(おまけSSシリーズ251)『どきどき』

 

「一度きっちりと言ってやるんだから!!」
「へーー・・・・」
息巻くサクラに対し、いのは実にいい加減な返事をする。
どのみちサクラは聞いていないのだから、問題はない。

サスケには付きっきりで修行をしていた。
ナルトには家まで通って野菜を届けていた。
下忍の中で、サクラだけ、何かとカカシに放っておかれたのだ。
二人が里におらず、サクラが一人残った現在でさえ、彼は半年近くも顔を見せない。
カカシが自宅待機中という情報を入手したサクラは、今日こそ不満をぶつけるつもりだった。

「何、「先生がかまってくれないから、寂しかったわー」とか言うの?」
「ち、違うわよ。担任として、少しは相談にのったり、様子を見に来て欲しいって言うのよ」
「・・・・同じじゃない」
「違うの!」
勢い込んで言うサクラだったが、いのには最初から分かっていた。
あの寝ぼけた担任が相手なら、サクラに勝ち目などあるはずがないのだ。

 

 

「あれー、サクラだ」
当たり前のことだが、久しぶりに見たカカシは全く変わっていなかった。
まるでつい先ほど別れたばかりのような、そんな口調だ。
「せ、せんせ・・・」
「サクラ、綺麗になったねーーー」
サクラが言葉を発する前に、カカシは朗らかな笑顔を浮かべて言った。
あまりにさらりとした口振りで、その内容を把握するまでに随分と時間がかかってしまう。
大きな掌で優しく頭を撫でられると、よけいに体が緊張した。

「あ、あの・・・」
「先生驚いちゃった。今日は時間あるの?」
「・・・・うん」
手招きをされたサクラは、言うはずだったことを少しも伝えられずに家にあがりこむ。
頬が熱くなり、胸のどきどきがなかなか治まらない。
いのがこの場にいたら、「ほらね」と、呆れ顔で言われたはずだった。

 

あとがき??
カカシ先生の圧勝でした。(笑)
たまには、余裕のあるカカシ先生は如何でしょうか?
やっぱりカカサクはいいねぇ・・・。歌はいいねぇ。

 

 

(おまけ)

「顔が十分に可愛いのに、胸も尻もしっかり出っ張ってきて、凄く心配だよーー」
「・・・・」
「年頃の少年達にみだらがましい目で見られてないかどうかさー、気が気じゃないって。聞いてる?」
「・・・お前以上にみだらがましい視線を向ける奴はそうそういないと思う」
「そんな、褒めないでくれって!」
カカシは照れくさそうに言ったが、アスマは突っ込む気にもならない。

「サクラの部屋に付けたカメラと盗聴器で毎日観察していたけど、やっぱり実際会うと違うよねー」
「それは犯罪だ」
「今度は、元暗部の部下に頼んで密かにサクラの護衛を頼もうと思うんだ。きっちり監視しないと」
アスマを無視したカカシは、鼻息を荒くして主張する。
任務に追われる毎日を送っていなければ、彼自身がサクラに張り付いていたことだろう。
綱手が何故、必要以上にカカシに仕事を入れているのか、アスマはよく理解できた気がした。

 

 

(おまけSSシリーズ252)『美しき日々』

 

「今夜は裸エプロンに挑戦したいと思うの!」
真面目な顔で語るサクラに、向かいの席で茶を飲んでいたサスケはむせて咳き込んだ。
「女の子はビックリ箱みたいなものだよー」というのはカカシの言葉だが、まさにその通りだった。
サクラの言動はどれもサスケにとって予測不可能なものばかりだ。
一人暮らし中のサクラの家に来るたびに、彼女はびっくり発言を繰り返している。

「・・・何だって?」
「新婚さんは必ずすることみたいよ。ほら、わざわざ買ったんだから」
レースの沢山ついたピンクのエプロンを取り出したサクラは、サスケの前で広げてみせる。
ハートマークが散りばめられた中に『一発入魂』という文字が入った奇抜なデザインだ。
サスケならば、何があっても絶対に選ばないことだろう。
「あのなー・・・・」
「ささ、サスケくん、早く服を脱いで」
「はあ!!?」
にっこりと笑ったサクラの言葉に、今度こそサスケは驚きの声をあげた。
戸惑うサスケをよそにサクラは彼の服を脱がそうとしている。
どうやらエプロンはサクラではなく、サスケ用だったらしい。

「あ、あ、アホかーーー!!!何で俺がそんなものを」
「だって、サスケくんの方が似合うじゃないの。早く〜〜」
「死んでも嫌だ!!!!!」
椅子から立ち上がったサスケは、上着を脱がそうとするサクラの手を振り払う。
普段からエプロンなどしないというのに、素肌につけるなど冗談じゃない。
しかも、あの、恥ずかしいガラのエプロンだ。

 

頑ななサスケの抵抗ぶりに、サクラはがっかりと肩を落とす。
「ちぇー。いいわよ、イタチさんにつけてもらうからーー」
「おい、何でそこで兄さんの名前が出てくる!」
「えっ、サスケくんが忙しいときイタチさんちょくちょくうちに来ているのよ。知らなかったの?」
「・・・・・」
黙り込んだサスケを、サクラは不思議そうに見つめる。
「サスケくんからだって言って、お花とかお菓子とか、持ってきてくれるの。優しいお兄さんよね」

