(おまけSSシリーズ371)『増えていく』
棚の上には、一人暮らしの男の部屋にそぐわないものが置かれていた。
忍び服を着たテディベア。
前にカカシの家に来たときには、なかったはずだ。
「・・・お前、こういうの集めるの趣味なのかよ」
アスマが怪訝そうに眉をひそめて言うと、振り向いたカカシは苦笑して答える。
「この前来たサクラが置いていったんだよ。手作りテディベアに凝ってるらしくてね」
「へー・・・」
手芸が趣味とは知らなかった。
どうにも違和感があるが、カカシが自分で作った物でないだけマシだったかもしれない。
「お前、サクラと付き合ってるのか」
数日後、仕事に関わる書類を届けにカカシの家を訪れたアスマは、並んだデティベアを見つめながら訊ねる。
「え、な、何で!」
「・・・・何でって」
一つだったはずのテディベアが随分と増殖していた。
着ている服は変っているが、どれも同じ顔をしている。
カカシの家を訪れるたびにサクラが置いていくのだとしたら、かなり頻繁に出入りしている証拠だ。
「どこかにしまっておいた方がいいんじゃないか?」
アスマがテディベアの一つを掴んで言うと、カカシはすぐにテディを奪い取る。
「サクラが一生懸命作ったのに、そんなこと出来ないだろ!」
もとの位置にデティベアを戻すと、カカシはサクラの頭を撫でるように、テディの頭に触れる。
どうやら忠告が耳に入らないほどテディに、いや、それを作った少女に夢中のようだった。
あとがき??
愛情とデティは比例しているようです。
『あたしンち』のみかんが、テディベアを沢山作っていたので、こんな話に。
ミスタービーンの持っているテディが好きです。
(おまけSSシリーズ372)『馬鹿になりたい』
「サクラさんを賭けて、勝負ですナルトくん」
「おう!!」
任務を終えた帰り道、些細なことで口喧嘩を始めたサイとナルトだったが、思わぬ方向に話が転がりだしたようだ。
どうやら勝った方が晴れてサクラの恋人になれるらしい。
巻き込まれないよう、距離を開けて成り行きを見守っていたサクラは、困惑気味に呟きを漏らす。
「あの、そこに私の意思は・・・・」
「まあまあ。二人もだいぶ打ち解けてきたみたいだし、もう少し様子を見よう」
「はあ」
ヤマトに諭されたサクラは、不安げな面持ちで対峙する二人を見つめ続けた。
「ルールは?」
「サクラさんの好きなものを忍術で出して、より彼女に喜ばれた方が勝ちです」
「分かったってばよ」
いやにあっさりと頷いたナルトに、サイは少しばかり不安を覚える。
アカデミー時代を含めて、サクラとの付き合いはナルトの方が断然長い。
彼女の望みをより詳しく知っていておかしくはないが、勝負を申し込むからには、サイは絶対に勝つ自信があった。
「じゃあ、まず僕からです」
ナルトが何かを言う前に、素早く印を組んだサイは天からある物を降らせる。
ひらひらと空からサクラの掌の上へ舞い降りたのは、木ノ葉隠れの里で流通している最高額の紙幣だ。
驚きに目を見開いたサクラを、サイは口元を緩めて見つめた。お金の嫌いな人間などこの世に存在しない。
ナルトが次にどんなものを出しても、お金以上に喜ばれることはないはずだ。
「これ、途中でただの紙に変わったりしないよな!幻術でもないみたいだし」
「・・・・サクラさんのために出したんですよ」
地面に山となった紙幣をせっせとかき集めて訊ねたヤマトに、サイは目を細めながら答える。
