突然3年Z組(土神)


目が覚めたら、突然わけの分からない世界に迷い込んでいた。
昨夜は確かに屯所の私室で横になったというのに、次に意識が戻ったときはまるで別の風景が眼前に広がっている。
部屋の真ん前には寺子屋で見かける黒板がかかり、今は休み時間なのか、生徒と思われる男子と女子がグループに別れて会話をしていた。
それまで机に突っ伏して寝ていた土方は、目を細めたまま考え込んだ。
どんな時も慌てず騒がず対処するのが彼の仕事とはいえ、これはあまりに行き過ぎだった。

 

「どうしたんですか、副委員長」
ふいに声を掛けられ、傍らへと顔を向けると山崎がいる。
いや、よく見れば教室にいるのは皆、どこかで目にした顔ぶれだ。
制服を着るには無理のある年齢の者達がたまに混じり、その中に近藤の顔を見つけた土方は何となくほっとした気持ちで頬を緩めた。
場所がどこであれ、とりあえず彼がいる。
長い付き合いが影響しているのか、それだけのことで安心出来るのだから不思議なものだった。

「おい、ここはどこだ?」
「え?」
突然真顔で訊ねられた山崎は、驚きに目を瞬かせた。
「ここって言われても、銀魂高校の3年Z組の教室ですけど・・・・・、どうしたんですか、副委員長?」
「俺はここの生徒なんだな」
「はあ、そうですけど・・・・」
心配そうに自分を見ている山崎から目をそらすと、土方は小さく頷いて立ち上がった。
これは間違いなく夢だ。
だから彼の見知った人物ばかりが登場し、非日常的な空間を作り上げている。
それ以外にこの状況を説明出来る要素はなかった。

「あ、あの、もうすぐ授業始まりますけど、どこへ」
「ふける」
もう一度眠れば現実世界に戻れるかもしれない。
扉を開けて廊下に出た土方は、建物の屋上に向かって歩き出した。
これ以上ここにいれば、いくら冷静になろうと思っても頭がこんがらがりそうだ。

 

 

 

扉を開けて外に出るとそこには青い空が広がっていた。
予鈴が鳴った後だからか他に人気はなく、土方は歩きながら無意識にポケットを探る。
そこに常備してあるはずの煙草は影も形も無かった。
この夢の中では学生という設定なのだから当然のことだろうか。
「チッ・・・・」
舌打ちした土方は日陰を探して座り込むと、壁に背をつけて目を瞑った。
どうせ眠るなら、仮病を使ってどこかのベッドを借りた方が良かったかもしれない。
暫くすると再び扉の開いた音がして、振り向いた土方はそこに女学生が立っているのを確認する。

「忘れ物ネ」
にっこりと微笑みながら近づいてきたのは、先ほど教室で見かけた神楽だ。
何故か彼女は土方が丁度欲しいと思っていた、煙草の箱を持って横に振っている。
「お前の鞄から取ってきたアルヨ」
いつものチャイナ服はセーラー服に変り、妙に分厚い眼鏡をかけた神楽は笑顔で続けた。
太陽の下でも平気な彼女には違和感を覚えたが、ここでは夜兎族とは関係ないのかもしれない。
風にあおられるスカートから覗く肌は相変わらず白く、低い位置から神楽を見上げる土方はどうも目のやり場に困る。

 

「今日から禁煙するヨロシ」
あっという間の出来事だった。
神楽が放り出した煙草の箱は放物線を描いて階下へと落下していく。
礼を言おうとした矢先だっただけに、土方は恨みをこめて神楽の顔を睨みつける。
「何でだよ」
「キスするとき、ヤニ臭くない方がいいアル」
土方の足をまたいで座った神楽は、向かい合わせになった彼の頬を掴んで素早く唇を合わせた。
あまりに予想外な行動だったため、土方はそのままの姿勢で固まってしまう。
顔を離した神楽は悪戯な笑み浮かべ、それが嫌に可愛く見えたことがまた驚きだった。

「・・・お前、いくつだ」
「クラスメートに年齢聞くなんて、馬鹿アルか。お前と同じ18ヨ」
「そうか」
外見は13、4の少女だが、極端に発育不良なだけで、手を出しても警察沙汰にはならないらしい。
首筋に腕を回してきた神楽を抱き締め、短いスカートの中に片方の手を入れてみる。
抵抗しないところを見るとこれが最初ではないようだ。
「・・・・こんなところで。人が来たら、どうするネ」
甘い声で非難めいたことを言われても、逆に気が高ぶるだけで全く効果は無い。
そもそも神楽の方から仕掛けてきたのだから、彼女もこの続きを望んでいるはずだった。

 

 

 

「珍しいですよねー、副長が寝坊なんて」
「うるせー」
市中見回りの途中、アクビを見咎められた土方は、腹いせに山崎の頭に握りこぶしをぶつける。
朝食前の会議に近藤や沖田ではなく、土方が遅れてやってきたのは初めてかもしれない。
それもこれも、あの夢のせいだと決め付け、土方は朝から機嫌が悪かった。
何しろ丁度いいところで夢が終わってしまったのだから、よけいに欲求不満だ。

「あ、万事屋のチャイナ娘」
通りの向こうを指差した山崎の声に、土方はぎくりとして振り返る。
一直線に彼らのいる方へ向かって歩いてくるのは、確かにトレードマークの傘をさした神楽だ。
当たり前だが、セーラー服ではなくいつものチャイナ服を着ている。
夢でのこととはいえ、気まずい思いの土方が足早に通り過ぎようとすると、ふいに神楽と視線が重なった。
「ヤニ臭いままだと、続きは無しアル」
口にくわえた煙草を落とした土方に対し、神楽は意味ありげな笑みを残したまま通り過ぎる。
彼女の唇の柔らかさと肌の感触がリアルに思い出されて、妙に頬が熱くなってしまった。

「えっ、なんですか、今の?」
遠ざかる神楽の傘と土方の顔を交互に見つつ、山崎は怪訝そうに訊ねる。
しかし、あやふやな夢の内容など話せるはずがない。
煙草をやめれば続きを見られるのか、いや、それよりも何故神楽が夢のことを知っているのか。
考えれば考えるほど、頭は混乱するばかりだった。


あとがき??
みんなの脳内に、銀魂ワールドの記憶が残ったまま銀八ワールドに行ったらどうなるかなぁという話。
沖田くん視点の沖楽と、神楽視点の神銀があるんですが(設定同じで、独立した話)、書くかどうか未定。
微エロ三部作と銘々。
銀八先生なら土方さんと神楽ちゃんの組み合わせも犯罪じゃないですよ!


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