卵のかえる場所


「リンクが、あなた達の船に乗るって言っているの」

ドーザーとタンクの話を、彼らの妹であるジーの家でしているときだった。
口元にあるカップをテーブルに戻したトリニティーは、驚きの表情でジーを見やる。
「本当よ。説得は続けるつもりだけれど、彼の意思は堅いわ」
ジーは寂しげに笑って首を振った。
彼女の気持ちは、トリニティーにも痛いほど伝わってくる。
ジーは兄弟を二人もあの船で失っていた。
さらに最愛の恋人が戦いに行くと知れば、止めるのは当然だ。

「私、あなたがうらやましい・・・」
沈黙が続く中、ジーはトリニティーを見つめて呟いた。
眼差しでその意味を問うトリニティーに、ジーは苦しげに眉を寄せる。
「あなたには愛する人と一緒に戦う力がある。でも、私はここでただ彼の無事を祈っているだけ。彼のために何一つ出来ないわ」
物憂げに語るジーだったが、それはトリニティーにとって意表を突く言葉だった。
確かに、トリニティーはネブカドネザル号に乗船する大事な戦力だ。
だけれど、ザイオンに残るジーが何も出来ないなどと考えるのは、間違っている。

 

「本当に、そう思っているの?」
「・・・・」
無言のまま俯くジーを見て、トリニティーはおもむろに椅子から立ち上がった。
傍らに来たトリニティーに肩を抱かれたジーは、促されるままに彼女にもたれ掛かる。
「彼を抱きしめることのできる腕がある。それで十分よ」
「・・・トリニティー」
「飛び立つ鳥には、帰るべき場所が必要。それがなければ、戦う意味さえなくなってしまう」
顔をあげたジーと視線を合わせ、トリニティーは微笑を浮かべた。
「この場所を守るのは、あなたにしか出来ないことよ」

伝わる彼女の温もりと共に、トリニティーの声は弱気になっていたジーの心に染みこんでいく。
ジーが必死に止めたとしても、リンクの心は変わらない。
それならば、何があっても絶対に戻ってきたいと思える、彼の居場所を守るしかない。
「リンクを、お願い」
自分の掌を握り締めるジーの切なる願いに、トリニティーはしっかりと頷いていた。

 

 

やがて迎えに来たネオと共にトリニティーはジーの家をあとにする。
二人の住処に向かって歩きながら、トリニティーはネオの横顔をじっと見据えていた。

「何?」
「うん」
首を傾げるネオに、トリニティーは柔らかく微笑する。
「私はあなたの“巣”になれているかしらと思って」

 


あとがき??
SS。またしても『エレクトリック・マーメイド2』が元ネタ。
人であるかぎり、誰にでも安息の地は必要。戦士なら、なおさらだと思います。
リンクが危険を承知で船に乗ろうと思ったのは、兄弟を失って悲しむジーのためにも、戦いを早く終わらせたかったんでしょうね。
死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされたとき、やっぱり帰る場所がある人は強いと思います。精神的に。
そういえば、ジーってリンクの妻だったんですねぇ。恋人同士なのかと思っていました。(^_^;)うちでは恋人ということに。

何だか、マトリックス話を書くことに限界を感じつつある今日この頃・・・。
いえ、どうしても書きたい話があるので、それを完成させるまでやめないですが。
あと、ご意見を頂けるかぎりは。


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