(おまけSSシリーズ221)『湯ノ花』
国外に出ての任務は期間が長く、少々億劫だが楽しみもある。
この日7班が逗留したのは、有名な温泉地だった。
食事もなかなかの物で、昼間は過酷な任務があるものの、待遇は悪くない。
「もう暫く、いてもいいかもね〜〜」
鼻歌を歌うサクラは、さっそく宿の自慢の大浴場へと直行していた。脱衣所に入ると、中は閑散としている。
行楽シーズンを終え、一段落した時期のせいか7班以外の客は数える程度だ。
「わあ、貸し切りみたい!!」
歓声をあげたサクラはいそいそと服を脱ぎ出す。
髪を高く結わえ、タオルを一枚持ったサクラは風呂場へと続く扉を意気揚々と開いた。
最初は、単純に格好いい人がいると思ったのだ。
彼女の想い人にはかなわないが、男前といって良い。
年齢は20代後半あたりだろうか。
そこまで考えて、サクラははっとなる。
自分はタオルで体を隠しただけの姿で、ここは女湯で、普通ならば男は湯に浸かってなどいない。「ち、ち、痴漢・・・・」
「あれー、サクラ?」
震えるサクラがかすれた声を出したとき、湯船にいた男も彼女に気づいたようだ。
それは、サクラが毎日聞いているもので、間違えるはずはなかった。
「ハハハー、誰もいないと思って油断してたなーー。顔、見られちゃったねぇ」
「か、か、カカシ先生!!!?な、何で女湯に!」
「ここ、混浴なんだよ。知らなかった?」
パニックになったサクラはただただ呆然とその場に立ちつくす。
思えば、入り口に「湯」という暖簾を見つけて普通に入ってきたが、男湯と女湯の表記はなかった。
「そんなところに突っ立ってないで、入れば。俺、もう出るし」
「ギャーーーーー!!!」
おもむろに立ち上がったカカシに、サクラは絶叫した。
多少湯気はあるものの彼の体がほぼ丸見えだ。
「せ、せ、先生、かくし、隠してよ!」
「ああ、悪い」
カカシは頭の上に載せていたタオルを取ったが、すでに手遅れな感じだった。
見たくもないものがサクラの脳裏にしっかりと焼き付いている。「あー、サクラ、落ちたよ」
「えっ!」
すれ違いざま、カカシは足下に落ちたタオルを拾いサクラに差し出す。
「はいっ」
カカシの裸に驚き、両手で顔を覆った際に体を隠していたタオルが落ちたらしい。
つまりサクラもカカシ同様素っ裸だ。
朗らかに笑うカカシの顔を見た瞬間、サクラの記憶はぷっつりと途切れたのだった。
「うう、うー・・・」
「・・・・何だか、凄くうなされている感じなんだけど」
うめき声を発するサクラの顔を覗き込み、ナルトは不安げに言う。
あらゆる意味で興奮しすぎたサクラは、湯に入る前に湯あたりを起こし、その場に昏倒したようだ。
部屋に布団を敷き、眠るサクラの額の上には濡れたタオルが置いてあるが、あまり効果はない。「えー、俺の体ってそんなに刺激的だったの?」
「何かしたんじゃないだろうな」
サスケに半眼で見据えられ、カカシは激しく頭を振っている。
「まさか。やるならもっと人の来ないところでするよ。じっくり、たっぷり、思いっきり」
「何を?」ということはナルトもサスケも聞かないでおいた。
カカシが服を着せて部屋まで運んだわけだが、そのことを知ればサクラはまた気絶するかもしれない。
あとがき??
アニナルの影響で水浴びカカシを書きたいなぁと思ったんですが、温泉カカシになっていた。
(おまけSSシリーズ222)『ビバノンノン♪♪♪♪♪』
― 簡単なあらすじ ―
ひょんなことから、元担任カカシと結婚することになったサクラ嬢。
式でのドレスの試着までするものの、踏ん切りが付かない。
そもそも、何故結婚ということになったのか、分からなかった。
サクラに電話で呼び出されたサスケは、約束通り、忠犬コタ公の銅像の前で待っていた。
買い物に行こうと思っていたのだが、サクラの様子がどうも尋常ではなく、断れなかったのだ。
急な用事があると言ったが、何だろうかと考えながら雑踏の中を見つめる。・・・・妙なものがいた。
全身真っ白な服を着た女が全力疾走だ。
彼女の出で立ちと勢いに呑まれ、通行人は次々と道をあけていく。
「サスケくんーーー!!!」
よく響く声で名前を呼ばれ、サスケは逃げ出したくなるのをぐっとこらえた。
近づくにつれはっきりとしたが、それはウェディングドレスの裾を掴んで走るサクラだ。「お前、何て格好して・・・」
「サスケくん、私を連れて逃げて!!!」
サスケに飛びついたサクラは彼の体をしっかりと掴み、悲愴な声音で言う。
「駆け落ちしましょう。それしかないわ」
「・・・・・はあ!!??」
サクラの瞳は悲しげに潤んでいて、どうもいつものように突き放すことが出来ない。
ウェディングドレス姿のサクラは人目をひいたが、今ではサスケも注目の的だ。
中にはドラマの撮影かと思ったのか、カメラを捜す者もいる。
穴があったら入りたいとは、こういうことだとサスケは思った。
「え、お前、『卒業』!!?『卒業』やっちゃったの?」
連絡を受け、サスケの家に駆けつけたナルトは好奇心一杯に訊ねる。
サクラはまだドレスを着たままで、少しは落ち着いたのかサスケの入れた茶を啜っていた。
ちなみに『卒業』とは主演のダスティン・ホフマンが式の最中に花嫁を強奪して逃げる有名な映画だ。
「いいから、座れ」
ナルトのために新たな茶を用意するサスケは、どこか疲れた表情だった。「私は結婚なんかしたくないのよ!」
ナルトに事情を説明したサクラは、最期をそう締めくくる。
「だからって、そんな服で逃げてくるな」
「先生に抱きつかれて、何だか絶望したんだもの。気づいたら逃げてた」
「大体話は分かったけどー、これからどうするのさ?」
茶菓子の煎餅を食べながら、ナルトは上目遣いにサスケを見つめる。
先の方針が決まっていれば、わざわざナルトを呼んだりはしない。「どうしよう・・・」
逆に聞き返され、腕組みをしたナルトは「うーん・・・」とうなり声をあげていた。
あとがき??