サスケにとっては、寝耳に水のことだ。
家で顔を合わせるとき、イタチはサクラの話など全くしない。
二人の仲を心配しての心遣いなのか、それともサクラに下心があるのか、はっきりしなかった。
「そうよ。イタチさんに頼んでみようーー」
「ちょっと待て!!」
うきうきとした声を出すサクラの手首を、サスケはとっさに掴む。
あのイタチのことだ。
サクラが言えば、何の考えもなくあっさりとエプロンを受け取ってしまうような気がする。
それだけはなんとしても避けたかった。

 

 

「へー、サスケくんの裸エプロン。それは見たかったわねー」
「でしょうーーvv凄く可愛かったんだから〜。我慢できなくてその場で押し倒しちゃったし」
さっそくいのに昨夜の様子を電話で伝えたサクラは、満面の笑みを浮かべている。
「今度は、勝負下着をつけてもらおうと思ってー」
「・・・・サクラ、ちょっと思ったんだけれど、あんたの発想少し間違ってるわよ」

 

あとがき??
サクサスですよ。(笑)『美しい人』ギャグ版(?)なので、イタチ兄も絡ませてみたり。
サクラもいいけど、サスケの裸エプロンの方が見たいです。
・・・・どうしよう。すっかり受け身の坊ちゃん好きーになっているよ。
でも、男
×男には興味ないので、サクサス。

 

 

(おまけSSシリーズ253)『あきらめた人』

 

「ナルトさんは、諦めたことは一度もないんでしょうね」

新たに部隊に配属された中忍に、言われた。
成功する確率は10%という任務をやりとげたときのことだ。
ナルトは今まで引き受けた任務をほぼ確実にこなしてきている。
どんなに絶望的な状況に追い込まれ、窮地に陥っても、ナルトはけして諦めない。
そして、わずかな希望を手繰り寄せ、より良い結末へと仲間を導くのだ。
後輩に憧れの眼差しで言われた瞬間、思い出したのは唯一諦めてしまったもののことだった。

 

 

「ナルト!」
一楽に寄った帰り道、ぶらぶらと歩くナルトはその声に反応して振り返る。
桃色の髪の赤ん坊を抱いたサクラが、笑顔で彼に手を振っていた。
「サクラちゃん・・・・買い物?」
「うん。久しぶりねー」

ナルトが、唯一諦めた存在が目の前で笑っている。
失恋の証拠である赤ん坊を胸に抱いて。
それでも、彼の心には一片の後悔もなかった。
彼女が笑顔でいることが、ナルトの何よりの望みなのだ。

 

「サクラちゃん、幸せ?」
赤ん坊をあやすサクラに訊ねると、彼女は微笑を浮かべて応えた。
悔いてはいない。
だが、諦めたことで出来た心の傷は、サクラの笑顔を見るたびに疼き続けるのだろう。
この先もずっと・・・。

 

あとがき??
やっぱり、サクラちゃんの隣りでいつも彼女を支える存在でありたかったんです。
「サクラちゃんはサスケのことが好きだからなー」といったナルトの大人びた顔が印象的。
この話のサクラの相手は、きっとサスケですね。

 

 

(おまけSSシリーズ254)『home sweet home 3』

 

「あれ、お前、甘い物嫌いじゃなかったのかよー」
ケーキ屋から出てきたサスケは、駆け寄るナルトを見てあからさまに顔をしかめた。
「まずい奴に見つかった」といった感じの表情だ。
その顔をみたナルトは、すぐにぴんとくる。
「サクラちゃんと子供達に土産なんだろーー」
「・・・・そうだ」
「でも、誕生日でも記念日でもないよな」
すたすたと歩くサスケに、ナルトはしつこく付いて歩く。
「あ、分かった。何かサクラちゃんを怒らせることをして、ご機嫌取りのためだ!」
「・・・・・」

図星を指されたサスケは、返事をすることも出来ずに前方を見つめ続けた。
理由は簡単なことなのだ。
朝のゴミ出しを断った、帰りに頼まれていたしょうゆを買ってこなかった。
そうしたことで、サクラはすぐに怒る。
だが、気まぐれな彼女はつむじを曲げても些細なことですぐに機嫌を直すから助かっていた。
今日は、このケーキがあれば喧嘩のことなど忘れるはずだ。

 

 

数日後、サスケが家に帰るとサクラが膨れ面をしていた。
なにが悪かったのかまるで分からないが、怒っていることは間違いない。
密かに子供に訊ねると、「いつものやつ、忘れたからだよ」と即答される。
ため息をつきたくなった。

「サクラ」
「なによ!」
口を尖らせて振り向くサクラの肩に手を置き、その額に口付ける。
朝、家を出るときに必ずしていることだが、この日は寝坊をしたために忘れていたらしい。
たちまち笑顔になったサクラは、彼の体に抱きついてきた。
彼女を笑わせることも、泣かせることも、サスケならば簡単に出来る。

