かわいいひと 4


「月v」
月の姿を見付けると海砂は場所がどこでも、他に誰がいても、構わず飛び付いてくる。
月を好きなのだということは、彼女の満面の笑みからもよく分かった。
月も海砂のことは嫌いではない。
だが、こうもあからさまに好意を前面に出す娘に会ったのは初めてで、どう扱って良いのか戸惑っている。
聞けば両親は死に、苦労の多い人生を送っているようだ。
それなのに、月の目に映る海砂はいつでも笑顔で、不幸の影は微塵もなかった。

 

 

 

「月は私のこと好き?」
唐突に訊ねられた。
傍らを見ると、唯一近くにいる人間である竜崎は両手で目を押さえている。
「あ、私は聞いていませんから。どうぞご自由に続けてください」
「・・・・・」
聞かないフリをするならば塞ぐのは目でなく耳ではないかと思う月だが、突っ込みを入れる気にもならない。
海砂にいたっては、はるか以前から竜崎の存在など忘れきっている。

「正直に答えてくれないと、今ここで舌を噛んで死にます」
「えっ!」
「それは、大変ですねー」
目を覆ったままの外野の声に月は思わず竜崎を睨んだが、当然彼には見えていない。
途方に暮れる月とは対称的に、海砂は期待に瞳を輝かせていた。
彼女には分かっているのだろう。
優しい月は、海砂を好きでも嫌いでも、「好き」という言葉を言うことを。

小さくため息を付いた月は、改めて海砂の顔を見つめる。
自分のために、死んでもいいとまで言ってくれた彼女を悲しませたくはない。
だが、好きかどうかと訊かれると、月は即答できなかった。
「好き」の一言で、海砂がどれだけ喜ぶかは分かっている。
それだけに、嘘はつきたくない。

 

 

「よく、分からないんだ・・・」
ぽつりと漏らした月に、場は静まりかえる。
竜崎は興味本位に二人の顔を見比べたが、海砂は予想に反して月に微笑を返した。
「月って、不器用なんだね」
「え?」
「適当に「好き」って言えばどんな女の子だって喜ぶのに、出来ない」
海砂はぴたりと月に身を寄せる。
「海砂、前よりもっと月のこと好きになっちゃった」

自分の背中に手を回し、幸せそうに微笑む海砂を見て月は困ったように笑った。
「・・・・海砂さんのこと意外と大事にしてるんですねぇ」
彼女に聞こえないよう、ぼそぼそと耳打ちする竜崎にも無言の返事をする。
いつでも明るさを忘れず笑うことの出来る海砂。
この世界全部で、彼女に対して可愛いという印象を持たない男が果たしているのだろうかと、月は思った。


あとがき??
物凄く書きにくいと思ったら、白月だったからです。
ノートを持っているときの黒月の方がはるかに書きやすそうです。でも、海砂に会ってすぐ捕まったし・・・書けない。
海砂を利用してポイ捨てするような黒月の方が好きらしい。
しかし、本当に月は海砂のこと何とも思っていないんですかね。(がっかりな)
月の気持ちはどうあれ、月を一途に想う海砂が好きです。
ああ、今回の「かわいいひと」はようやく海砂です。デスノートSSなのに、何でこんなにほのぼのタイトルなのか。
3人しか登場人物がいないのは、他のキャラをよく把握していないからです。単行本、集めるか。


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