組!


朝、5時に起きて必死に作った弁当だった。
失敗したおかずは自分用にして、かろうじて食べられるものをもう一つの容器につめる。
昼になるといつも菓子パンをかじっている銀八が、何かの拍子に言ったのだ。
「たまには、誰かが作った弁当食いてーなー」、と。
神楽は俄然奮起する。
大好きな銀八に褒めてもらいたい一心だった。

 

 

「ん、どうした神楽?」
穴があくほど自分を見つめている神楽に気付くと、銀八は首を傾げながら訊ねる。
昼休みになるのと同時に職員室に駆け込んだのだが、銀八の机にある物を見るなり、神楽の動きは止まってしまった。
ランチクロスに包まれているのは、どう見ても弁当箱だ。
「ああ、これ、志村の奴が持ってきた。余分なおかずを詰めたとかで、ありがた・・・」
神楽が凝視しているのが自分ではなく弁当だと知り、その説明をしようとした銀八だが、最後まで言うことは出来なかった。
神楽が抱えていた手作り弁当が、その顔に命中したからだ。

「銀ちゃんの馬鹿ーーーー!!!」
泣きながら叫んだ神楽は、そのまま職員室から走り去った。
周りにいた職員は、投げつけられて落ちた弁当と、赤くなった顔をさする銀八を交互に見やる。
「坂田先生、もてもてですね」
「・・・・有難うございます」

 

 

 

 

神楽が日頃から姉御と慕う妙と銀八が出来ていたなど、全く知らなかった。
早起きして必死に弁当を作った自分が馬鹿のようだ。
校舎の屋上へと駆け込んだ神楽は、切々と事情を語り始める。

「私という女がいながら浮気したアルヨ!絶対許せないネ」
「へーへー。でも、付き合ってたわけじゃねーんだろ」
「銀ちゃんは私のものヨ」
子供じみた独占欲を主張する神楽だったが、他人事である沖田はそっぽを向いて欠伸をした。
大体、滅多に人の来ない屋上を選び、アイマスク付きで昼寝をしていたというのにどうして叩き起こされて愚痴に付き合わなければならないのか。
全く分からない。
「というわけで、私も浮気をすることにしたアル。これであいこになるネ」
「そうかい」
「お前、私にキスするヨロシ」

持ち歩いているペットボトルの水を口に含んだばかりだった沖田は、それを勢いよく吐き出した。
「き、きたないアルーー!!!何するネ!!」
制服のスカートをびしょぬれにされた神楽は怒って沖田に詰め寄る。
だが、喧嘩をしている場合ではない。
「何て言った?」
「きたいないアル。何するネ」
「その前」
「キスするヨロシ」
自分の顔を見つめる神楽はしごく真顔で、沖田はどう解釈していいものか悩んだ。

「銀ちゃんへの腹いせに汚れた女になってやるアル。お前、最適ネ」
「・・・俺はバイキンかい」
「私、知ってるアルヨ。お前が100円もらって女の子にキスしてるって」
にやりと笑った神楽がずばり言うと、沖田は言葉に詰まる。
確かに小遣い稼ぎのためにそうした仕事はしていた。
性格はともかく顔がいいために、客になる女子はいくらでも集まるのだ。
自分の恋人に手を出したと勘違いした男子生徒が殴りかかってきたこともあったが、彼らは皆、沖田の敵ではなかった。
どんなに見かけが細身でさわやかな顔でも、喧嘩で彼にかなう者は校内にいない。

 

「私も100円払うネ。早くするヨロシ」
「・・・・」
財布から出した小銭を沖田に押しつけ、神楽は彼に躙り寄る。
眼鏡を外し、目も瞑り、神楽の方は準備万端だ。
だが、神楽を見つめる沖田はどうもその気になれなかった。
困ったように神楽を見る沖田からは、普段のふてぶてしさが消えている。
いつもなら、よく知りもしない女子に簡単にキスをしていた。
それなのに、神楽が相手だと思うとやる気がそがれてしまって、肩を抱くこともできない。

「悪いなァ。その仕事は廃業したんでさァ」
「イタッ!」
百円玉を放られ、神楽は小銭のぶつかったおでこを不満げに撫でさする。
「ケチ!一度くらい構わないネ」
「キスをするのは好きじゃない女が相手って決めてやす」
昼寝を諦め、立ち上がった沖田はさりげない調子で言った。
遠回しな告白だったのだが、鈍い神楽にそのようなことが伝わるはずがない。
「そんなに私が嫌いアルかー!!!むかつく奴ネ!!」

何となく脱力した沖田が階段へと続く扉のドアノブを掴むと、それは向こうから開かれる。
立っていたのは、白衣を着た担任の銀八だ。
「神楽、いるか?」
「・・・・」
何も言わずに、視線だけで沖田は彼女の所在を伝える。
顔を出した銀八と目が合うと、神楽はすぐさま立ち上がった。

「何しに来たアルか、この浮気者!!」
「あー?何言ってんだ、お前。これ、返しにきたんだよ」
渡したときと同様、投げてよこしたのは神楽の持ってきた弁当箱だ。
その重みから、中身が空だということは察することができる。
「・・・捨てたアルか」
「アホ。そんな不味い弁当食う奴、俺の他にいねーだろ」

 

 

 

妙が作ったものと思い込んでいた弁当は、新八の手作りだった。
話によると、姉は信じられないほど料理が下手で家事全般は弟の仕事とのことだ。
「お前なー、俺が三段腹になったら責任取れよ」
「大丈夫。銀ちゃんだったら、デブでもハゲでも私が嫁にもらってあげるネ」
「・・・・婿ね」
可愛い生徒に気を遣い、二人分の弁当を食べるはめになった銀八は、くっついてくる神楽の頭に軽く手を置く。
すっかり部外者となった沖田は、面白くない気持ちで扉を乱暴に閉めた。

昼寝を邪魔されたうえにラブラブぶりを見せつけられ、いい迷惑だ。
嫌でも何でもキスの一つもしておくのだったと思っても、後の祭りというものだった。


あとがき??
3年
Z組〜。沖田くんが、ナンパなバイトをしております。(笑)駄目ですかね。
『ころんでポックル』という漫画で、そういうキャラがいたかと。
原作を見たらみんな標準語を話していたんですけど「〜アル」がないと神楽ちゃんじゃない!
というわけで、いつも通りの口調で。
タイトルは、『新選組!』を意識してみたり。(笑)


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