かわいいひと 3


「キスしてもいいですか?」

 

昨夜寝るのが遅かったのか、せっかく一緒にいる時間が貰えたというのに月は居眠りをしている。
最初は面白くない気持ちでいた海砂だが、つい寝入ってしまうというのは、それだけ気を許しているということだ。
そして、いつもと違う月を見られるチャンスでもある。
穏やかな月の寝顔に見入っていた海砂は、竜崎に言われた言葉を頭の中で反芻し、ゆっくりと顔を傾けた。

「月に?」
「海砂さんです」
「絶対に嫌」
「じゃあ、します」
「・・・・・・・」
まるで会話になっていなかった。
肩を掴まれた海砂が騒がなかったのは、月の眠りを妨げるのが嫌だったからだ。
それ以外に理由があるはずがない。

「私は月が好きなのよ」
闇を思わせる黒い瞳を間近に見つめ、海砂は静かに声を出す。
「知っています」
「竜崎さんのことは嫌い」
「私もです」
竜崎が手を動かすたびに手錠の鎖が音を立てた。
月は依然小さな寝息を立てている。
「だから良いんです・・・」

 

 

海砂は以前月とキスをしたことがある。
だけれど、竜崎とのキスはそれとはまるで違った。
冷たい言動とは裏腹に、唇は優しく、繊細な柔らかさを伝える。
錯覚してしまいそうだった。
そこに愛があるのではないかと。

「・・・何で目閉じないのよ」
「目をそらしたら負けですから」
「変なの」
憎まれ口はすぐ塞がれる。
だが、少し変でないと彼らしくない。
生気を奪われそうな長い口づけは彼の粘着質な性格をよく表していると思った。

 

 

 

「月ともこういうことしてるの?」
唇を解放したあとも、海砂と額を合わせた竜崎は彼女の長い髪を弄んでいる。
指でくるくると巻いては離し、艶ややかな髪をいじった。
「・・・・そうですね」
不安げな海砂を見ずに答える。
「したくなったらしますけれど、まだやっていません」
しれっとした顔で語る彼がひどく憎らしくなったが、海砂は口を尖らせただけで大人しくしていた。
傍らの月はまだ目を覚まさない。

「何で私とキスしたくなったの」
「誰でも良かったんですよ。子供の頃から寂しがりやなので、たまに人肌が恋しくなります。だから、私の近くにいて私を一番嫌っていそうな人を選んだんです」
「・・・・ふーん」
海砂は何となく納得した気持ちで頷いた。
確かに、海砂はいつでも竜崎を邪魔だと思っている。
大好きな月の隣りにいる人間は自分以外許せない。
もし月を奪う者がいれば、相手が誰であれ殺す覚悟はあった。

 

「・・・んっ」
覚醒が近いのか、月が小さく声をあげた瞬間竜崎は海砂から手を離した。
急に遠くなった熱が名残惜しく、海砂はつまらなそうに竜崎を見る。
「私達が目の前でキスしたら、月はどんな顔するかな」
「・・・・どうでしょう」
竜崎にしても、月が内心海砂をどう思っているか推測できない。
「やってみます?」
「今はまだいいわ」
言いながら、海砂は視線を竜崎から月へと移す。

月、この世で一番いとおしい人。
月を好きになればなるほど、彼に付きまとう竜崎を嫌いになる。
それならば、月と竜崎の間にある縛めが解かれたとき、気持ちはどう変化するだろう。
自分と同じように、月の寝顔を眺める竜崎を見ながら海砂は思った。
やっぱりそばにいて欲しくない人物には違いないと。


あとがき??
ただチューネタを書きたかっただけ。本編でしていましたけど。
彼らの行動は全部監視カメラに残っているんですが、まぁいいか。
隣りに月がいなかったら、チュー以上のことも出来たのに。残念!
竜崎くんは月と海砂両方同じくらい気に入っているのですが、私が男女カップル好きーなためLミサばかり書いてしまう。
私、何故竜崎くんが人気なのかよく分からなかったのですが、自分で書いて理解しました。この人、凄く楽しいです。
一作で終わるはずが三つもLミサを書いてしまったのは、海砂ではなく竜崎くんのパワーです。


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