えーと、たぶん、これで終わり。(笑)
このままいったら、サスサクになりそうなんだもの。もしくは、ホラー。
町中でドレス姿のサクラに飛びつかれ、「ギャッ!!」となるサスケを書きたかっただけです。
ナルチョは相変わらず可愛いなぁ〜v好き好き。
(おまけSSシリーズ223)『いいこ、いいこ』
敵味方にかかわらず、任務中に人が死ぬと非常に憂鬱な気分だ。
自分が殺した場合はなおのこと。
暫く7班の仕事を休んで国外に出る任務をしていたカカシだが、家に向かう足取りは重かった。
久しぶりに下忍達の顔が見たいと思ったが、そろそろ夕食時だ。
明日になれば会えるのだし、急ぐこともない。
「あっ、先生。今、丁度帰ろうと思ってたのよ。会えて良かったー」
玄関の前まで来ると、サクラが中から出てきたところだった。
予想外の人物の登場に、カカシは目をぱちくりと瞬かせる。
「サクラ??何でここに・・・」
「先生が言ったんでしょう。留守中に部屋を掃除しておいてくれって」
「・・・・そうだったっけ?」
首を傾げるカカシだったが、サクラは家の鍵を持っており、たぶん彼が指示を出したのだ。「今日帰ってくるって聞いたから、ご飯作っておいたわよ。あたためなおして食べてね」
「うん」
素直に頷くカカシの前まで歩いてくると、サクラはにっこりと笑って彼を見上げた。
「カカシ先生、お帰りなさい」
「・・・・ただいま」
ほんわかとした笑顔に、カカシも自然と笑みを返す。
短い会話なのに、先ほどまでの鬱な感覚が随分と和らいでいた。
理由は分からないが、何故かホッとしている。
「ねえ、せっかく会えたんだし一緒にお茶でも飲もうよ。駄目?」
「いいわよ。8時が門限だから、長居できないけど」
カカシが扉を開いて促すと、サクラはすんなりと中に入っていく。
そして、自分の家のように上がり込み、ソファーの前でカカシを手招きした。「先生ー、ちょっと、ここに座って」
「え、何で?」
「何でも。先生、怪我しているみたいだから」
首を傾げたカカシは、サクラの言うままに大人しくソファーに腰掛ける。
今回の任務で、カカシは傷など負っていない。
どういう意味だろうかと考えていると、ふいに小さな掌がカカシの頭の上にのった。
つまり、頭を撫でられている。「あの・・・、サクラ?」
「あれ、違った?こーして欲しいのかなぁと思ったんだけど」
明るく笑うサクラは、そのままカカシの頭をやんわりと抱える。
優しい匂いと、肌に伝わるあたたかな感触がたまらなく心地よい。
「不安なときって、こうすると安心するでしょう。私のママもよくこうして抱きしめてくれたの」
「・・・・・うん」
「任務、お疲れさまでした」
今、カカシを抱きしめているのは彼よりもずっと年下で小さな下忍だ。
それなのに、不思議だった。
母親のように、甘えられる人。
何があっても、自分を擁護して慈しんでくれる、大きな存在のように感じられた。「実は、先生が私に掃除を頼んだ話は嘘なの。管理人さんに頼んで、強引に鍵を借りたの。怒る?」
最期の言葉は、カカシの顔をのぞき込みながら発せられる。
心配そうに眉を寄せていたから、カカシは思わず苦笑していた。
「全然」
あとがき??
年下サクラに甘える先生を書きたかったのでした。これ、カカサクの基本。
今更なんですけれど、カカシ先生の家の間取り、大嘘です。
先生の部屋ってベッドしかない感じですよね。寝るためだけに帰っているようだ。忙しいから?
(おまけSSシリーズ224)『ポックル 8』
− あらすじ −
森の精霊コロポックル(と思われている)サクラはアカデミー一年生の可愛い女の子。
コロポックルファンのイタチ兄とは大の仲良しv
うちは家にうち解けたものの、彼女にはある悩みが・・・・。
今回最終回なので、超イタサクです。このカップリングが駄目な人は注意!!!