「いや、昨日暗部の先輩達に夕飯をたかられて、財布がピンチでさ・・・」
ヤマトが聞きもしないことを喋る傍らで、ナルトは意を決した表情で印を組み始めていた。「次は俺の番だってばよ。えいっ!」
ナルトが念じた瞬間、空から何かが落ちてきたのは先程のサイと同じだったが、それは紙幣ではなく生き物だ。
ぴょんぴょんと地面を跳ねる小さな蛙を、その場にいた全員が唖然として見つめた。
当然、とくに蛙好きでもないサクラがそれを喜ぶはずもない。
「・・・・僕の勝ちみたいですね」
悠然と微笑むサイと肩を落とすナルトを見比べたサクラは、ヤマトの手から奪った紙幣の束をサイの方へと差し出す。
「これ、サイに返す」
「えっ」
「ナルトって本当に駄目な奴だから、そばにいないと心配なんだもの。サイは一人でも何とかなるでしょう」
「・・・サ、サクラちゃん」
半泣きになっているナルトの頭に手を置くと、サクラはにっこりと笑いかけた。「サクラみたいな面倒見の良い優等生タイプは、自分と正反対の駄目な男にひっかかるもんなんだよ」
「・・・・そうなのか」
したり顔で呟いたヤマトの言葉を聞いて、サイは自分の勉強不足を痛感する。
班の中での絆を深めるためには、まだまだ学ぶことが沢山ありそうだ。
「ああ、僕もナルトくんみたいな馬鹿に生まれていれば・・・・」
非常に失礼な発言をされていることを、ナルトは知らなかった。
あとがき??
元ネタは『神様がいっぴき』。そのまんまですよ〜。
サイといえば丁寧な口調で毒舌のイメージなので、うちのSSではこれからも当分敬語。
呼び方もナルトくんとサクラさんです。
(おまけSSシリーズ373)『お祝いに』
「中忍試験合格おめでとうーー」
「有り難うございます」
ブーケを受け取ったサクラは、満面の笑顔でカカシに応える。
ナルトを除き同期の下忍達は全員試験に受かり、各班でパーティーをしている頃だろう。
7班は二人だけだったが、その分カカシはサクラが寂しくないよう気を遣っているようだ。
「お祝いをあげないとね。何が欲しい〜?」
「何でもいいんですか?」
「えーと、そんな高いものはあげられないけど・・・・。それとも10班みたいに焼き肉食べに行く?」
「カカシ先生が欲しいです」
間髪入れずに答えたサクラを、カカシは暫しの間凝視する。
真顔のサクラに少しも笑いの要素は見当たらない。
「・・・・俺は食べても美味しくないよ」
「駄目でしょうか?」
「何だ、肉体労働をしろってことだったのね」
数日後、段ボール箱を開けて食器を棚に並べるカカシは、納得気味に頷いた。
サクラの引っ越しの手伝いをしにやってきたカカシだが、一人暮らしにしては随分と立派な住まいだ。
どうやらサクラの伯父の家族が仕事の関係で国を離れ、その間だけ管理を任された仮の住居らしい。
「それにしても、サクラ、荷物多くない?」
並んだ段ボール箱に目をやったカカシは、後ろに置かれた棚に気づくと、作業の手を止めた。
「・・・っていうか、どこかで見た覚えのある家具が」
「引っ越し業者の人に頼んで、カカシ先生の家の私物を全部運んでもらいました」
「・・・・・」雑巾がけをしていたサクラが、にっこりと笑って振り返る。
何を言われたか頭に入るまで時間がかかり、カカシは30秒後にようやく絶叫した。
「えええええーーーーーーー!?」
「合格祝い、くれるって言いましたよね」
あとがき??