「母さんー、俺、今度は妹が欲しい」
「あ、俺もーー」
「任せてーーv」
ラブラブな両親に兄弟が冷やかしの言葉を投げると、サクラはブイサインをして応える。
「・・・・子供にのせられるな、ウスラトンカチ」

 

あとがき??
暗い部屋に連載中の、未来のうちは一家シリーズでございます。
ああ、ちなみに次は黒髪の女の子が産まれる予定ですよ。

 

 

(おまけSSシリーズ255)『home sweet home 4』

 

「サスケくんの馬鹿――!!!」
サクラは怒り心頭な様子で彼の体をぽかぽかと叩いている。
理由は、今もサクラの頭についているカーラーだ。
近頃サクラは少しばかりウェーブをつけた髪をしているのだが、一つ取り忘れがあったらしい。
カーラーをくっつけたまま往来を歩いていたかと思うと、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
サスケはサクラの傍らを歩いていたのだから、気づかないはずがない。

「いつもつけてるだろ。家で」
「今は買い物の最中でしょうーー!!しかも、こんな大きな百貨店で」
「知らん。サクラはサクラだ」
顔を真っ赤にして怒るサクラだったが、サスケは憮然として応えている。
「サチとユキも、知っていたら言ってよね!!」
サクラは後ろを付いて歩いていた子供達にも怒鳴り声をあげる。
彼らが黙っていたのは、もちろん母親の失敗を面白がっていたためだった。

 

 

「もー、ひどいんだからーーー」
ぶつぶつと不満をもらしながらも、サクラは買い物の目的だった新しいソファーを見て歩く。
リフォームした内装に合わせて、カーテンやじゅうたんも一式買い揃えるつもりだった。
そうしたことに関心の薄いサスケをよそに、サクラはせっせと家具売り場をチェックしている。

「今日はなんだか人が多いわね。日曜だから・・・・ん?」
振り返ると、いつの間にいたのか、サスケがサクラの背中に寄り添って立っていた。
先ほどまでは、早く帰りたそうに休憩用椅子に座っていたはずだ。
「どうかしたの?」
「・・・・別に」
「そう。あ、これ、子供部屋のカーテンにどうかしら。青で統一したいんだけれど」
「いいんじゃないか」
にこにこ顔で訊ねるサクラに、サスケは適当に相槌を打った。
彼らの会話を耳にして、去っていった人影が多くいたことをサクラは知らない。

 

「父さんってば母さんの身なりには無頓着だけれど、視線には敏感だよねぇ・・・」
「母さんは全然気づいてないけどね」
暇そうに家具売り場をうろついていた兄弟は、両親の様子を眺めながら言葉を交わた。
本人はまるで分かっていないが、サクラはもてる。
一人で歩いていると頻繁に若い男から声をかけられるのだ。
精神年齢が幼いためか、はたからは到底子供が二人いる主婦には見えないらしい。
今も何人かそれらしい若者がサクラの後ろをついて歩いていたのだが、既婚者と分かって興味を失ったようだ。
いや、未練があったとしても、隣りの旦那に鋭い眼差しを向けられては、近づく勇気はない。

「サスケくんってば、今日はサービスいいわね〜vv」
いつもは振り払われることが多いが、腕を組んでも何も言われないことにサクラは気をよくしている。
サスケの顔を見上げるサクラは幸せそのものといった様子で笑っていた。

 

あとがき??
暗い部屋に連載中の、未来のうちは一家シリーズでございます。
今回の元ネタは『あたしンち』でした。

 

 

(おまけSSシリーズ256)『home sweet home 5』

 

絵本を持った娘はとてとてと歩き、新聞を広げていたサスケの膝の上にのった。
絵本を読むように、催促しているのだ。
普段は自分の我を通すことが多いサスケも、愛娘のおねだりには弱い。
柔らかな黒髪を撫でると彼女は嬉しそうに微笑み、サスケの顔も自然と綻んでしまう。

 

娘の要求に応え、『赤ずきんちゃん』を読もうとしたサスケだったが、ふと視線を感じて振り返った。
羨ましそうに二人を見つめているのは、娘の母親であるサクラだ。
その手には、何故か『人魚姫』の絵本を持っている。
「・・・何だ?」
「順番を待っているのよ。トオカの次に、これを読んでもらおうと思って」
「一人で読め」
「ひどいいーーーー!!差別よーー!」
すげなくされたサクラは、しくしくと泣いて抗議している。
見かねた娘は、サスケの膝から降りてサクラにハンカチを差し出した。

「パパ、私、『人魚姫』のお話も聞きたいわ」
「・・・トオカ」
「ママ、私のご本が最初でも良い?」
「うんv」
すぐに涙を引っ込めたサクラは、自分を気遣う娘に対して笑顔を見せる。
そして、クッションに座る二人は仲良く並んでサスケの読む絵本を聞くこととなった。

 

3歳の娘に慰められるサクラのことが少々心配になるサスケだが、これはこれで幸せだ。
しかし、せっかくサスケが絵本を読んでもサクラは途中からうとうととしている。
クッションを枕に寝てしまったサクラの髪を、娘が小さな手で撫でているのが微笑ましかった。