「コロポックル」
その言葉に反応し、サクラは後ろを振り返る。
すっかり自分の呼称として定着したのは嫌だと思うが、それは確かにサクラを呼ぶ声だった。
見ると、電信柱の陰に佇むカカシがサクラを手招きしている。
アカデミーの帰り道で、他に人気はない。
以前攫われた経験上、サクラは警戒心もあらわに彼を見つめたが、カカシは構わず手招きしている。
「いいこと教えてあげる。イタチについてだよ」
怪訝な顔をしながらも、サクラはイタチの名前に釣られて近づいた。
一定の距離を保っているのは、いざというときの逃走のためだ。「あのね、イタチが医療チームに怪しげな薬を注文していたよ。あれ、君に飲ますつもりじゃないかな」
「薬?」
「んー、たぶん、猫耳か兎耳が生える薬だよ。もしくは、その他の萌えるオプションか」
なにやら興奮気味に話すカカシだが、サクラにはその意味がよく分からない。
すでに人間の耳があるというのに、何故、猫耳とやらが必要なのか。
「とにかく、イタチにピンク色の液体を飲まされそうになったら、注意してね。じゃあ」
「・・・・はい」
自分の両手を握って熱く語るカカシに、サクラは一応頷いてみせる。
本当に忠告をしに来ただけのようで、カカシはすぐに立ち去ったが、サクラは困惑した表情のままだった。
近頃ではすっかりイタチに懐いたサクラだが、日に日に不安は募っていく。
イタチはサクラを「コロポックル」だと思っているから大事にしているのだ。
ただの人間だと分かれば、何の興味も持たないに違いない。
イタチに優しくされるたびに、サクラは胸が痛む。
人であっても、同じように接してくれれば、どれだけ良いだろうかと思ってしまう。
「こ、これは・・・・・」
「ジュースだ」
コップに入ったピンク色の液体を眺めるサクラに、イタチは即答する。
いつものようにうちは家を訪れると、すぐさまこのジュースを出され、サクラは怯えた。
カカシの言った通りだ。
「・・・私、喉がかわいていないから」
「冷えているうちに飲むんだ。さあ」
コップを持ったイタチは、いつになく強引にサクラに詰め寄る。
ますます、怪しい。
「私、帰ります!」
「待て。何が何でも、これは飲んでもらうぞ!!」
「い、嫌ーーー!!!」イタチの部屋から、妙な悲鳴が聞こえ、さらにはどたばたと騒がしくなりサスケは眉を寄せる。
隣りの部屋なのだから、薄い壁を通してその異変はすぐに伝わった。
「兄さん、どうかし・・・・」
駆けつけたサスケが扉を開くと、とんでもない光景が目に入る。
サクラの体を床に組み伏せたイタチが、廊下で硬直するサスケに冷ややかな眼差しを向けていた。
そのままとどまれば、殺されそうな空気だ。
扉をゆっくりと閉めたサスケは、階段を駆け下りて自分が見たものを母親に説明する。
「えっ、もう孫が出来るのかしら。ちょっと早すぎるわよね・・・」
思案する母の呟きはサスケには意味不明だった。
「・・・ううっ、ひどい」
結局、怪しげな薬を全て飲まされたサクラはその場に座り込んでしくしくと泣いている。
自分が猫や兎にされてしまうと思うととても嫌だ。
それよりも悲しいのは、イタチが自分の意志を全く無視して行動したことだった。
「手荒な真似をしてすまなかった。だが、サクラは今日からコロポックルから人間になったんだ」
「・・・・・・は?」
「この液体は人以外のものを人間にする薬だったんだ。これで、サクラは森には帰れない」
混乱するサクラの体を、イタチがしっかりと抱きしめた。
「責任は取る。一生かけて、俺がお前の面倒を見る」コロポックルは自然豊かな場所で生きる精霊。
人間のふりをしていても、サクラがいつかは森に帰ってしまうことを、イタチはずっと危惧していたのだろう。
コロポックルだから愛されているという不安は、サクラの杞憂だったようだ。
そして、もともと人間なのだから、薬を飲んでも体に変化があるはずがない。「ずっと一緒・・・」
イタチの背中に、サクラも手を回してしっかりと抱える。
優秀な忍びらしいが、最期までサクラが普通の人間だと気づかないとは、とんだ間抜けだ。
だけれど、妙に放っておけない気持ちだった。
あとがき??
終わったー、イタサクは書くより人様の話を読む方が楽しいです。
イタチ兄、口移しで薬を飲ませたんですが、想像するとエッチいですね。サスケも動揺。
『みすてないでデイジー』最終回を、そのまんまイタサクで再現です。
おそらく、サブタイトルは「みすてないでサクラ」(イタチ談)。
ここまで読んでくださった方々、有り難うございましたv
コロポックルーーー!!(合い言葉)
(おまけSSシリーズ225)『ナルトの宝物』
ナルトと喧嘩をした小桜は夕飯時になっても自分の部屋から出てこなかった。
喧嘩といっても、自分の思い通りにならなかったことに苛立った小桜が勝手に怒っているだけだ。
扉をノックしたカカシが部屋を覗くと、小桜はベッドの上でクッションを抱きしめてそっぽを向いている。
「出ていけ」と怒鳴られないところをみるともう少し近づいても大丈夫だろうか。発端はナルトが肌身離さず持っている、綱手から譲り受けた首飾りだった。
小桜の願いは何でも叶えるナルトだが、それが欲しいと言われたときは、頑なに拒んだ。
そして、小桜はつむじを曲げて部屋に閉じこもっている。
そもそも、ナルトは近頃綱手と一緒にいることが多く、はたけ家にいる時間もごく僅かだ。
小桜としては、綱手にナルトを取られたようで面白くない。
さらには綱手はいつまでも若く美しい外見なのだから、二人きりでどう過ごしているか非常に気になった。
「小桜はさ、もしナルトが自分のあげた者を他の人に譲っちゃったら、どう思う?」
「絶対、嫌!!」
「同じだよー。あの首飾りは綱手様が大切にしていたものだから、ナルトも譲れないんだ」
「・・・・」
「小桜より綱手様が大事ってことじゃないんだよ」
カカシに頭をぽんぽんと叩かれ、小桜は唇を噛みしめる。
それでも、あの首飾りがあるかぎり、二人は常に一緒にいるようで落ち着かないのだ。「あとね、ナルトが持ち歩いているのって、綱手様の首飾りだけじゃないんだよ」
「えっ?」
振り向いた小桜にカカシはにっこりと笑いかける。
「小桜が作ったお守りの袋、あいつ、いつもポケットに入れているんだ。あげたの覚えてる?」
「・・・・」
カカシの意外な言葉に、サクラは額に手を置いて考え出した。
おぼろげな記憶だが、ナルトが長期任務に行く前に、そのような物を渡した気がする。
だが、今より3、4年前のことだから、随分と乱雑な縫い目の守り袋だったはずだ。
しかも、当時大好きだったキティちゃんの布だった。
「ええーー!!!あ、あんなもの、まだ後生大事に持ってたわけ!!は、恥ずかしいーー!」
「あんなものって・・・・一生懸命作ったんだろ」
「そうだけど・・・」
針で何度も指を突きながら、必死に作ったような気がする。
しかし、中身は「はやくかえってきてね」と書かれた拙い文字とナルトの似顔絵の描かれた紙だ。
御利益などあるはずがない。
それでも、小桜の純粋な想いが詰まった袋は、ナルトには何よりのお守りだった。「ナルトは、昔は何も持っていなかったから。人がくれた物は凄く大事にするんだ。物でも、気持ちでも」
「・・・うん」
「綱手様といるのは仕事の引継のためだし、忙しい中わざわざうちに来るのは小桜の顔が見たいからだよ」
「・・・・」
「小桜がここに閉じこもってたら、下にいるナルトが可哀相じゃないかなぁ」
カカシに促され、小桜はクッションを放って立ち上がった。
なぜだか無性にナルトの顔が見たい。
そして、我が儘を言ったことを謝りたかった。
「パパって、凄いね」
先ほどまで小桜の心は嵐のようだったが、今ではすっかり素直な気持ちになっている。
小桜がその掌を握ると、カカシは悪戯な笑顔を浮かべてみせた。
「今頃気づいたか」
あとがき??