サクカカも好きです。その後は何だかんだでラブラブになるんです。
(おまけSSシリーズ374)『あきない』
「・・・・おい、なにボーーッとしてんだ」
「ハッ!」
サスケの横顔を見つめたままぼんやりとしていたサクラは、慌てて口元の緩みを修正する。
「サスケくんって、やっぱり凄いねー」
「・・・何が」
「ブスは三日で慣れる、美人は三日で飽きるって言うけれど、サスケくんの顔はいくらでも眺めていたい気持ちv」
ほんわかした笑顔で言われたサスケは、俯き加減で小さくため息をつく。
そうした仕草もまた絵になってしまうのだから、サクラの視線はいつまでも釘付けだ。
一緒に暮らし始めて一年は経過しているがサクラの心は彼のファンだったときと変らない。
一生このままかもしれなかった。「俺は三日経っても慣れないぞ・・・」
サクラから顔を背けたサスケはすたすたと先を歩いて行ってしまう。
「えっ、な、何それーー!!?私のこと、ブスって言ってるの!!」
後ろをくっつてくるサクラのわめき声に、サスケは含み笑いを浮かべる。
自分の言動一つでころころと表情を変えるサクラは、見ていて全く飽きない。
サクラほどではないにしろ、ずっと眺めていたいというのは同じ心情かもしれなかった。
あとがき??
一応、年齢設定は17歳前後。同居というか、サクラがうちは家に寄生中らしい。
のだめを見たり、サイトを見たりでちょいとサスサクブーム。
のだめは千秋先輩とラブラブになったあとも、相変わらず変態的おっかけをしているのが良いです。(笑)
(おまけSSシリーズ375)『毎日おかか』
サスケがおかかのおむすびが好物なのは知っている。
だが、毎日毎日おむすびの弁当が続いているのが少し気になった。
聞いてみれば、理由は実に単純だ。「これなら、あいつは失敗しないんだ」
眉根を寄せたサスケは、実に不機嫌そうに答えた。
サクラの料理の腕がいまいちなのはナルトも知っていたが、今までよほど酷い目にあったようだ。
「俺の買った秋の行楽弁当と変えてやるよ。それ、頂戴」
高級弁当と引き替えにして手を伸ばしたナルトから、何故かおむすびは遠ざかっていく。
怪訝そうに傍らを見ると、サスケが弁当の包みを引っぱっていた。
「これは俺のだ」
「・・・・・」
サスケはしかめ面のままだったが、何だかんだで、二人は上手くいっているようだ。
あとがき??
のだめは、おむすびは失敗しないらしいので。
サクラは綱手様のお手伝いをしているので、ナルト達とは別行動らしい。
(おまけSSシリーズ376)『あきない 2』
古道具屋のショーウィンドーにビスクドールが飾られていた。
何となしに立ち止まって眺めていると、傍らを歩いていたナルトが怪訝そうに声をかける。
「何だよサスケ、お前こんなの欲しいの?」
「・・・いや」
曖昧に返事をしたサスケだったが、ビスクドール収集には全く興味はない。
それなのに何故その人形が気になったのか、分かったのは帰宅した直後のことだった。
「冬はやっぱりこれよねv」
買ってきた鯛焼きを頬張るサクラは満面の笑みを浮かべて頷いている。
向かいの席で茶をすすりながら、サスケはようやく合点がいった。
淡い桜色の髪に翡翠の瞳、あのビスクドールはサクラと容貌が酷似していたのだ。
長い睫毛も髪と同じ色合いで、見れば見るほど似ている気がした。
黙っていれば、サクラも人形めいた整った顔立ちをしているということだろうか。
だが、それではサクラらしくなく、一緒にいてもつまらない気がする。「・・・どうかしたの?」
知らずにサクラの顔を凝視していたサスケは、首を傾げたサクラに訊ねられ、我に返った。
「口の周りにあんこが付いてる」
「えっ、嘘!!」
慌てて紙で拭ったサクラは「見てないで早く教えてよー!」と不満をもらす。
まさかその顔に見とれていたとは口が裂けても言えなかった。
数日後、あのビスクドールを持った女の子が脇を通り過ぎ、サスケは思わずその姿を目で追いかける。
買ってもらったばかりなのか、母親に何かを話しかけ、大事そうに人形を抱えていた。
何となしに微笑んでしまったサスケだったが、ナルトも人形に気づいたようだ。
「あれ、お前が欲しかったやつだよな」
「違う」
親子連れを見守っていたサスケは、答えるのと同時に踵を返す。
「あれは俺が欲しかったものじゃない」
あとがき??
