青空をあなたに


「こら、駄目よ」
優しくたしなめるトリニティーに、彼らはくすくす笑いを続けている。
ネオは子供達の小さな手が自分の鼻をつまんだり、頬を軽く引っ張ったりと悪戯しているのにも気づかず熟睡していた。
トリニティーが諫めなければ、顔に落書きもされていたかもしれない。
久々のザイオンでの休日、リンクにカズの子供達の世話を頼まれたネオとトリニティーは、むしろ喜んでその役を引き受けていた。
実は子守りを頼まれたことは一度や二度のことではなく、彼らとすっかり仲良しになっていたからだ。

「全然起きないねー」
「ねーー」
「・・・ごめんね」
つまらなそうに口を尖らせた子供達に、トリニティーは申し訳なさそうに言う。
彼らは会うたびにネオ達の活躍談を聞きたがるのだが、とうの本人が寝入っていては話にならない。
トリニティーが膝枕をしているだけに、彼女も大きな声を立てられなかった。

 

「よく寝てるね」
頬杖を付いてネオの寝顔を覗き込んだ少年は、しみじみと呟く。
思わず頷いたトリニティーは、同じようにネオの顔を見つめた。
もともと童顔な彼だが、眠ると一層年若い雰囲気になる。
安心しきったその寝顔は、眺めている人間の気持ちも不思議と和ませる空気を持っている気がした。
こうして見ると、彼が救世主であることが本当に信じられない。
「何だか眠たくなってきちゃった」
大きな欠伸をした少年の様子に苦笑したとき、トリニティーは自分の手に触れてきた存在に気づく。

「起こしちゃった?」
「・・・・いや。自然と目が覚めた」
いつの間にか目を開けていたネオは、話しながら半身を起こした。
「夢を見ていたんだ。平和になった世界で、太陽が輝いて、草木も生い茂っている。君もいたよ」
子供達に目を向けたあと、トリニティーと視線を合わせたネオはにっこりと微笑む。
「青い空の下で見る君は、凄く綺麗だった」

晴れやかな笑顔で語るネオに、トリニティーは少し寂しげに笑った。
平和。
それは今の彼らにとって、あまりに遠い言葉だ。
戦いに勝利したとしても、青空が戻るのはいつになるか分からない。

 

「空って、何?」
子供達はトリニティーの憂い顔など気にせず会話に割り込んでくる。
好奇心旺盛な輝く瞳に、ネオは困ったように目線を上げた。
「空っていうのは天上にあって、こう、とにかく大きくてどこまでも果てしなく続いていて、時間や太陽の光によって色が変わるんだけど・・・・・」
考えるように話していたネオは、ふいにトリニティーに顔を向ける。
「澄んだ空気の日は、彼女の瞳みたいな色をしているんだ」
「へぇ・・・」

急に注目されたトリニティーは、居心地が悪そうに身を縮ませる。
長い睫毛の間から覗くのは、濃い青の色。
漠然としたイメージしか浮かばないものの、子供達の顔には徐々に笑みが広がっていった。

「きっと綺麗ね!」
「僕達も見てみたいよ」
口々にせがむ子供達の頭を、ネオは優しくなでる。
「見せてあげるよ。君達にも、そしてトリニティーにも」

 

夢に見た、愛する人や子供達との幸せな生活。
太陽の下で暮らす平穏な毎日が、涙が出るほど幸福に思えた。
目覚めたことを後悔しなかったのは、すぐ間近に、自分を見詰め返してくる青い瞳があったからだ。

全てが、いつか現実になることを祈って。
ネオはゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「本当の青空をあげる」

 

 

 

ネオ達が最後の戦いへと赴いたのは、それから暫く経ってのこと。
械達達の侵略の驚異が去った瞬間、ザイオンの人々は歓喜の声で沸き上がった。
誰もが喜びの涙を流し、訪れた平和に感謝の念を抱く。
そして母親のカズに強く抱きしめられた子供達の頭にあったのは、ネオとの約束の言葉だった。

「ネオはいつ帰ってくるの?空が早く見たいわ」
「・・・そら?」
「うん。ネオが言ったんだ」
怪訝な表情のカズを見上げ、子供達は嬉しそうに微笑む。
「青空を、僕達にくれるって」


あとがき??
これはレボ後に入るのでしょうか。
私の予想に反し、レボは機械達との決着がつかないまま終わってしまいました。
とすると、戦いが終わったというのは一時しのぎにすぎず、このお話は悲劇なのです。
青空=希望。
ネオはかろうじてトリニティーには太陽を見せてあげてますが。
タイトルは桃川春日子さんの漫画から。このタイトルで何か書きたかっただけでした。

去年書き出してずっと止まっていた駄文ですが、利藤さんにメッセージを頂かなかったらもっとずっと止まっていました。(^_^;)
待っている方がいる、かどうかは微妙ですが、まだマト話は書きます。一ヶ月に一回は更新したい。
ネオとトリはずっと好きですv
つ、次はもっとラブな話を書きますので。ギャグか?


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