組!!!
「何やってんだ、てめーは」
言葉と同時に、頭をはたかれた神楽は、目くじらを立てて振り返る。
「何するネ!!」
「こっちの台詞だ。制服姿でみっともないことすんな」
「よけいなお世話アル!!」
「風紀委員として見過ごせねーんだよ。うちの学校の評判がこれ以上落ちたらどうしてくれんだ」
頬を膨らませた神楽の首根っこを掴むと、土方は有無を言わせず学校に向かって歩き出した。
神楽は不満げに眉を寄せたが、そろそろ急がないと遅刻するのは確かで、大人しく引きずられている。
登下校中、道端にある自販機や公衆電話の釣り銭をチェックするのは神楽の日課だ。
大飯食らいの神楽は小遣いを全て食費に費やしてもまだ足らず、いつも腹を空かせているため、何としても日銭を稼ぎたいらしい。
「おじょーちゃん、お金がほしーのかいー」
「ん?」
呂律の回らない声を聞いて振り返ると、一目でやくざ者と分かる男が足下をふらつかせて近づいてきた。
どうやら、神楽が先ほどから釣り銭の出る場所に指を突っ込んで歩いているのを見ていたらしい。
そばに寄るだけで酒の匂いがして、土方は思わず顔をしかめる。
「おじさんと遊んでくれれば、いくらでもあげちゃうんだけどねぇ。どうだいー?」
「本当アルか?」
男が神楽に向かって手を伸ばした瞬間、彼の体は真横へと勢いよく飛ばされる。
土方の蹴りが脇腹に入ったらしく、収集場所のゴミ袋の山に頭から突っ込んだ男はそのまま気を失ったようだ。
振り向いて土方を見た神楽は、ひどく不機嫌な顔つきだった。「ヒーロー気取りかヨ。邪魔するんじゃないネ」
「・・・・お前」
「あいつの顎、叩き割ってやろうと思ったのに。お前のヘナチョコキックじゃ物足りないアル」
ぷいと横を向いた神楽の言葉に、土方は思わず苦笑する。
「こえー女」
か弱い少女とは思えぬ腕力の持ち主の神楽なら、簡単に出来るはずだ。
だが、男が神楽に触れようとしたのが不快で、つい足が出てしまったのだから仕方がない。「しょうがないからお前におごってもらうことにするアル。放課後、時間空けておくヨロシ」
「はあ!?」
「風紀委員の校外での暴力行為を目撃したアルヨ。言いふらしてもいいアルか?」
にやにやと笑う神楽は、ちらりと倒れたままの男を見ながら言う。
風紀委員の仕事は土方にとっての生きがいだ。
神楽にあること無いこと吹聴されては、非常にまずい。「・・・・二千円」
「三千円」
「二千二百円」
「二千五百円」
「・・・・・」
渋々、神楽の言い値で承知した土方は彼女に無理矢理握手をさせられた。
神楽は尋常ではなく、よく食べる。
値段を最初に決めておかないと、際限なく食べ続けるのだ。
何だかんだと神楽にまとわりつかれ、土方の少ない小遣いは殆ど神楽の胃袋に収まっているといって良かった。
教室にいると、その日はやたらと女子に声をかけられた。
どうやら、午前中の調理実習でチョコチップクッキーを作ったらしく、クラス一の色男である土方は差し入れを持ってくる者達を適当にあしらっている。
女嫌いというわけではないが、何かと黄色い声をあげて騒ぎ立てる少女達は、どう扱っていいか分からず苦手なのだ。
何か少しでもきつい言葉を言うと、すぐに泣いてしまう気がする。
その点、神楽だけは全く女らしさを感じない分そばに居ても苦ではなかった。「副委員長のおかげですよー」
土方の後ろの席の山崎は、沢山のクッキーを彼から貰い受けたためニコニコ顔だ。
土方とは違い、甘いものは好物らしい。
自分が一生懸命に作った物が山崎の胃袋に納まると知れば、女子達もひどくがっかりすることだろう。
土方やその相棒の沖田と違い、山崎は教室にいることにすら気づいてもらえない存在感の薄い生徒なのだ。
「あの・・・・無理しない方がいいんじゃないですか。コゲはガンの元っていいますし」
先ほどから土方がかじっている黒い墨のようなものを見て、山崎は不安げに忠告する。
「うるせー」
「それ、神楽ちゃんにもらったんでしょう」
「・・・・・」
山崎に顔を向けた土方は、素直に驚いている風だ。
だが、どう考えても失敗作の焦げたクッキーを土方に渡せる勇気のある者は、神楽しか思いつかない。
また、土方が鬼のような渋い顔をしつつ捨てずに食べていることからも、それは明確だ。「副委員長、神楽ちゃんのこと好きなんですか?」
首を傾げた山崎が訊ねると、土方は焦げたクッキーを喉に詰まらせて苦しげに呻いた。
「な、なん・・・」
「いや、だって」
「ニコ中ーーーー、私がめぐんでやったクッキー、ちゃんと食べたアルかーー??」
後ろから駆けてきた神楽に元気よく背中を叩かれ、喉に詰まったものが出てきたのはいいが、その言葉は聞き捨てならなかった。
「てめっ、その呼び方止めろって言ってんだろ!!」
「ニコ中はニコ中アル。風紀委員が屋上でこっそりタバコを吸っ・・・・」
「わーーーー!!!」
大声で神楽の声を遮ると、土方は彼女を黙らせるために口を手で塞ごうとする。
だが、すばしっこさでは右に出る者がいない神楽が、そう簡単に捕まるはずがなかった。
「だって、話しかけられて副委員長がまともに受け答えする女子って神楽ちゃんだけだし、毎朝一緒に登校だし、いつも楽しそうだし・・・・」
綺麗に焼けたクッキーを一枚頬張ると、山崎は随分と間を空けて土方の質問に答える。
だが、神楽に後頭部を蹴られて床に転がる土方が聞いていれば、おそらく喚き声で否定したに違いなかった。
あとがき??
私、土方&沖田より、土方&山崎のコンビの方が印象的らしい。
『新撰組!』の土方と総司があんまり仲良さそうに見えなかったからだろうか・・・。
『新撰組!』の山崎は、もう、超優秀で格好良くて、土方と新撰組の仕事に忠誠を誓う人なんですよ。
おかげで山崎好きーになりました。