 

あとがき??
暗い部屋に連載中の、未来のうちは一家シリーズでございます。
サクラの精神年齢が、年と共に低下しております・・・・。(^_^;)これでも三十路。
サスケ似に娘の名前はトオカ、漢字で書くと透花です。
サスケは目に入れても痛くないほど溺愛していて、サクラは毎日嫉妬全開です。(笑)
しかし、サスケが絡まなければ、二人でお菓子作りをしたり買い物に行ったり、仲良し母子でもあります。
トオカちゃんは父も母も兄達も大好きですが、一番懐いているのはユキくんです。

うちは家のアイドル、トオカちゃん。
彼女の登場で、血途シリーズが当初予定していた悲劇的ラストになることはなくなりました・・・。
まあ、サスケがどれほど娘を可愛がろうと、彼の一番の宝物はサクラなのですよ。ずっと。

 

 

(おまけSSシリーズ257)『等価交換』

 

「先生―、前から思っていたけど、そのマフラーの色ってダサいわよ」
単刀直入なサクラの意見に、カカシはガーンとなる。
これでも流行には敏感なつもりなのだ。
「そんなくすんだ黄色なんかより、こっちの方がいいわ」
サクラは鞄から取り出した新たなマフラーを、背伸びしてカカシの首に巻き付ける。
明るいピンクの、女性が好みそうな色だった。

「・・・・あの、この色、俺には厳しくない?」
「似合うーー!」
カカシの言葉を無視してサクラは拍手している。
呆れながらマフラーに触れたカカシは、そこから香った良い匂いに気づいた。
「これ、サクラのじゃないの?」
「大丈夫よ。2、3回使っただけだから、汚くないわ」
「いや、そうじゃなくて・・・・」
「んー」と考えるカカシの背中を、サクラは強く叩く。
「ほら、報告書を提出に行くんでしょう。早く行ってきたら」

 

よたよたと歩くカカシを見送ると、サクラはどさくさに紛れて奪った芥子色のマフラーを見やる。
顔を近づけると、カカシの残り香と熱が感じられて、サクラは微笑みを浮かべた。
「よし!」
自分の首にそれを巻き付け、サクラは軽い足取りで歩き始める。
ピンクのマフラーで現れたカカシが、教師仲間にどんなことを言われるか。
想像すると、ついつい顔が綻んでしまった。

 

あとがき??
ただ、カカシ先生の物が何か欲しかったようですよ。
考え時間と書く時間、あわせて2分のSSでした。

 

 

(おまけSSシリーズ258)『home sweet home 6』

 

「ただいまー、あれ、トオカは?」
妹の好物であるプリンを買って帰ったユキは、きょろきょろとあたりを見回した。
いつもならばクッションに座ってお気に入りのアニメを見ている時間だ。
「風呂に入っている」
「そう。父さんはまだなの?今日は早く帰ってくるって言っていたけど」
「子供達を風呂に入れている」
ソファーに座り、雑誌を読んでいたサチは淡々と答えた。
「子供達って・・・、何で複数形?」

 

今のところ、うちは家の子供はサチとユキ、そして末っ子のトオカだけだ。
誰かよその家の子供が来ているのだろうかと思ったユキは、ばたばたと廊下を歩く音を聞いて振り返る。
扉を開けて入ってきたのは、黒髪にタオルをのせている幼い少女だ。
「あ、お兄ちゃん!おかえりなさい」
「ただいま」
嬉しそうに駆け寄る妹をユキは抱え上げた。
小さな体からはシャンプーの良い香りがして、思わず頬ずりをしたくなってしまう。

「玄関にあったプリン、ユキが買ってきたのー?」
トオカに続いて入ってきたサクラも、同じようにタオルを頭にのせていた。
「いつも、みんなの分買ってきてくれて、有り難うねー」
「こら、ちゃんと拭いてから動け。水滴が床に落ちるだろう!」
サクラの背ろにいるサスケは怒鳴りながら彼女の髪を拭いている。
その彼の髪も湿っているのだから、風呂上がりだということはすぐに察することが出来た。

「・・・なるほど。子供達」
「んー?」
サスケに頭を乱暴に拭かれ、大事そうにプリンの箱を抱えるサクラは怪訝そうに声を出す。
大方、サスケとトオカの間にサクラが割って入ったのだろう。
普通の家庭と比べて大きめの風呂釜とはいえ、3人で入れば随分窮屈だったのではないかと思った。

 

「母さんさ、たまにはトオカに父さんを貸してあげなよ」
「うー・・・」
「父さんは仕事が忙しくて滅多に早く帰れないんだから。トオカも沢山喋りたいことあると思うよ」
「分かった」
廊下に連れ出され、ユキに注意されたサクラは渋々頷いた。
しょんぼりと肩を落とす姿を見ていると、どうもいじめている気持ちになってしまう。
サスケと一緒にいられる時間が少ないのは、サクラも同様なのだ。

