見えない力


ザイオンに戻り、生活のための備品を船の中へ運び入れていたときのことだ。
荷物を持って歩いていたトリニティーが、足元のコードに躓いて足元をふらつかせた。
すぐ隣りにいたリンクが支えなければ、その場で倒れていたことだろう。

 

「有難う」
すぐに体制を整えたトリニティーは、リンクの顔を見るなり訝しげに眉を寄せる。
「どうかした?」
「え、あ、ああ」
トリニティーから手を放したリンクは、誤魔化すように笑顔を作った。
「気を付けろよ。それ、結構重いから俺が持つよ」
「でも・・・」
「いいから、いいから」
半ば強引にトリニティーから荷物を奪ったリンクは船内に向かって歩き出す。
彼女に背を向けたリンクは、これ以上ないほど真剣な顔つきだった。

 

 

 

「どうしたの?」
「・・・ああ」
家に帰るなり、じっと自分の右手を凝視しているリンクに、ジーが不思議そうな顔をしている。
「トリニティーが、船で蹴躓いたんだよ」
「うん」
「俺が腕を掴んで支えたんだけど、その腕が、信じられないくらい細かったんだ」
「・・・・うん」
「俺がもう少し力をこめれば、きっと、簡単に折れてた」

リンクにとって、それは大きな衝撃だった。
彼にとって、常日頃から親しんでいるのは仮想空間で活躍する画面の中のトリニティーだ。
リンクの目に、彼女は誰よりも勇ましい戦士に映っている。
現実の世界のトリニティーとは、あまりにギャップがありすぎた。

「どうしてあんなに強くあれるんだろう」
テーブルに頬杖をついたリンクは、しみじみと呟く。
戦うことは誰でも怖い。
あの細身の体の、どこにそんな力が眠っているのかと思った。
本来ならばザイオンに残り、ジーのように安穏な生活をしている方が正しいはずだ。

 

「人は、大切な人のためなら強くなれるのよ」
ジーは思案するリンクの背中にそっと体を寄せる。
「皆が戦うのは、人類の未来のため。だけれど、それは突き詰めれば自分の身近な人との生活を守るため。トリニティーはネオとずっと一緒にいたいと思うからこそ、頑張れるのね」
背中から伝わってくる温もりに、リンクはジーの言葉を漠然と理解した。
自分も、彼女を守るためなら、何でもするつもりだ。
それは理屈をつけることの出来ない、生きているものだけが持つ力。

「そうそう、モーフィアスがあなたの働きぶりを褒めてたわよ。よくやってくれるって」
思い出したように言うジーに、リンクは顔を綻ばせる。
「だとしたら、それは君の力だよ」


あとがき??
リローデッドで、トリニティーが随分やせたなぁと思ったので。
あの人のためにと、頑張れる対象がいるのは、いいことだと思います。
ね、ネオが出てこない・・・・。
次はネオとトリニティーの話を書きたいですね。


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