小桜→ナルトなんですが、カカ小桜ほのぼの話になってしまった。
この二人が仲良しなのは、珍しかったですね。(笑)親子ネタも好きです。
(おまけSSシリーズ226)『姐さんはくノ一 10』
「どけ、ババア!!」
「あっ」
後ろから肩を押された婦人はそのまま両手をついて地面に倒れ込んだ。
転んだ拍子にバッグが落ち、中身はばらばらに散らばってしまう。
婦人を押した張本人である3人組の男達は、彼女のことなど気にせず喋りながら脇を通り過ぎた。
国境近くの田舎町から出てきたばかりの婦人は、大きなため息をつく。
「全く・・・・近頃の若い人達は」
「大丈夫ですか!」
愚痴をこぼしつつ道端の小物を拾っていると、駆け寄ってきた者がいた。
彼女が転んだ場面を、どこかで目撃していたのだろう。
「全く、酷い奴らですよ。お怪我は?」
「・・・・平気です」
20代半ばと思われる青年は彼女の荷物を残らず拾い、目的地まで送ると言い出した。
人当たりの良い彼の笑顔に目を細め、婦人はゆっくり頷く。
確かに柄の悪い若者が多いが、例外もいるようだと思った。
「じゃあ、昔はこの里に住んでいらしたんですね」
「そうですよ。何年か前に主人の仕事の関係で引っ越して。娘はまだここにいるんですけど」
そして、婦人は自分の荷物を持って傍らを歩く若者をちらりと見上げる。
イルカという名前の彼はアカデミーで教師をしているらしく、実に誠実な人柄だ。
少しの間一緒にいただけだが、婦人はすっかり惚れ込んでしまった。
「その娘が、いつまで経っても独り身でね。イルカさんみたいな人と結婚すれば嬉しいのに」
「ハハハッ、光栄です」
頭をかいたイルカは照れくさそうに笑う。「イルカさんは、もうご結婚を?」
「まだですよ。でも、心に決めた人はいます」
「そうですか。その方はどういった・・・」
「上忍で、本当に素敵な人なんです」
思わず頬を染めたイルカを、婦人は優しい眼差しで見つめる。
「だから、俺も試験に受かって彼女と同じ上忍になってから、プロポーズしたいと思っています」
「そこまで思われているなんて、よっぽど美人さんなんですね」
「あなたに、少し似ていますよ」
60近いと思われるその婦人に、イルカは笑いかける。
世辞ではなく、本当に彼女はイルカの意中の人、紅に似ていた。
若い頃はさぞ美人だったと思われる風貌で、今でも十分綺麗だと言える。
紅の面影を重ねたからこそ、突き飛ばされて転んだ婦人を見た瞬間に走り出したのかもしれない。
「その角を曲がった建物が、うちの娘の住まいですよ」
「えっ!!こ、ここですか?」
娘に会うため、田舎から出てきた婦人の指し示した建物に、イルカは思わず声をあげた。
彼がもう何度も通っている、紅の家があるのと同じ建物だ。
まさかと思いつつ振り向いたイルカは、にっこりと笑う婦人を見て予感が的中したことを知る。「お、お母さん!!ええ!!?」
呼び鈴を鳴らし、出てきた紅は母親とイルカが同時に入ってきたことに仰天した。
彼女が連絡もなしに来たこともあるが、何故イルカを伴っているのかが分からない。
「ほら、何を突っ立っているのよ。早くイルカさんにお茶をお出しして」
「あ、う、うん」
慌てる紅は、とりあえず彼らが座るための薄いクッションを用意し、キッチンへと入る。
そして、茶を持って戻ってきた紅に、婦人は彼に助けられた事情を簡単に説明した。「有り難うございました、イルカ先生。うちの母が世話になって・・・」
「いえ、当然のことをしただけですよ」
うち解けた様子で話す二人に、婦人は何となく彼らの関係がどういったものかを察知した。
そして、婦人の横に置かれた風呂敷包みに気づくと、紅は思い切り顔をしかめる。
「お母さん、もしかして、これ・・・・」
「見合い写真。いくら郵送してもあんたが送り返してくるから、直々に持ってきたんだよ」
「ええ!!!」
素っ頓狂な声を出したのはイルカだ。
妙に重いと思ったが、恋のライバル達が写る写真をそうとも知らずに運んだとは、馬鹿のような話だ。
肩を落としたイルカをちらりと見て、婦人は楽しげに笑った。「でも、この写真はもう処分していいよ。イルカ先生が上忍になるまで、待つことにするから」
「えっ?」
母の突然の心変わりに紅は眉をひそめたが、傍らに座るイルカはホッと胸をなで下ろす。
茶をすすった婦人は、困惑する紅を見上げてにっこりと笑った。
「今度、イルカさんも連れてうちの父さんに会いに来なさい。きっと喜ぶよ」
あとがき??