一応、374の『あきない』の続き。
(おまけSSシリーズ377)『みんな大事』
「助けにきて、迷子になったら意味無いじゃん!」
「・・・そんな、怒鳴らなくても」
子供に怒鳴られたサクラだったが、彼の言う通りなのだからしょうがない。
二人のいる場所は木ノ葉山の麓に広がる樹海だ。
サクラは森に迷い込んだ子供を何とか発見したものの、帰り道が分からなくなってしまった。
磁石は役に立たず、目印のために巻き付けた布きれは森の動物がいじったか風で飛ばされたかで跡形もない。
頼みの綱のトランシーバーから聞こえるのは雑音ばかりだ。
いずれ鼻の利くカカシの忍犬が見つけてくれるだろうが、子供は不安げな様子だった。「でも、何でこんなところに来たの。みんな心配してたわよ」
「・・・・・家出したんだよ」
「何で?」
「母ちゃんと喧嘩したから。勉強しろだとか、夜更かしするなだとか、いつも煩くて・・・」
俯く子供は、苦しげに顔を歪める。
「兄ちゃんは頭がいいけど、俺の成績はビリだし。母ちゃんは俺のこと嫌いなんだ。俺なんていらないんだよ」
「・・・あんた、馬鹿ねぇ」
むっとした子供が顔をあげると、サクラは口元に手を当てて苦笑していた。
血相を変えて子供探索の依頼に来たのは、その母親なのだ。
「必要でない子供なんて、この世にいないよ」
自分の胸までしかない背丈の子供の頭を撫でたサクラは、草むらからぴょこんと顔を出した犬に気づいた。
「パックン」
呟いた直後に、後ろから誰かに飛びつかれる。
振り向くまでもなく、相手のことは察することが出来た。
「サクラーーーー!!!!やっと見つけたーー、良かったよーーーー」
「く、苦しい・・・」
「急に連絡が取れなくなったから心配したよーーーサクラァーーーー」
思い切り抱きしめられるサクラは窒息寸前になっていたが、カカシの力が緩む気配はない。
「サクラが死ぬぞ」
パックンに冷静な声音で指摘され、サクラはようやくカカシの熱烈な抱擁から解放された。
「サクラ、怪我はなかった!?」
「・・・う、うん」
迷っていたときよりも、今、生命の危機を迎えていた気がする。
深呼吸するサクラが答えるのと同時に、頬を打たれる音がして二人は振り返った。「何やってんだい、馬鹿!!」
子供を怒鳴りつけているのは、彼の母親だ。
本来ならば依頼主は安全な場所で待機するものだが、無理を言ってカカシに付いてきたらしい。
「心配かけさせるんじゃないよ!!!」
その剣幕に皆が唖然とする中、母親の目には涙が浮かび始める。
「本当に・・・もう・・・・・」
怯えて立ち尽くしていた子供は、彼女に抱きしめられて初めて大きな声で泣き出した。
暖かさに包まれた今となっては、意地を張っていたのが、馬鹿馬鹿しく思える。
彼が望めば、母親はいつだって応えてくれたに違いない。
「愛されてるじゃないの」
後日、菓子折を持って親子がやってくると、サクラは子供の頭を突きながら言う。
はにかんだ笑みを見せた子供は、彼女の後ろに立つカカシをちらりと見上げて言葉を返した。
「お姉ちゃんほどじゃないよ」
あとがき??