「母さん・・・」
「いいわよ、夜は私がサスケくんを独り占めするんだから。抱っこしてもらって眠るのよ!」
両手を握って主張するサクラに、ユキの同情心はあっさりと消え去る。
この分なら、新しい兄弟が誕生する日も近い、かもしれない。

 

あとがき??
暗い部屋に連載中の、未来のうちは一家シリーズでございます。
うちは家末っ子のトオカちゃん、楽しかったので続きを書いてみた。
サスケはあまり一緒に風呂に入ってくれないので、実はトオカの存在に感謝しているサクラです。(笑)
トオカを丸め込めば、サスケは何でも言うことを聞いてくれるらしい・・・。
・・・何だか、トオカが混じると急に『カルバニア物語 7』を思い出しますね。タニアの両親っぽい。

 

 

(おまけSSシリーズ259)『おんぶとだっこ』

 

「先生、今度倒れたら、私が里までおんぶしてあげるからね!」
「・・・は?」
大きな声で宣言したサクラに、カカシは思わず目を見開いた。
どうやら、写輪眼の使いすぎでカカシが頻繁に倒れることを、サクラは危惧しているらしい。
「ほら、前にガイ先生におんぶされて帰ったとき、おじさん同士で絵面が汚かったじゃない」
「キモかったってばよ」
傍らにいるナルトも、賛同して頷いている。
「だから、次は私が先生を助けてあげる」
「・・・でも」
「大丈夫。先生の体重くらいだったら、軽いわよー」
綱手仕込みの怪力を持つサクラは明るく笑ったが、カカシが躊躇したのはそのことではない。
自分よりも小さな少女に負ぶってもらうこと自体、上忍としてのプライドに関わるような気がする。

「有難いんだけどさー」
「なに、おんぶがいやなら、だっこにする?」
首を傾げて言うサクラに、次はナルトが「えっ!?」と声を上げる。
「サ、サクラちゃん、それはちょっと・・・・」
「うん!!!それなら賛成だよーー」
ナルトの突っ込みよりも早く、カカシは満面の笑みで身を乗り出した。
「優しい生徒を持って、幸せだなぁ〜〜〜vv」
「ちょ、ちょっと、今じゃないわよ」
カカシに抱き締められたサクラは、両手を振り回して抗議している。

15の少女にだっこをされて帰郷する三十路の男。
どう考えても、おんぶより恥ずかしいのではないかと思ってしまうナルトだった。

 

あとがき??
ナルチョ、映画で自分より大きい雪姫をおんぶしていましたよね。
やっぱり下忍達もそれなりに力を持っているんでしょうか。
原作でガイカカおんぶ場面があったので、対抗してサクラで想像してみました。(笑)

 

 

(おまけSSシリーズ260)『美しい人 7』

 

(前置き)
イタサクでだらだらと続いているシリーズです。
イタサクと可哀相なサスケを見たくない方は、注意してください。
イタチ兄がぐれずに成長し、サクラはサスケの恋人設定。

 

 

すれ違う瞬間、サスケが会釈した女性をサクラは目で追う。
彼らよりいくらか年上の、黒髪美女だ。
サスケが親しい女性を作るのは稀で、嫉妬というよりは、好奇心の方が先に立った。

「今の人、誰?」
「姉になるかもしれない人だ」
言われた意味を呑み込めず、首を傾げたサクラにサスケは分かりやすく説明する。
「兄さんの許嫁。何人かいる候補の一人だ」
「えっ、許嫁って、イタチさん結婚するの!!」
「父さんと母さんが乗り気なだけで、本人はあまり深く考えていないようだけどな」

候補の写真を見せても、イタチは黙っているだけだ。
急ぐことはないが、両親もイタチにはうちはの名にふさわしい嫁を迎えて欲しいと思っている。
なにやら深刻な顔をして俯いたサクラに、サスケはハッとなった。
「お、俺には許嫁なんていないからな。兄さんに比べて、放っておかれているから」
「・・・うん」
何か勘違いしたらしいサスケに、サクラは僅かに微笑んでみせる。
だが、その笑顔も長くは続かなかった。

 

「サクラ?」
ふいにこぼれた涙に、サスケは目を見開く。
サスケがひどく動揺しているのが伝わってきたが、どうにも止まらなかった。
彼が伴侶を選んで慈しむ日が、そう遠くない未来にやってくる。
想像するだけで、胸が苦しくて仕方がない。
「大丈夫か」
何が起きたのか分からないが、体を引き寄せるとサクラは大人しく腕の中に収まる。
サスケの服からは、いとしい人と同じ匂いがした。

 

あとがき??
W不倫だったらしい・・・・。
何か変だと思いつつも、兄とサクラの仲を疑ったりは微塵もしていない人の良い坊ちゃん。
今後の展開は未定なので、いつの間にか終わっていそうです。

 

 

(おまけSSシリーズ261)『ま、いっか』

 