久々イル紅シリーズ。頑張れ、イルカ先生!
(おまけSSシリーズ227)『百面相』
「サクラのどこが好きなの?」
「・・・・顔が面白い」
サスケの答えが、彼女はよほど気に入らなかったようだ。
いのから話を聞きつけたサクラは彼の家に直行し、説明を要求しだした。
「面白いって、何よ、面白いって!そんなに私は笑える顔をしているっていうの!!?」
「・・・何のことだ」
「昨日、いのに言ったんでしょう!しらばっくれても無駄なんだから」
サクラに詰め寄られてもソファの上で平然と読書を続けていたサスケは、何となく経緯を思い出す。
「・・・・ああ。だって、面白いだろう」
「何が!!」
「サクラの顔」
「・・・」
ちらりと視線をそらしたサスケに真顔で言われ、サクラは呆れてしまって声が出ない。
付き合い始めたばかりの恋人に、普通はこうしたことを言うだろうか。
身を乗り出したサスケに頬を触られても、ぼんやりとした眼差しを向けるだけだった。「キャ、キャアアアーーーー!!!!」
不意打ちのキスをされたサクラは、ワンテンポ遅れて悲鳴を上げる。
サスケの好きなトマト色になった顔を、サスケは楽しそうに眺めていた。
「やっぱり、面白い」
怒ったり笑ったり泣いたりと、サクラの顔はころころと変わる。
見ていて飽きない。
もっといろいろな表情のサクラを見たいと思う。
手首を掴まれたままのサクラは、赤面した顔でサスケの瞳を見つめ返した。
「えーとね、サスケくん。次から同じ質問をされたら、「面白い」の部分を「可愛い」に変えておいて」
「了解した」
あとがき??
言葉の使い方を間違っているサスケ坊ちゃん。
サスケ攻めをやりたかった。
カカサク祭りをやっているので、拍手では別カップリングを書きたい、かなぁ。
(おまけSSシリーズ228)『第三者の影』
三ヶ月もの長期任務から帰ったカカシは、ある違和感を感じていた。
出迎えのための忍びが何人か里の入り口で待機していたが、そこに彼の最愛の者の姿がない。
同棲中の恋人、サクラはカカシが長く里をあける時は、必ずその場所で待っていたのだ。
カカシの帰る日は事前に知らせてある。胸騒ぎがした。
サクラの身に何かが起きたのか、または・・・・・二人の間に大きな隔たりが出来たのか。
どちらも考えたくない。
毎日毎日、彼女のもとへ戻ることを願って仕事を終わらせてきたのだ。
サクラの姿を早く見て、一刻も早く安心したかった。
イライラとした気持ちで任務の報告書を出したカカシは、ようやく帰ることを許される。
一目散に駆け出したカカシは家に直行したが、呼び鈴を鳴らす前に、ある躊躇いを感じた。
サクラが、いなかったらどうするか。
そこまでは考えていなかった。「はーい」
幸い、中からはすぐに反応が返ってくる。
扉が開かれるのと同時に、カカシは彼女の腕を引き寄せて体を抱きしめていた。
最初は驚いたサクラも、相手が分かるとその手を彼の背中に回してくる。
「カカシ先生、お帰りなさい」
「ただいま・・・・」
サクラの優しい声音に安堵したカカシだが、すぐにも新たな不安が芽生え出す。
病気や怪我でないのなら、何故彼女はこの場所にとどまっていたのか。「サクラ、どうしてみんなと一緒に出迎えに来てくれなかったの?」
「あっ・・・うん・・・・」
顔を覗き込んで訊ねると、サクラは落ち着かない様子で目をそらす。
何か、隠し事をしているように感じられた。
「サクラ、何か変わった?」
「・・・・」
無言のまま俯いたサクラは、何を言うべきか考えているようだった。
カカシに対して後ろめたい、何かがあったのだ。
「他に、好きな男が出来たんだな」
「えっ」
「言ってみな、悪いようにしないから。誰?」
「・・・・先生、物騒なこと考えているでしょう」
カカシの中の殺意を感じ取ったのか、サクラは困ったように笑う。
「勘違いよ。カカシ先生の他に、好きな男の人なんていないわ」
「じゃあ・・・」
「子供が出来たの」一瞬、何を言われたか分からずカカシはぽかんとした顔になった。
だが、はにかんで笑うサクラを見つめるうちに、その表情は喜びに満ちたものに変わっていく。
「本当に!?」
「本当、本当。検診の時間と重なったから、先生のところに行けなかったの。ごめんね」
満面の笑顔のカカシを見て、安堵したのはサクラも一緒だった。
少しでも嫌な顔をされたら、死んでしまうかもしれないと思っていたのだ。
「サクラ、結婚しよう。絶対に幸せにするよ」
「私はもう、幸せよ」
カカシに抱きしめられながら、サクラは心からの言葉を口にする。
「じゃあ、もっともっと幸せにする」子供のようにはしゃぐカカシの声を聞き、サクラは笑顔のまま涙を滲ませる。
彼がこうしてそばにいてくれれば、それだけで十分幸せなのだ。
そのことが、少しでも彼に伝わればいいと思った。
あとがき??