心配するあまり、最初に怒っちゃうもんですよね。
当時、子供の自殺が相次いでいたので、こんな感じの話を書いたみたいです。
みんな、誰かの大事な人ですよ。
(おまけSSシリーズ378)『あきない 3』
サスケの顔を見るたびに、神様というのは随分と不公平だと思ってしまう。
生まれながらに彼のような美人が存在するとは、羨ましいかぎりだ。
うたた寝中のサスケの眠りが深いことを知ったサクラは、ペン立てから水性マジックを取り出した。
両方のほっぺたにうずまきマークを描いてみると、そのアンバランスさに思わず微笑みが浮かぶ。
「なんだか可愛くなっちゃったなぁ・・・」
ごろりと彼の隣りに横になったサクラは、いつしかすやすやと寝息を立て始める。
その後、サスケの怒鳴り声で起こされるまで、サクラは眠りの世界に浸りきっていた。
「ご、ご、ごめ・・・・・」
腕組みをして立つサスケに頭を下げたサクラは、そのまま耐えられずに吹き出した。
目が覚めたサスケが、鏡を見ることもなく買い物に出かけてしまうなど、サクラには予想外だ。
顔に落書きを残したまま歩いたサスケは大恥をかいたらしい。
その光景を想像するだけで、サクラは笑いが止まらなかった。
「笑うな、この、ウスラトンカチ!!」
怒りに燃える瞳でサクラを睨むサスケの手には、先程の水性マジックが握られている。
「お前も同じ目にあわせてやる!」
「ウキャーーーー!!や、やめてーーー!!!」
抵抗するものの、体を押さえ込まれたサクラはサスケと全く同じうずまきマークを頬に描かれてしまった。
つい涙目になったサクラだが、実際に手鏡を見てみると、まんざらでもない。
「・・・これ、結構可愛いんじゃないの。フェイスペインティングってやつ?」
「おい」
「一緒に散歩に行こうかー」
脳天気な笑顔で振り向いたサクラに、サスケは両手で顔を覆って嘆き声をあげる。
「勘弁してくれ」
あとがき??
サスケとおそろいが何となく嬉しいサクラでした。
のだめ風にじゃれつく二人を書きたかっただけです。
(おまけSSシリーズ379)『ニャー』
『キャッツパンチ、再び現る!』
机にある新聞の見出しを見たカカシは、「キャッツパンチって、何?」と訊ねてアスマを呆れさせた。
「泥棒だよ、泥棒。先月からニュースで散々流れてただろ」
「仕事で昨日まで国を離れていたからさ〜。どんな物を盗んだの」
「それが高価な宝石や絵画じゃないらしい。ただ同然のガラクタでも、被害者にとっては大切だと思う物を盗むんだ」
「へーーー」
「なんでも盗みに入る家にあらかじめ予告状を出すそうだ。まるで子供の仕業だよ」
「・・・・・」相槌を打っていたカカシの顔から、ふいに笑みが消えた。
ポケットを探って取り出したのは『貴方の大切な物を頂きに参ります』と書かれた、ネコのイラストが入ったカードだ。
新聞に載っていた、キャッツパンチの予告状と酷似している。
「・・・お前、それ」
「昨日、家に帰ったらポストに入っていたの。広告にしては変だと思ったんだけど」
組みをしたカカシは、唸り声をあげながら考え始める。
「俺の大切なものって・・・、何ー?」
「俺が知るか」
あとがき??
カカサク〜。キャッツパンチは銀魂のキャサリン。イメージはキャッツアイか。
(おまけSSシリーズ380)『ニャーニャー』
旅先での土産をいのに届けたサクラは、彼女の部屋で茶を飲んでくつろいでいた。
上手いと評判の温泉饅頭は噂に違わぬ味で、自然と会話も弾む。
サクラがその気配に気づいたのは、いのが新しい茶を入れるため、部屋から出ていった直後だった。
見ると、カカシが窓に張り付いて部屋の中を覗き込んでいる。「せ、先生、どうしたの!?何か、急な任務が・・・・」
慌てて窓の鍵をあけたサクラは、土足のまま上がり込んだカカシに思い切り抱きしめられた。
「サクラ、無事だったんだねーー!!」
「ぎゃーーーー!!!」
事態を呑み込めず、悲鳴を上げるとカカシはサクラから手を離してその顔を覗き込む。
「誰か、怪しい人とかサクラに会いに来なかった!?」
「あ、怪しい人なら、今、目の前にいますけど・・・・」
「他には」
サクラが首を横に振ると、カカシはようやく肩から力を抜いた。
「良かったーー」
安堵の笑みを浮かべたカカシにもう一度抱きしめられたサクラだが、全くわけが分からない。
ティーポットを持って部屋に戻ってきたいのも、サクラと同じ心情のはずだった。
あとがき??