休日の午後、サクラが彼女によく似た桃色の髪の赤ん坊を抱いて歩いていた。
もちろん、毎日任務で顔を合わせているのだから、彼女の子ではないことは分かっている。
「あ、カカシ先生」
カカシが声をかけるよりも早く、彼に気づいたサクラは駆け寄ってきた。
「ほら、この近くに住んでる従姉の子でモモちゃんっていうの。可愛いでしょv」
「うん」
素直に頷くと、サクラはにっこりと笑った。
もともと赤ん坊というのは可愛いものだが、サクラに似ているためによけいにそう感じる。
赤ん坊は緑色の大きな瞳で真っ直ぐにカカシの顔を見つめていた。

「なかなか泣き止まなかったらから、ちょっと散歩しているのよ。今は平気みたい」
「・・・・えーと、サクラ、ヤバイ」
「えっ?」
カカシの視線を追ったサクラが見たときには、すでに赤ん坊は泣く寸前だった。
片目や口元を隠しているカカシの怪しい人相に、怯えてしまったのかもしれない。

 

「ど、どうしようーー!!」
突然、火がついたように泣き出した赤ん坊に、サクラは右往左往としている。
たまたま遊びに行った従姉の家で子守を任され、どう扱っていいのかもよく分からないのだ。
カカシにしても、忍びとしては優秀だが、赤ん坊のあやし方など習っていない。
往来の人々の視線が集中していることを感じながら、サクラははたと気づく。
「あ、そういえば、いいものが・・・ちょっとカカシ先生、持っていて」
「ええーー!!?」
赤ん坊を差し出されたカカシは、覚束ない手つきで何とか赤ん坊を受け止める。
赤ん坊の声はさらに音量を増したようだった。

「これこれ。どうしても泣き止まないときはこれを使えって、言われていたのよね」
「サクラ、早く!!!」
「待って。はい、モモちゃん」
サクラが鞄から取り出した狐のマスコットを見せると、赤ん坊はぴたりと泣くのをやめた。
お気に入りのマスコットを手にして笑顔になる赤ん坊に、カカシとサクラはほっと胸をなでおろす。
とりあえず、危機は脱することができたらしい。

 

「どうも、お騒がせしました」
何事かと二人を見ていた周囲の人々に、サクラは頭をさげる。
そして、その中には偶然通りかかったカカシの同僚、アスマの姿もあった。
てくてくと歩み寄ると、赤ん坊を抱くカカシと傍らのサクラを見比べる。
「・・・サクラ、あんまり腹が目立たない体質なんだな」
「「えっ?」」
同時に声を出すと、カカシとサクラは顔を見合わせた。
並んで立つ男女、その腕にはサクラ似の赤ん坊。
アスマがどう勘違いしたのか察したカカシは、動揺のあまりすぐに言葉が出てこなかった。
「あ、あ、アスマ・・・」
「仲良くやれよ。じゃっ」
カカシが否定する暇もなく、なにやら急いでいるらしいアスマは小走りに去っていく。
彼のよけいな一言のために、せっかく赤ん坊が泣きやんだというのに、微妙な雰囲気だった。

「ハハッ。お、俺がパパだってさ」
「・・・ん」
カカシが気詰まりな沈黙を破って傍らを見ると、予想に反し、サクラはほほを赤く染めている。
てっきり、若いみそらで母親と思われたことを、怒っているかと思った。
「ごめんね。先生、用事があったんじゃないの?」
まだカカシが赤ん坊を抱えたままだったことに気づき、サクラは手を伸ばしてくる。

「えーと・・・、付き合うよ」
「え?」
「散歩。モモちゃんも機嫌直してくれたしね」
大人しくなった赤ん坊を抱えなおすと、カカシはサクラに笑顔を向けて言う。
腕の中にいるあたたかなものが、どうしてか手放せない。
そして、明るい笑顔を返すサクラとは、もっと離れがたかった。

 

あとがき??
サクラ、15歳設定のつもりです。

 

 

(おまけSSシリーズ262)『逆境ロマンス』

 

「あっ、先生、駄目だって!!」
「なにをいまさら・・・・」
圧し掛かってくるカカシをサクラは何とか押しのけようとするが、彼は構わずキスをしてくる。
カカシの家に入る前に、今日は何もしないことを約束したのだ。
その誓いは、5分と経たずに破られることになる。
そもそもカカシにとってサクラが来る=良いことが出来ると、決まっていた。
サクラが拒んでみせても、それは表面だけ。
服を脱がせてしまえばサクラの気も変るはずだった。

「いーーやーーなーーのーーーーーー!!!」
いつになく暴れるサクラは手足をばたつかせて反抗している。
このまま強引にことを運ぶのは上忍のカカシにとって簡単だ。
むしろ、普段と違う趣向を楽しめそうだったが、サクラの態度はどうも不可解だった。
「離して・・・」
必死に懇願するサクラの瞳には涙すら滲んでいた。
ここまで拒絶されては、いくらカカシといえど少なからずショックを受ける。
他に好きな男ができたのかと、勘ぐりたくなるというものだ。

 

「俺が、嫌い?」
問いかける声は、カカシが自分でも驚くほど頼りなげだった。
顔を背けていたサクラは、はっとした様子でカカシを見つめる。
「先生・・・・」
「どうしてそんなに嫌がるのさ。今日にかぎって」
「・・・・・」
一瞬視線をそらしたサクラに、よけいに不安をあおられる。
カカシの胸を押したサクラの力は弱いものだったが、彼女の望むままに体を離した。
サクラが、何か言いたげな眼差しで瞳を合わせたからだ。

