かわいいひと
それは、美味しそうに食べていた。
表情はたいして変わらない。
だが、年中一緒にいるせいか、多少の喜怒哀楽は分かるのだ。
鋭い視線にようやく気づくと、竜崎は上目遣いに海砂を見た。「・・・・食べますか?」
「いらないわよ」
生クリーム付のスポンジケーキをフォークで刺してよこした竜崎を海砂は半眼で睨む。
嫌な男だと思った。
海砂が甘いものを無理に我慢していると知っていて訊いている。
表面的には、彼が何を考えているかまるで分からない。
出来ることなら近づきたくない人種だが、月のそばにはいつでも彼がいるのだからしょうがない。
竜崎を疎ましく思う気持ち以上に海砂は月のことが好きなのだから。「我慢は体に毒ですよ。一日限定10個販売のケーキ、滅多に食べられるものではありません」
「・・・・・」
もぐもぐと口を動かす竜崎は淡々と言う。
ケーキはすでに半分以上が竜崎の胃に収まっていた。
ごくりとつばを飲み込んだ海砂の口元に、彼はタイミングよくフォークを持っていく。
「どうぞ」
スリムな体が自慢なのだ。
だが、「限定10個」という言葉は海砂の意思をぐらつかせるのに十分な力を持っていた。
反射的にケーキを口に入れた海砂の顔に、ゆっくりと笑みが広がっていく。
「美味しいーーーv」
あとは、止まらなかった。
竜崎の手からフォークを奪うと、海砂は残りのケーキを残らず平らげる。
ダイエットを気にする生活をしていた分、その反動は大きい。
我に返ったときには、唖然とする月と竜崎が彼女をじっと見据えていた。「あっ、ええと」
食べないと主張していた手前、海砂が困ったように笑うと竜崎はぽつりと呟く。
「間接キスですねぇ・・・」
「え」
「返してください」
掌を出して促す竜崎に、海砂は素直に銜えていたフォークを手渡した。
確かに、竜崎が舐めていたフォークに口をつけたのだから彼の言うとおりだ。
だが、どこか浮世離れしている目の前の彼がそうしたことを咎めるのは、どうも妙な気がする。「何よ、あなたが食べるかどうか聞いたんでしょう」
「別に責めたつもりはないですよ。ただ、海砂さんはケーキを食べるとき随分と面白い顔をすると思いまして」
「なっ・・・」
飄々とした顔つきで言われ、海砂は絶句する。
面白い顔。
可愛いという評価は何度もされたが、面白いなどと言われたのは初めてだ。
表情を険しくした海砂を竜崎は首をかしげて見つめる。「海砂さん?」
「帰る!!!」
「でも、月くんとのデートの時間はまだ残っていますよ」
「もうあんたと一緒にいたくないのよ!!」
肩を怒らせて歩く海砂は竜崎に向かってあかんべえをすると、乱暴に扉を閉めて出て行った。
どのみち監視付きの生活なのだが、一秒でも竜崎の近くにいたくないという様子だ。
明日、月が優しい言葉の一つもかければ気分屋の彼女はすぐに機嫌を直すことだろう。
「・・・・何で怒ったんでしょう?」
不思議そうに訊ねる竜崎に、傍らの月は何とも言えずに無言の返事をする。
竜崎の言う「面白い」が「可愛い」と同意語だということに、月も海砂も、彼自身も気づいていなかった。
あとがき??
名前、全部漢字にしてしまったんですが、デスノートでSSを書いている人はライトやミサのようにカタカナを使うのしょうか??
何だか私、月と竜崎と海砂の三人がセットで好きのようです。組み合わせはどれでもかまわないような・・・・。
とりあえず、海砂が可愛ければいいかなぁと。
LミサっぽいSSを書いてしまいましたが、女に優しいLは想像できません。