両思い設定・・・の、はず。
(おまけSSシリーズ381)『ニャーニャーニャー』
「先生、いい加減泣くのはやめてよー」
しくしくと涙を流すカカシをなだめるサクラだったが、あまり効果はないようだ。
カカシが命より大事にしていた『イチャイチャパラダイス』初版本が盗まれたのだから、無理はない。
懐に入れていたはずが、いつの間にか偽物にすり替わっていたらしい。
上忍の隙を衝くのだから、かなり凄腕の泥棒だ。「新しいの本屋で買ってあげるから」
「・・・サクラ」
「大切なもので、すぐに私を思いだしてくれて有り難うございます」
にっこりと笑うサクラを見下ろしながら、カカシは瞼を擦って鼻を啜る。
愛読書を失ったのは確かに悲しいが、彼女を失うことに比べたら、小さな痛手だったかもしれない。
「・・・これが、キャッツパンチの予告状なの?」
「ああ、うん」
カカシが投げ捨てた予告状を拾ったサクラは、震える手で鞄を探った。
「じ、実は、うちにも今朝、同じものが私宛に届いていて・・・・。誰かの悪戯かと思っていたけど」
封筒の中に入っていたカードにはネコのイラストが付いており、カカシとほぼ同じ文面が書かれている。『貴女の大切な物を頂きに参ります』
暫くカードを眺めていたサクラの顔から、一気に血の気が引いていった。
「大変!!秋の北海道限定かぼちゃプリンが危ないわ!!!通販で今日届く予定なのよーー!!」
「ああ、サクラーーー」
追いすがるカカシを無視して、サクラは一目散に自宅へと駆けていく。
それが今現在のサクラの一番大切なもの。
止まっていたはずの涙が再びあふれ出し、カカシはがっくりと膝を突いた。
「プ、プリンに負けた・・・」
あとがき??
大事な物は人それぞれ・・・・。
(おまけSSシリーズ382)『雨でもいい日』
限定発売のイチャイチャパラダイス外伝。
雨の中、本屋の前の行列に並んだというのに、カカシのすぐ手前で売り切れてしまった。
このときの悔しさは、どうやっても口では言い表せない。
傘をさすカカシは、しょんぼりと肩を落として帰路に就く。
休日に雨が降るとただでさえ憂鬱になるというのに、さらに気が滅入ったようだ。
「カカシ先生ーー」
名前を呼ばれて振り返ると、水玉模様の傘をさしたサクラが懸命に走ってくるのが見える。
おそろいの柄のレインコートが何とも可愛らしい雰囲気だ。
近くまで来たサクラを黙って見つめていると、彼女は居心地が悪そうに体を竦めた。
「・・・えっ、何?」
「うん。丁度サクラに会いたいなーって思ってたんだ」
「本当!?」
適当な軽口を叩いたつもりだったが、サクラの顔がぱっと輝く。
「私もよ。先生に会いたいと思ってたの」にこにこと嬉しそうに微笑むサクラに、カカシは苦笑で応えた。
体が妙にくすぐったいような、不思議な感覚だ。
それに、先程まで地の底を這っているような心境だったというのに、いつのまにか浮上している。
「サクラ、そこの店であんみつでもご馳走してあげようか」
「本当―」
弾んだ声を出すサクラの注意は、すでに通りの反対側にある甘味茶屋へと向いていた。
サクラと一緒にいると、天気とは裏腹に心が晴れていく。
名は体を表すというが、サクラは確かに春の暖かさを持つ少女のようだった。
あとがき??