「これを先生に見られたくなかったのよ!」
「えっ・・・・・」
乱暴な物言いと共にスカートをたくしあげたサクラは、目を丸くしたカカシに拒んだ理由を見せ付ける。
巷ではやっているという、苺模様の毛糸のパンツだ。
「今日寒かったから、はいてきたの!!」
「・・・可愛いじゃないの」
「が、がらとか子供っぽいし、不恰好だし、恥ずかしいじゃないの」
秘密をさらしたサクラは頬を膨らませてそっぽを向いている。
たしかに、服を脱がして毛糸のパンツが出てきたら驚くかもしれないが、さほど気持ちに変化はない。
むしろ、照れて赤くなるサクラが可愛くて仕方がなかった。

 

「サクラってば、心配させないでよね〜」
「キャアッ!!」
今度こそ、カカシは躊躇なくサクラを押し倒す。
毛糸のパンツだろうが、腹巻だろうが、ステテコだろうが、何も問題はない。
中身がサクラでさえあれば、何でもいいカカシだった。

 

あとがき??
私、カカサクが大好きなんですよ。NARUTOでは、他のどのカップリングよりも、一番。
どうしようもないくらい、好き。
SSを書かなくなる日が来ても、一生好きですよ。
あまりそうしたことを言ってない気がするので、思いのたけを書いておく。(笑)

 

 

(おまけSSシリーズ263)『ライナス』

 

ハロウィーンの夜にはカボチャ大王がやってくる。
そのような架空の話を信じている者は、今では子供でもいない。
サクラが毛布と温かな飲み物を持ってカボチャ畑にやってくると、辛抱強く待つナルトの姿があった。
彼は3時間以上もそこで座り込んでいるのだ。

「あんたねー、また風邪ひくわよ。去年は随分長い間寝込んだじゃないの」
震えるナルトの体に毛布をかけると、傍らに座るサクラはポットのお茶を紙コップにそそぐ。
昼間はあたたかな日和だったが、日が暮れると、とたんに気温が下がった。
じわじわと体に染み入るような寒さだ。
それでも、カボチャ大王を信じるナルトは畑の真ん中を陣取って動こうとしない。
「カボチャ大王が来るんだもん」
「そー」
もはや説得を諦めたサクラは、毛糸の帽子とマフラーをナルトにかぶせ、自分も茶をすする。
月の綺麗な夜だ。
冷たい空気が肌を刺すようで、一晩中ここにいれば風邪をひくことは確実だった。

 

「・・・・ねー、ナルト。カボチャ大王って、どんな顔してるか分かってるの?」
「えーと、カボチャみたいな顔じゃないかなぁ」
「あれさー、違うの?」
のんびりとした口調で言うと、サクラは雲間から覗く月の下を指差す。
ふわふわと、何かが飛んでいた。
鳥か何かだろうかと瞼をこすったナルトは、そのとき念願のカボチャ大王を初めて目にする。
カボチャをくりぬき目鼻口をつけた頭、そして黒いマントを羽織った理想の姿だ。
「大王様!!」

ナルトが興奮して叫んだ頃、傀儡用の細い糸を操るカカシは、傍らにいるサスケに指示を出していた。
「ほら、もうちょっとライトで照らせって。3番の光だぞ」
「・・・・何で俺がこんなことを」
「ナルトが風邪で仕事を休んだら、任務に支障をきたすだろう」
ぶつぶつと不平を漏らすサスケをカカシが叱咤する。
本来ならば幻術で済ますところだが、サクラが一緒にいるために妙な小細工をするはめになったのだ。
簡単なまやかしなら、彼女は一目で看破するに違いない。
カカシに付き合わされたサスケにすれば迷惑なだけの話だった。

 

 

「カカシ先生ー、俺、カボチャ大王を見たってばよーー!!」
「そーか、そーか。良かったな」
翌朝、両手を振り上げて話すナルトの頭をカカシは軽く叩く。
「やっぱり、本当にいたんだ!!」
単純なナルトはいいとして、気になるのは先ほどからカカシを凝視しているサクラだ。
とことことカカシに近づくと、サクラは彼の服を掴んで振り向かせる。
「・・・先生」
「何?」
「寒い中、お疲れさまでした」

言葉と共に手渡されたのは、チョコレートやあめ玉といった、ハロウィーン用のお菓子だ。
サクラはサスケにも同じ菓子の包みを渡している。
ナルトのためにとんだ苦労だが、はしゃぐ彼の姿を見ると「まぁ、いいか」と思えてしまう3人だった。

 

あとがき??
仲良し7班。ナルチョはサンタも信じているのですよね。可愛い。
カボチャ大王を信じているのは、タイトルの通りライナスです。(スヌーピー)

 

 

(おまけSSシリーズ264)『愛情の深さ』

 

