正しい選択


せっかくの休日だというのに、電話の音で朝の7時に起こされた。

故郷の母親からは、一週間に一度は電話がかかってくる。
現在の自分の近況を聞くために。
飯はちゃんと食べているのか、仕事は上手くいってるのか、掃除や洗濯はきちんとしているのか、等々。
有り難いといえば有り難いが、干渉されるのは苦手だった。
「ちゃんと食べてるよ。大丈夫だから」
おざなりな返事をしつつ、電話を切る。

母親に言ったことは本当だ。
何もかも、うまくいっている。
夜遅くまで起きているせいで少々遅刻はするが、仕事は順調。
友達もいる。
食うに困ることはなくて、健康で、外は快晴だ。
カーテンを開けると、眩しいほどの太陽の光が薄暗かった部屋に差し込んできた。
午後になったら、久々に遠出をしてみようか。

いろいろと思考を巡らせ始めた矢先。
ふいに沸き起こった奇妙な感覚に、自分の体の一切の動きが止まった。

 

何かが、足りない。
何不自由ない、それなりに幸せな毎日。
本当だろうか。

誰かが、すぐ近くにいたような気がする。
普段付き合っている友達達とは違う、もっと大切な人が。

 

 

 

 

「ネオ」

優しい声音に瞳を開けると、懐かしい人の顔が見えた。
懐かしいというと、語弊かもしれない。
船の中で、彼女とは片時も離れることなく生活している。
だけれど、長い夢のせいで、彼女に会うのは本当に久しぶりな気がした。

 

「よく寝てたわね」
「・・・ああ」
半身を起こすと、ネブカドネザル号の中での見慣れた部屋が目に映った。
これが現実。
鉄の壁に囲まれ、寒さに震え、食事は栄養を補給するだけの義務的なもの。
いつ、機械達の攻撃で命を落とすかも分からない。
惜しげもなく降り注いでいた太陽の光は、ここには存在しなかった。

「昔の、夢を見ていたんだ」
「昔の?」
「作りものの世界に違和感を感じる前の、穏やかに暮らしていたときの夢・・・」
力なく言うと、トリニティーは少しだけ寂しげに笑った。
「起こして、悪かったかしらね」
「いいや」
彼女の問い掛けに、自分は激しくかぶりを振る。
夢から覚めたときに、確かに、自分は良かったと思ったのだから。

 

 

今でも時々思い出す。
モーフィアスに、赤と青のピル、どちらかを選べと言われたときのことを。
だけれど、何度選択を迫られても、同じことだ。

満ち足りた平和な世界よりも戦いのある過酷な現実を、君と共にいることを選ぶ。
彼女さえいれば、どんな環境であれ、その場所が楽園。

「そばにいてくれ。ずっと」
願いを込めて、抱き寄せた。
太陽の光と引き替えにしてでも、けして惜しくないと思える人を。


あとがき??
マトリックスはどれもSSですね。
というか、少々たえられなくなってきました。ラブラブは苦手だ。
トリネオといいつつネオトリだし、微妙にシリアスな気がするし、看板に偽りありで申し訳ない。
トリ視点のトリネオも書きたい・・・。(涙)


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