カカサクでイチャパラ。
(おまけSSシリーズ383)『人類ネコ化計画』
「むかつくってばよー!」
仲がいいのか悪いのか、毎日のようにサスケと口喧嘩を繰り返すナルトは、顔を真っ赤にして怒っている。
「何であいつ、人の神経逆なでするようなことしか言わねーんだ」
「まあまあ」
カカシがなだめる横で、サクラは頬に手を当てて不思議そうに呟いた。
「サスケくんも、家にいるときは可愛い雰囲気なんだけどね・・・」
そう言われても、カカシとナルトには「可愛いサスケ」というのが想像出来ない。「例えば?」
「語尾に「ニャー」を付けて喋っているの」
「・・・・・・・・嘘!!!」
予想外の言葉に、カカシとナルトはワンテンポ遅れて驚きの声を出す。
「ほ、他には」
「頭にネコ耳付けて、ネコ手グローブも付けてくれたわよ〜。写真は断られたけど、本物のネコより可愛かったv」
「・・・・・・」
それらの光景を頭に思い浮かべた二人は、何とも複雑な表情になる。
「とにかく素顔のサスケくんはラブリーなのよ。これでもっと仲良くなるわよねv」
「・・・・いや、逆効果なんじゃあ」
カカシが思った通り、午後からの任務でナルトはずっとサスケをさけて行動していた。
顔を見るたびに、ネコ化したサスケの姿が頭を過ぎり、大変気まずい。
「ところで、さっきのは冗談だよね」
改めて訊ねるカカシに、サクラはにっこりと笑って応える。
その笑顔が何を意味しているのか、カカシには推し量ることが出来なかった。
あとがき??
ネコ耳サスケ、普通に可愛いと思いますよ。
語尾に「ニャー」も聞いてみたい。
何か生意気なこと言っても、語尾が「ニャー」なら許せる気がする。
「早くご飯を作れニャー!」「風呂がまだわいてないニャー!」。(←サスケ声)
・・・・・いい!(←馬鹿)
(おまけSSシリーズ384)『ナルトが一番!』
任務終了後、サスケと図書館で勉強をする予定だったサクラは、ナルトに一楽に誘われた。
さらには、カカシもサクラと映画を見に行きたいらしい。
3人でサクラを取り合うこととなったが、サクラは一人しかいない。
揉めているところに、任務を終えたいのが通りかかり、部外者である彼女が公正な判断をすることとなった。「3人の中で、サクラが一番喜ぶ言葉を言った人が勝ちよー。じゃあ、まずカカシ先生から」
いのの決めたルールで(サクラ争奪戦)が始まり、カカシはサクラの肩に手を置いて微笑みかけた。
「サクラはいつも可愛いねvおでこがチャーミングだよ」
『30点』
手元の札で評価を出したサクラは、嫌に辛口な点数だ。
「ありきたりよねー」
「先生、いつも同じようなこと言ってるし、有り難みがないっていうか・・・」
いのとサクラ二人に否定され、カカシはがっくりと肩を落とす。
おでこが密かなコンプレックスなサクラにすれば、点数が低いのも頷けた。「じゃあ、次はサスケくんね。どうぞー」
いのに名指しされたサスケは、小さく咳払いをしてから精一杯優しい表情を作った。
「帝国ホテルのデザート食べ放題に連れて行ってやる」
『80点』
高価なフルーツやケーキを頭に思い描いたサクラは、うっとりとした眼差しで点数を出す。
「高級ホテルのレストランなだけあって、お値段もお高いのよね〜」
「一度は行きたいと思っていたのよ」
ある意味、女心を巧みに掴んだ誘い文句に違いない。「んじゃ、最期は俺ね」
高得点を出したサスケをさして気にせず、ナルトはサクラの前で柔らかな微笑みを浮かべた。
「サクラちゃん、大好きだってばよ」
『100点満点』
笑顔のナルトに釣られて、頬を緩ませながら点数を出したサクラに、いのは目を丸くする。
「えっ、今ので満点!!?」
「だって〜、可愛いじゃないの〜〜v」
ナルトの頭を撫でるサクラはすでにメロメロだ。「・・・あれじゃあ、負けてもしょうがないか」
「そうだな」
「ええ?」
振り返ると、カカシの呟きにサスケも納得して頷いて応えていた。
普段彼らと行動を共にしていないいのには、その魅力がいまいち伝わっていない。
「・・・へ、変な班」
里の内外を問わず、ナルトのファンが続々と増え続けていることをいのはこのときまだ知らなかった。
あとがき??