サクラ、16、7歳です。
『スター・ウォーズ EP3』の小説を読んでいたら書いていました。
ああ、あの二人にも幸せになってもらいたかったーーー。(涙)
私は、アナパド派ですよ。
アナキンに引きずられて、カカシ先生、今回ちょっと情熱的・・・。
(おまけSSシリーズ229)『僕を呼ぶ声』
サクラの声が出なくなった。
数日間から咳をしていたが、サクラは風邪をひくと喉に影響が出るらしい。
薬を飲むと熱はすぐに下がり、医者は2、3日で声も元に戻ると言ったそうだ。
なお、これらは全てサクラが筆談でサスケに伝えたことだった。「・・・・・」
サクラは黙々と食事を続けている。
喋れないのだから、朝食の席で食べること以外に出来るはずがない。
沈黙に耐えられずに付けたTVの音が、いやに大きく響く。
声が無くなっただけでサクラはそこにいるのに、いつもと全く違う朝の風景のようだった。
視線に気づいたのか、顔を上げたサクラはにっこりと笑う。
その笑顔がいつもと全く同じだったから、サスケは少しだけ安心した。
「ううっ、サクラちゃん。可哀相に。俺に出来ることがあったら何でもするから言ってね」
7班の集合場所に行くと、事情を知ったナルトが瞳を潤ませてサクラの手を握る。
「えっ、水筒?うん、今日はちゃんと持ってきたよ。暑くなりそうだし」
ナルトの言葉に、サクラは笑顔で頷く。
「そうそう。カカシ先生、絶対遅刻の言い訳はそんな感じだよね」
はたから見ると、ナルトが独り言を言っているように見える。
だが、サクラはきちんと相づちを打っており、二人の間に会話がきちんと成立していた。
喋らないサクラをもてあましていたサスケには、驚愕の事実だ。「ナルト、サクラの言っていることが分かるのか?」
「えっ、お前、分からないの!?」
驚きの声と共に聞き返され、サスケは言葉に詰まる。
首を傾げるサクラへと目をやったが、彼女が何を思っているか、一つも分からない。
だが、それを認めてしまうのは癪だった。
面白くない。
全く面白くない。
そばにいても思考が読めないことにいらついて、サスケは自然とサクラから距離を置いていた。
ナルトがいつも通りにサクラと楽しげに顔を見合わせているのも気にくわない。
そんなサスケを見て、カカシがにやにやと笑っているのもむかつく。
一日仏頂面で過ごしたサスケは家に帰る間も終始無口で、サクラが後を追いかけてきても無視だった。ぐいぐいと袖を引っ張られ、サスケはようやく振り返る。
サクラが、笑っていた。
にこにこと、明るい笑顔でサスケを見つめている。
これならばナルトの通訳は必要ない。
勝手に嫉妬して、腹を立てていたのが馬鹿のように思えた。
「分かってる」
サスケがその髪に触れると、サクラの顔が一層綻んだ。
サクラの瞳が、表情が、体全部が、彼のことが好きだと言っている。
サクラの中にはサスケへの好意しか見当たらなかった。
声が聞こえずとも、サクラはサクラだ。
変わるはずがない。「今日の夕飯は、ミートソーススパゲティだ」
サクラの手を掴んで言うと、彼女は頷いて応える。
前みたいに、トマトを入れすぎないようにしないとね。
傍らを歩くサクラの声が、今度こそサスケの耳にも届いたような気がした。
あとがき??
ナルトは毎日毎日見ていたから、サクラのことを誰よりも分かっているのですよ。
それでもサスケを選んでしまうあたり、サクラも罪な女。
二人、一緒に暮らしているんですかね。
(おまけSSシリーズ230)『愛玩動物』
その日、サクラは長期任務に行くというカカシに、突然呼び出された。
用件は、自分がいない間にペットの面倒を見てもらいたいとのこと。
カカシの家には友人に飼い主を捜すよう頼まれた子犬が数匹いる。
犬好きだからという理由で押しつけられ、カカシもまた放っておけずに引き受けてしまったのだ。「これがうちの鍵。もしかしたら帰ってこられないかもしれないし、サクラに任せれば安心だよ」
何とも応えられずに、サクラはカカシの顔を見つめ続ける。
何て残酷なことを言うのだろうと思った。
彼のことが好きな女の子の前で、死ぬ可能性をほのめかすとは、最悪だ。
腹を立てたサクラだが、カカシの留守中、毎日家の窓を開けて風を通し、犬の世話もきちんとした。
心配してただ待つよりは、何かやることがあった方が、気が紛れて不安を忘れられる。
ほんのひとときだけは・・・・。
「どっかで、飯食って帰ろうぜー。そんなに急ぐことないだろう」
数週間かけて終了した任務の報告書を出し、いそいそと帰ろうとするカカシに同僚が声を掛ける。
「あー、駄目駄目。一刻も早く帰らないと、可愛いペットが餓死しちゃうの」
「犬だったら、誰かに任せたって言ったじゃないか」
「だから、犬じゃない方だよ」
笑いながら言うカカシを、同僚が不思議そうに見やる。
「じゃあ、お疲れさま!」
笑顔で踵を返したカカシはその後誰が何を言っても振り返ることはなかった。
「ただいまー」
外から窓の明かりがついていることを確認したカカシは、扉を開けるのと同時に大きな声で言う。
まず、小さい犬達が駆け出してカカシの足にまとわりついた。
そして奥から出てきたサクラを見て、カカシはため息をつきそうになる。
カカシが任務に向かう前より、明らかにサクラは体重が減っていた。
何か心配事があると、サクラはすぐに物が喉を通らなくなるのだ。「サクラ、ただいま」
「お帰りなさい」
手招きをすると、サクラは素直に彼の腕の中に飛び込んでくる。
子犬のことはサクラに頼めばいいが、彼女の世話は誰にも任せることが出来ない。
手がかかるがそれだけに手放せない、カカシだけの可愛い女の子だった。
あとがき??
