彼女の異変 2
「トリニティー、知らないか?」
「もう船を下りたぞ」
「ええ!!?」
リンクの指差す方角を見ると、確かに、自分の荷物を背負って走るトリニティーが見えた。
その後ろ姿はバースで働く作業員達に紛れつつあり、今から追いかけても間に合わないほど遠い。「・・・そんな」
「初めてだな、トリニティーがネオをほったらかしにして個人行動するなんて」
ショックを受けるネオに、リンクはさらに追い討ちをかける。
「ザイオンにいる恋人とやらに、一秒でも早く会いたいのかもな」
リンクは面白そうに笑っていたが、ネオに返事をする余裕は全くなかった。
ホバークラフトの燃料補給と機器のメンテナンス。
それらに係る時間が、乗組員が唯一自由にできるときだ。
通常ならば、ザイオンに住む家族や友人のところへ行くのだろうが、目覚めて間もないネオにはそうした知り合いが少ない。
個別に部屋は用意されているものの、すっかり手持ち無沙汰な状況だ。
今までならばトリニティーに居住区を案内してもらえたが、現在それは望めない。
そして、自力で彼女の行方を捜すこともネオにはほぼ不可能だった。少し前まで、優しい笑顔を見せてくれていたトリニティーが、何故手のひらを返したように冷たくなったのか。
あの涙の意味は、一体。
一人悶々と考える中、ネオの自室の扉が荒々しく叩かれた。
「ネオ」
扉を開くなり、ネオは入ってきた人物に抱きしめられる。
誰かはすぐに分かったが、悩みの元である彼女の突然の登場にネオの思考は追いつかない。
体を離したトリニティーは、戸惑うネオを見上げてゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい、何も言わずに船を下りたりして。急ぎの用があったの」
申し訳なさそうに言ったあと、彼女は少しだけ口元を緩める。
「ここにいてくれて、良かったわ」にこやかな顔つきからは、トリニティーのネオへの好意がはっきりとにじみ出ていた。
その声音も、船にいたときとは別人のように明るい。
晴れやかな表情は、まるで憑き物が落ちたかのようだった。
「用事って、何」
「・・・・笑わない?」
意味が分からないなりに頷くと、トリニティーは消え入りそうな声で告げた。
「歯の治療」
「歯医者?」
「そう。船に乗ってすぐに歯が痛み出したの。かといって引き返してもらうわけにもいかないし」
「・・・・そうだね」
ザイオンにある船は全て評議会の決定に従って動いている。
ネオ達の乗るネブカドネザル号も例外ではなく、個人的な理由から出港を遅らせることはできない。「痛くて何も食べられないし、注意力も散漫でみんなには迷惑を掛けて申し訳なかったと思ってるわ。でも、歯が痛いからなんて理由で仕事も休めないし」
「じゃあ、あのとき泣いたのは」
「私、甘い物が大好きなの。食べられないのにあんなもの見せるから、つい・・・」
言いながら目線をそらしたトリニティーに、ネオは思わず破顔する。
「やっぱり笑った」
トリニティーは不満げに言ったが、ネオの笑みは安堵から出たものだ。
皆に脅かされ、いらぬ心配をしていた自分が急に馬鹿らしく思えてくる。
「そういえば、リンクが「二股は良くない」って言ってたけど、何のこと?」
「ああ、いいんだよ。それはもう。それより、歯の治療はもう終わったんだろ」
「ええ」
ネオは床の上に置きっぱなしになっている荷物へと目を向ける。
どさくさに紛れて、リンクから受け取った砂糖菓子はネオの荷物に詰め込まれたままだ。
時間を見てリンクに返しに行こうと思ったのだが、それはどうも果たせそうになかった。
あとがき??
一つの話を無理に二つに区切ったら妙に中途半端になってしまった。
うちのネオのモデルは『キル・ゾーン』(須賀しのぶ著)のラファエルくんです。
トリニティーは強くて怖い女隊長、キャッスル。
ユーベルメンシュとして最強の力を持っていながら、キャッスルには絶対服従の子犬ラファエルがネオとダブる。(笑)
トリネオ支持なのに、頭に浮かぶのがネオトリ話ばっかりなのはあの二人が頭にあるからなのかしら。
あともう一個か二個書きたいんですが。