ナルトはうちのサイトの最強キャラです。(笑)7班でも愛されている。
可愛いナルトの信者は、イルカ先生や綱手姫や我愛羅くんなど他にも増殖しているようです。
(おまけSSシリーズ385)『愛情一番!』
「せっかく一緒に住み始めたのに、サスケくんってば素っ気ないのよー」
テーブルに頬杖をついたサクラは、不満げに口を尖らせる。
「もっと「好き」とか「愛してる」とか言ってくれてもいいのにさ!」
「それはサスケくんのキャラじゃないでしょう」
二人の新居に招かれたいのは、素っ気なく答えた。
これから、外出しているサスケが戻るのを待って、夕食を一緒に食べる予定だ。
いのにすれば、押し掛け女房さながらに、サスケと暮らせているだけでも羨ましかった。
「・・・・こ、これは、何?」
テーブルに並んだ料理を一目見るなり、絶句したいのにサクラはうふふっと笑って応える。
「何って、麻婆豆腐と餃子よ。あと、野菜炒めを持ってくるわね」
改めて皿へと目を向けたいのだが、テーブルに並んだ物体はどう見ても食べ物ではない。
匂い、色、共に食欲を大いに減退させる作用があった。
頬を引きつらせているいのに気づかず、サクラは笑顔のまま喋り続ける。
「沢山作ったから、どんどんおかわりしてね!!」
「・・・・・・・」
サクラがテーブルから離れた隙を見て、いのは取り皿に麻婆豆腐を盛っているサスケに声をかけた。
「サ、サスケくん、それ、美味しいの?」
「そんなはずないだろう」
黒いドロドロした物を匙ですくうサスケは、いのを見つめてきっぱりと言い切る。
「じゃあ、サクラにちゃんと言った方が・・・・」
「お前は言えるのか?」サスケに逆に聞き返された理由は、サクラが戻ってきてすぐに分かった。
「今日はいののために腕によりをかけて料理したのよ〜。どう、美味しい?」
小首を傾げたサクラは、輝くような明るい微笑みを浮かべていた。
もし否の返事をしたら、彼女はどれほど傷つくのか。
いとも簡単に想像することが出来る。
震える手で箸を扱い、脂汗を額から滲ませたいのは、口の中に入れた物を必死の思いで呑み込んだ。
「・・・・うん」
「良かった〜。サスケくんは全部食べるわりに、全然感想言ってくれないのよね」ぎこちない会話をする二人の横で、サスケは黙々と野菜炒めを食べている。
あれを表情を変えずに平らげるとは、プロの技と言っていい。
感想は言いたくても言えないのが本当のところだろう。
大丈夫よ、サクラ、あんたは十分愛されてるわよ。
そう言ってあげたいのは山々だが、口から火を吹きそうな激辛料理を食べたあとでは、悲鳴しか出そうになかった。
あとがき??
ハチクロのあゆの話を読んだら、こんなSSが・・・・。
あれって味覚音痴ってことなんだろうか。
千秋先輩なら、のだめの失敗料理絶対食べないですけどね。(笑)
これから書く(かもしれない)『前略、おふくろ様』と繋がっている。
371〜385まで載せてみました。
web拍手にて、何番の作品がお好きかご意見を頂けると嬉しいです。