あれ、ちょっと暗い?
(おまけSSシリーズ231)『美しい人 1』
「今度は駄目かと思ったけど、お前の兄ちゃん、やっぱすげーなーー!!」
「ああ」
ナルトに兄を褒められたサスケは、少しだけはにかんだ笑顔で頷く。
身分を隠してとある国に潜入した彼は、敵の手に渡った極秘資料を見事に奪い返して凱旋した。
その資料には各国でスパイ活動をしている木ノ葉隠れの忍びの名前が全て書かれていたのだ。
公になれば、彼らの命が危なかった。
請け負った任務を一度も失敗したことのないイタチの名前は、里の内外に知れ渡っている。
誰に対しても誇れる、サスケの自慢の兄だった。
「今日は一族の者が集まって、食事会をする予定なんだ」
「へえーー、美味いものが沢山出そうだよな。サクラちゃんも行くの?」
何となく訊いたナルトだったが、その瞬間、サスケの表情がにわかに曇る。
長年サスケに想いを寄せていたサクラは、今ではうちは家で家族同然の扱いを受けていた。
彼女とサスケの両親の関係はすこぶる良好で、何の問題もない。
後何年かしたら、二人は結婚するのだろうとナルトは思っているのだ。「何だよ、その顔」
「・・・・サクラは、来ない。兄さんのことが苦手みたいだ」
「えっ?」
「今日も誘ったけれど、断られた。兄さんがいると絶対に家に寄りつかないんだ」
人当たりの良いサクラにしては珍しいことで、ナルトは不思議そうに首を傾げる。
「何か、喧嘩したりしたの?」
「いや。最初に会ったときに普通に挨拶をしただけだ」
そのときはサスケも立ち会っていたのだから、間違いない。
サスケがサクラを紹介して、イタチも珍しく愛想良く彼女と握手をしたのだ。
取り立てて妙な行動を取ったようには見えなかった。
だが、以後、イタチの名前が出るとサクラが緊張した面持ちになることは事実だった。
「大好きなお兄ちゃんとサクラちゃん、仲違いしたらお前はどっちの味方なの?」
にやにやと笑って意地悪な質問をするナルトを、サスケはじろりと睨む。
それが分からないから、困っているのだ。
あとがき??
イタチ兄がぐれなかったパラレル設定。うちは家仲良しです。
サクラ達は10代後半くらいですかね。二人は順調にお付き合いしている様子。
現在、頭の中が猛烈にうちは×サクラのようです。
サクラ編、イタチ編に続く・・・・はず。
(おまけSSシリーズ232)『美しい人 2』
運命の人に、神様は必ずもう一度会うチャンスをくれるという。
最初に彼女を見かけたのは、桜の咲く季節だった。
見事なサクラ並木で有名な道を、仲間と共に歩く。
花見客も大勢いて騒がしく、皆は自然と声を大きくして喋っていた。
そんな中、彼女が通りの向こうを歩いてきたのだ。
薄紅色の髪が桜の花を思い起こさせる、愛らしい顔立ちの少女だった。
何人かの友人達と歩いていたのだが、不思議とその少女しか目に入らない。
通り過ぎた瞬間、振り向いたのは二人全く同時だった。視線が絡んだのは、ほんの一瞬。
世界から全ての音が消え去った。
その日以来、自分を捕らえた翡翠の瞳が何度も夢に現れる。
いつでも、どこでも、思い出さないときはない。
そして、彼女との再会は思わぬ形でやってきたのだ。
「俺と同じ7班の、春野サクラ」
長期任務から帰ると、弟に恋人を紹介された。
桜を連想させる色合いの髪をした、毎日夢で会っている少女だ。
「はじめまして」
笑顔と共に手を差し出すと、戸惑った表情の彼女はゆっくりとその手を掴んできた。
彼女は自分を覚えている。
それだけで、不思議と満ち足りた気持ちになった。この少女は遠からず自分のものになる。
何の迷いもなく、そう思った。
あとがき??
イタサクvこの話と続くサスケ編があるので、サクラ編もそのうち。
(おまけSSシリーズ233)『美しい人 3』
「大丈夫?」
問いかけと共に、優しく頭を撫でられる。
母親とはぐれて道に迷い、泣き出す寸前だったのだ。
サクラより幾分年上の少年は、彼女を家まで送り届けてくれた。
黒髪の、整った顔立ちが印象的な少年だった。そうしてサクラは、数日後、アカデミーで見かけたサスケに恋をする。
恩人である彼とよく似た面差しに、一目で魅了されていた。
「えっ、じゃあ、あんたの初恋の人ってサスケくんじゃなくてお兄さんの方なんだ」
「・・・・そう」
いのの花屋で時間をつぶすサクラは、テーブルに頬杖を付きながら頷く。
桜の咲く季節に彼を見かけたときは、似ていると思っただけだ。
だが、サスケに改めて紹介されたイタチは、間違いなくあのときの少年と同一人物だった。「別にいいじゃないの、きっかけが何だって。今ではサスケくんとラブラブなんだから」
「・・・・」
明るく笑い飛ばしたいのだったが、サクラの顔は何故か沈んでいた。
無言のまま俯いているサクラに、いのは怪訝な表情になる。
「サクラ?」
「・・・もう、帰るね」
彼の瞳を見ていると、心がざわつく。
そして、たまらなく不安になるのだ。
近寄ってはいけないと心が警告していた。
理由を考えることすら罪になりそうで、サクラは彼の眼差しを掻き消すように頭を振る。
いのの花屋を出たサクラは長い間暗い面持ちで思案していたが、その気配にハッとして顔を上げた。
すぐ目の前に、不安の元凶が、立っている。「・・・・どうして」
今夜は、イタチのための祝賀会がうちは家で行われていた。
主役の彼がこうして町中をふらついているはずがない。
「抜け出してきた」
何でもないことのように言うと、彼は少しだけ頬を緩める。
サクラが幼いときに見たそのままの、優しい微笑。
体中の血が沸騰したかのように熱くなった。「会いたかったから」
あとがき??
