えられない・・・」
涙を掌で拭う望美を見た景時は、居ても立ってもいられず、彼女の体を強引に抱き寄せる。
いつもいつも煩いくらいに付きまとい、自分の気持ちに正直に生きる望美が、最期に自分を想って身を引くなど、考えたこともなかった。「君の、これからの人生をオレにくれないか」
望美の体が大きく震え、景時は腕の力を緩めて彼女の顔を見つめる。
「ずっと、一緒にいよう」
鼻をすする望美は泣き腫らしたひどい顔をしていたが、景時の目にはどんな美人よりも魅力的に映った。
「・・・・・私、ただの女の子ですよ。じ、持参金だってないし」
「オレはただの女の子がいいんだ」
明るい笑みを浮かべた景時は、もう一度彼女の体を強く抱きしめた。
「君のことが好きだよ」
あとがき??
京に残るEDですね。
ずっと望美→景時だったので、ちゃんと両思いを書きたくなりました。
やっぱり最期は男から決めて欲しい!
しかし、妹は龍神と結婚するし、兄は異世界人と結婚するし、二人の母は気の休まるときがないですね。
優しそうな人だったので、望美ちゃんとも仲良くして欲しいと思います。
10:想いの強さ
「呪詛だって!?」
「ええ・・・・・」
朔は不安げな面持ちで頷き、白龍もしょんぼりとした様子で望美の枕元に座っている。
「神子から禍々しい気を感じる」
「陰陽師の兄上なら何とか出来るかもしれないけれど、今日は朝から出仕していて・・・」
「ふーん」
ヒノエが見たところ、望美はすやすやと気持ちがよさそうに眠っているだけだ。
しかし、耳元で呼びかけても、体を揺すっても、まるで目覚める気配がない。
望美が外に出た際に何か呪詛の元になる物に触れたのか、それとも敵は媒体が無くとも術を扱えるほど実力のある陰陽師なのか。
何にせよ、源氏に味方をする白龍の神子を疎ましく思う者、平家の人間の仕業に違いなかった。「ヒ、ヒノエ殿――――!!」
悶々と悩み続けていた朔は、身を屈めたヒノエが望美に顔を近づけるのを見て絶叫する。
とっさに彼の腕を引かなければ、唇が触れ合っていたはずだ。
「一体、何を・・・」
「大陸から伝わってきた話だけど、呪いをかけられた眠り姫は彼女を愛する男の口づけで目覚めたそうだよ。試してみてもいいじゃないのかな」
「そういうことなら、僕がやってみましょう」
名乗りを上げた弁慶を押しのけて、朔は皆から望美を遠ざける。
「同じ龍神の神子である私でも、大丈夫じゃないかしら!望美と私は対となる存在なのよ」
「神子ー!!」
帰宅した景時が履物を脱いで家にあがると、仲間の姿がどこにもなかった。
人数が多いため、いつもなら誰かしらが出迎えてくれるはずだ。
何かあったのだろうかと思いながら歩くと、望美の部屋のあたりが騒がしい。「ただいま〜、みんな、こんなところで何やってるの」
一応声をかけてみたが、答える者は誰もいない。
「俺が」「私が」と何かを熱心に話しているため、景時が入ってきたことにも気づいていないようだった。
「望美ちゃんはお昼寝中?こんなに煩くてよく眠れるね〜」
仕方なく、部屋の隅で横になる望美のところに行くと、彼女の目がパッと開く。
「景時さん!」
目覚まし時計のベルを聞いたかのように、彼の声に反応して半身を起こした望美はそのまま景時に抱きついた。
「魔王を倒して勇者になれました。約束通り、私のお嫁さんになってくださいね!」
どんな夢を見ていたのか、望美はしっかりと景時の背中に手を回して離れない。
少々息苦しかったが、寝ぼけた望美もまた可愛かったため、何も問題は無いようだった。
「何、呪詛が返されただと!」
「はい。貘の呪詛にかかったものは皆眠ったまま永遠に目覚めることなく衰弱していくはずなのですが・・・」
平家の公達達は、雇い入れた陰陽師の報告に舌打ちをした。
「どうやら、先方にも優秀な陰陽師がついているようですね」
「くっ、源氏め」
あとがき??
景時さんへの想いは、平家の呪詛を跳ね返すほど強いらしい・・・・。
ちなみに望美の見ていた夢はRPG風で、仲間と共に魔王を倒して、捕らわれていたお姫様(景時さん)を助ける内容のようです。
最期は夢も現実もラブラブハッピーエンドvv