利き腕に怪我をしてしまうと、薬を塗るのも包帯を巻くのも大変だった。
だから、放っておくことにしている。
どうせすぐに治るのだ。
どんなに大きな怪我をしても、病に苦しんでも、そばには誰もない。
昔から、慣れていることだ。

 

 

「大丈夫!?」
「んーー・・・、ほら、元気だよ」
ナルトが腕の中にしっかりと抱きしめた仔猫の様子を窺うと、ニャーと鳴く声が聞こえた。
木にのぼったはいいが、高さに震えて動けなくなった仔猫を救出したのだ。
怯えてパニックになった仔猫がひっかいたために、バランスを崩してナルトまで落ちてしまった。
仔猫の方は、地上に降りたからには用なしとばかりに、さっさと茂みの中へと姿を消してしまう。
「チェッ、礼ぐらい言えってのー」
「無理でしょう、猫だし」
不満げに言うナルトに、サクラは苦笑してみせた。

「じゃあ、また明日ね」
任務も終了し、帰ろうとしたナルトの腕をサクラが掴む。
「その前に、手、見せなさいよ」
「えっ」
見ると、ナルトの右手は皮膚が裂けて僅かばかり血が滲んでいた。
いつものように、放置すればそのうち消える傷だ。
気にする必要はない。
「なめておけば治るってーー」
「・・・・・・」

ナルトは笑って手を振り払おうとしたが、サクラは彼の腕を掴んだまま黙り込んでいる。
ナルトの目が確かならば、サクラは怒っている顔だ。
「・・・サクラちゃ」
「グーでパンチと、治療を受けるのと、どっちがいい?」
にっこりと微笑んだサクラには妙な威圧感があり、逆らうことなど考えもしなかった。

 

 

「ナルトーー!!どーしたんだ、それ!!!」
一楽で顔を会わせたイルカは、仰天して彼の手を見つめている。
包帯でぐるぐる巻きにされた右手では箸が持ちにくく、ナルトは四苦八苦してラーメンを食べていた。
だが、ナルトの顔は終始笑顔だ。
「俺ってば、愛されてるの」

 

あとがき??
やっぱり、サクラちゃんはナルトのマミーな役所なんだなぁ。
12歳設定なので、サクラはまだ治癒の術を使えないのですよ。
だから、不器用な手でぐるぐる巻き。
ちなみに、最初に「大丈夫!?」と言ったのはナルトのことで、仔猫じゃないですよ。
ナルトは勘違いしていましたけれど。

 

 

(おまけSSシリーズ265)『美しい人 8』

 

イタサクでだらだらと続いているシリーズです。
イタサクと可哀相なサスケを見たくない方は、注意してください。
イタチ兄がぐれずに成長し、サクラはサスケの恋人設定。

 

 

「兄さんだ」
雑踏の中、振り返ったサスケの言葉にサクラはハッとする。
すれ違った人々に紛れて歩く黒髪の麗人は確かにイタチだ。
イタチの視線は大通りのショーウインドーに向けられ、サクラ達には気づいていない。
声を掛けようかどうしようかと思っているうちに、彼の姿は見えなくなった。
「そういえば、買い物に行くって言っていたな」
「・・・・・」
「サクラ、映画の始まる時間は・・・・」
サスケが傍らを見やると、サクラは何故か重苦しい表情で俯いていた。
映画のチケットを買い、先ほどまで浮かれて主演俳優の話をしていたのが嘘のようだ。

「・・・ごめんなさい。ちょっと急用を思い出したから、あとで連絡する」
「サクラ?」
サスケが驚く間もなく、サクラは映画館の前の通りから駆け出していた。
妙に気になる。
一瞬、後ろ姿と横顔を垣間見ただけだ。
それなのに、何故だか追いかけなければならないと感じたのだ。

 

 

忍びとして生きるかぎり、仲間の死には度々立ち会うことになる。
軟弱だとは思うが、沈んだ心はなかなか浮上してはくれなかった。
仕事は、いつも通りにこなす。
食事も変わらずに取り、変化は家族にすら気取られないよう努力していた。
それでも、一人になると、とたんに悲しみが胸を襲ってくるような気がする。
十年来の、親友だったのだ。

 

「イタチさん」
噴水の前のベンチに座って思案していると、ふいに名前を呼ばれた。
いつの間にか目の前に立っていたのは、不安げな表情をしたサクラだ。
よほどぼんやりとしていたのか、またはサクラに常々気を許しているためか。
接近に気づかなかった理由は、おそらく両方だろう。

「何だか・・・、元気がないように見えたから」
「・・・・」
少なからず驚いたものの、顔には出さずにイタチはサクラに手を伸ばす。
彼女は簡単に、彼の腕に捕らわれた。
イタチが座っているために、彼の額はサクラは腹部に当たっている。
頭を撫でる掌の感触が、無性に心地いい。

一緒に過ごした時間など僅かだ。
それなのに、誰よりも心が近くにあるように思えるのは、何故なのか。
いくら考えても分からないことだった。

 

あとがき??
ちょっと落ち込みイタチ兄。
この人、静かに落ち込んだり、怒ったりしているイメージ。

 

251〜265まで載せてみました。
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