仔犬


瞳を開けると、傍らにいるネオの寝顔が最初に目に入る。
彼は気持ちよさそうに寝息を立てていた。
半身を起こしたトリニティーは、彼に触れないようにそっとベッドから這い出る。
理由は分からないが、このところネオの寝つきが悪いことは彼女も気づいていた。

眠れる時間があるときに寝ておかなければ。
戦士として日々戦っている彼らにとって、休息の時はとても貴重なのだ。

 

 

 

わずか半日のザイオンでの休日。
居住区近くにあるその通りは、さまざまな市が出ている。
何を買うともなしに歩いていたトリニティーは、行く先々で知り合いに声をかけられた。
そして、彼らの第一声は示し合わせたように同じものだ。

「ネオは?」
「・・・・私が一人で歩いているのって、そんなに変かしら」
その日5回目の問いかけに、トリニティーは訝しげに聞き返す。
「いや、そんなことはないけど。お前達いつも一緒だろ」
「そう・・・・、かしらね」
首をかしげたトリニティーは、考えるようにして呟く。

言われてみると、自分の視界に入るところにネオは必ずいる気がした。
離れても半径10m以内、どうしても用がある場合は、ネオは彼女に場所を言っていく。

「病気や怪我じゃないんだろ」
心配そうなその声に、トリニティーは我に返る。
「あ、ええ。彼なら部屋で眠っているわ。元気よ」
「じゃあ、起きたら不安で泣いてるんじゃないか。一人にしちゃ駄目だろ」
「何よ、それ!私はネオの保護者じゃないわよ」
憤慨するトリニティーを見て、顔見知りの青年は笑い声を立てた。

 

 

ぶらりと市場を一周したトリニティーは、店先にある時計に目を走らせる。
そろそろネオが目覚めてもいい時間だ。
知り合いの言葉ではないが、起きて自分の姿がないことに心配するかもしれない。
少しの外出のつもりで、書置きも残していなかった。

そして、足早に歩き出したトリニティーは、道の角から飛び出してきたあるものに危うく躓きそうになる。
小さく悲鳴をあげたトリニティーは何とか体勢を立て直したが、原因となったものは悪気もなく、彼女の足に擦り寄ってきた。
まだ生後数ヶ月の、黒い毛の子犬だ。
「・・・可愛い」
自分にまとわり付いてくる子犬に、トリニティーは怒ることなく顔を綻ばせる。
覚醒する前は、彼女も家で犬を飼っていた。
しゃがみこみその子犬を抱き上げると、犬が現れたのと同じ角の道から少年が駆け出してくる。

 

「ネオ!」
少年の呼んだ名前に反応したトリニティーは思わず周りを見回したが、ネオの姿はない。
そして、道の端に立っている少年は、まっすぐにトリニティーを、いや、その腕の中にいる子犬を見つめている。
おそらく、彼がこの子犬の飼い主だろう。
引き綱を振りほどき、自分のもとを逃げ出した子犬を追ってきたようだ。

「この犬の名前、ネオっていうの?」
「・・・うん」
見たことのない妙齢の美女に話しかけられ、少年ははにかみながら頷く。
「いい名前ね」
甘えるように鼻を鳴らす子犬に視線を移すと、トリニティーはにっこりと微笑んだ。
きらきらと輝く子犬の茶色い瞳は、彼女の良く知る人物を彷彿とさせる。
「同じ名前。それに、よく似てるわ」
「お姉さんも犬を飼ってるの?」
「・・・んー、そんな感じかしら」

口籠もりながら返事をしたトリニティーが、子犬を少年に渡そうとしたときだった。
「トリニティーー!」
振り返る隙も与えられず、強い力で後ろから抱きすくめられる。
誰かはすぐに分かったが、意表を突かれた彼女は反射的に身を固くした。

「び、びっくりした」
取り落としそうになった子犬を抱え直すと、トリニティーは背後に立つネオに向き直る。
そうして見上げた彼の顔は、珍しく怒っているようだった。
「びっくりしたのはこっちだよ!!いきなりいなくなったりして」
「ご、ごめんなさい。すぐ戻るつもりだったから」
驚きの連続に、トリニティーは目をぱちくりと瞬かせて弁明する。
彼女の肩に両手を置き、その青い瞳を間近で覗き込んでいたネオはやがて大きく息を吐いた。
「・・・・・いや、ごめん。怒鳴るつもりはなかったんだ。ちょっと、嫌な夢を見たものだから」

 

口をつぐんだネオは、力なく俯いた。
まるで、しょげ返ったネオの方が怒られたかのようだ。
それまで状況を傍観していた少年は、気まずい空気を無視してネオの服の裾を引っ張る。

「あのー、もしかしてお兄さんがネオなの?」
「え、そうだけど」
突然名前を言い当てられたネオは、不思議そうな顔で振り返った。
少年にはネオがトリニティーに置いて行かれたことを怒っていることしか分からない。
そして、トリニティーの腕の中にいる子犬のネオも、彼女から離れまいとしっかりしがみついている。

「・・・本当だ。よく似てるや」
大きな声で笑い出した少年に、トリニティーも思わず苦笑する。
一人わけが分からないネオは、困ったようにトリニティーと少年の顔を見比べていた。


あとがき??
やったー!トリニティー視点だーー!!!
・・・・でも、ネオトリ??
ネオの精神年齢が5歳児まで低下してるし。(=_=;)
つ、次こそは、トリネオに。

またオリキャラ出して、すみませんね。
ザイオンに犬猫のようなペットがいるか分かりませんし。(汗)
ネオという名前の生き物は、トリに懐くように出来ているようです。
たぶん、リロ前のトリの死を夢に見始めたあたりという設定。


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