イタチ兄は覚えていませんが、サクラとは小さい時分に会っていたらしい。
続きそうな終わり方ですが、たぶんここで終わり。
だって、生々しい話になってしまうんですもの。本当に。
イタサクって、需要はあるのかどうか、微妙ですね。
(おまけSSシリーズ234)『傷物』
「これは、残りそうですね」
恐れていた一言を口にされ、よけいに憂鬱になる。
任務は成功したが、里に戻ったサクラの頬には大きな傷が出来ていた。
自分の医療術の腕では何ともならず、専門の医者に診てもらったのだが結果は同じ。
嫁入り前の娘の顔に傷が残るとは、由々しき事態だ。
彼女の恋人であるサスケは世にも稀な美しい顔をしているのだから、さらに問題だった。
ただでさえ凡庸なサクラとの差は歴然としているというのに、並んで歩けばあからさまに不釣り合いだろう。「困ったなぁ・・・」
「箔がついていいんじゃないですか」
腕組みをして考え込むサクラに、医者が何の慰めにもならないことを言う。
男ならば、それですむのだろうなぁと思ったサクラだった。
道を歩くと、ちらちらと傷を見る者もいる。
隠すのも面倒だと思ったサクラは、その足でサスケの家に向かった。
遠かれ早かれ、顔を合わせるのだから早い方がいいかもしれない。
多少緊張してチャイムを鳴らしたのだが、出てきたサスケは静かにサクラを見つめる。
彼女の体を抱き寄せて背中を軽く叩いたか思うと、何も言わずにすたすたと家の中へと戻っていった。
いつものように、勝手に入ってこいということだろう。「あのー、傷物の女だと、うちはの嫁にふさわしくないとか言われるんじゃないの?」
「もう俺一人しかいない」
上目遣いに訊ねると、サスケはにべもなく答えた。
彼の入れるお茶は相変わらず美味しい。
サスケは甘い物が苦手なのだから、用意された茶菓子はサクラのために買っておいたのだろう。
「これ、どう思う?」
「お前ならどう思う」
「えっ」
「俺が傷を作って帰ってきたら」
傷を指さした状態のまま、サスケが傷物になった姿を想像し、サクラは顔をしかめる。
「・・・綺麗な顔なのに、もったいない」
「だろう」
湯飲みをよく見ると、茶柱が立っていた。
難しい任務を終えた褒美としてサクラは有給をもらえたのだが、サスケもそれに合わせて休むらしい。
テーブルの上には、サクラが行きたいと言っていた温泉のパンフレットがいくつか載っている。
傷が残ると分かっても、少々楽観的に考えてしまったのは、彼の性格を十分に分かっていたためか。
言葉は少ないが、自分を気遣っていると分かる空気に、サクラはにっこりと笑う。「サスケくんは、怪我をしないように注意してね」
「お前もな」
あとがき??
ラブラブのはずなんですが、淡泊ですね。おかしいな。
最初にぎゅーっとしたのは、「お疲れさま」の意味でした。
あえて何も言わずにいつも通りが坊ちゃんの優しさなのでした。
ナルトだったら、きっと大騒ぎ。サクラが怪我をしたら大泣きすると思います。ナルトが。
(おまけSSシリーズ235)『指』
一緒に歩いていると、サクラが見知らぬ男からよく声をかけられていた。
彼らは何故かサクラのことを「先生」と呼んでいる。
理由を訊ねると、サクラは笑いながら病院で医者の助手として働いていることを話し出した。「大忙しなのよ。私が手伝いに行ってからは、突き指の患者さんが増えたみたいで」
「・・・・それは、若い男が多いだろう」
「よく知ってるわね、サスケくん」
きょとんとしたサクラを、サスケは半眼で見据える。
おそらく、彼女に手を握ってもらいたいという、邪な思いを持つ者達だ。
あとから聞いた話だが、サクラが手伝いに行く曜日は患者が急増するらしい。
果たして、サクラが彼らの思惑に全く気づいていないのは、良いことなのか悪いことなのか。「ところで、用事って何なの?」
「あそこだ」
彼が指し示したのは、一見、サスケとは何の関係もないと思われるジュエリーショップだ。
「・・・・あそこ?」
首を傾げたサクラに、サスケはしっかりと頷いて応えた。
サクラはずっとにこにこと笑っている。
理由を訊ねようとした患者は、彼女の左手に光るものを見ると、驚愕の表情になった。
「先生、ご結婚されるんですか!」
「そうですよー」
「お、おめでとうございます」
「有り難うございます」
この日何度目かのやり取りをするサクラは、絶えず幸福そうな笑みを浮かべていた。
患者は妙に気落ちしているのだが、浮かれているためにその気持ちを察することは無理なようだ。
「あれ、今日もまた突き指でしたか?」
「・・・・もう、治ったみたいです」「うーん、これで20人目かぁ・・・」
すごすごと診察室から出ていく患者の数を、看護婦達は密かに正の字を書いて数えている。
昼休みを挟んで午後からの診療で、さらに犠牲者は増えそうだ。
「虫除けには、ぴったりよね」
ある看護婦の口からもれた言葉に、周りの者達も大いに頷く。
指輪よりもむしろ、弾けんばかりの笑顔の効果は絶大のようだった。
あとがき??
ニブチンサクラは18歳設定。
サクラみたいな女医さんがいたら、通っちゃいそうですよ。人妻でも良い!
221〜235まで載せてみました。
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