君去りし後 1


「神楽ちゃん、僕、そろそろ帰るから」
流し台で洗い物をすませた新八はソファーへと目を向けたが、そこには定春が寝転がっている。
どこに行ったのかと思い、首を巡らせると窓際に立つ神楽を見付た。
丸い月を見上げる神楽はどこか寂しげに見える。
声をかけることを躊躇う新八の気配に気付き、振り向いた神楽はにっこりと笑ってみせる。

「銀ちゃん、遅いネ」
「ああ、うん。きっとパチンコで珍しく大当たりでもして、お酒飲みに行ったんだよ」
何となくホッとして新八が答えると、乱暴に玄関の扉が叩かれる音が聞こえてきた。
「銀ちゃん」
嬉しそうに声をあげると、神楽は駆け出していく。
彼女のあとに続く新八だが、鍵を開けて入ってきた銀時はかなりの泥酔状態だった。

 

「銀さん、飲む金があるんだったら、こっちにもお金を入れてくださいよ。そろそろ電気と水道が止められちゃいますよ」
「ご飯、食べられなくなるネ・・・・」
「あー、うっさい、うっさい」
完全に目が据わった銀時は、水道の水を飲むと神楽に指を突きつける。
「うちに金がないのは、お前のせいでもあるんだからな。毎日毎日、どんだけ食べれば気がすむんだっての。いくら働いても足りないんだよ」
「ちょっと、銀さん!言い過ぎですよ」
「本当のことだろー。大体、不法入国者がここにいるのが変なんだっての」
「・・・・・」
新八が止めるのも聞かずに、銀時はろれつの回らない舌で喋り続ける。
そして、神楽の顔色はどんどん暗いものに変わっていった。

「銀ちゃん・・・、私のこと邪魔アルか?」
俯く神楽はの声は、涙が混じっていた気がした。

 

 

 

翌朝、銀時が二日酔いの頭を抱えて起きると、鬼のような形相の新八が布団の傍らに正座していた。
大人しい性格の新八が激怒することなど、滅多にない。
「あの・・・水を一杯頂けないでしょうか」と、低姿勢に頼んでも、「自分でやってください」とはね除けられる。
何か、相当怒っているようだった。
「えーと、神楽は?」
「出て行きました。銀さんが追い出したんでしょう!」
「・・・・え?」
声を荒げて反論され、一瞬、何を言われたか分からなかった。
「何だよ、それ」
「昨日の夜、神楽ちゃんが銀さんに聞いたんですよ。自分が邪魔かどうか。そうして銀さんが肯定したから出て行っちゃったんです。覚えていないんですか?」
「知らない」

行き付けの飲み屋で知人と馬鹿騒ぎをしたのは覚えている。
それからの記憶は一切なかった。
どうやってここまで帰ってきたのかも不明だ。

 

「俺が神楽に、邪魔だって?」
頭痛と闘いながら必死に考える銀時は、全てではないが、断片的に状況を思い出していく。
まず頭に浮かんだのは、唇を噛みしめて泣くのを堪える神楽の顔。
そして、扉が閉じられる前の「バイバイ」の声だ。

「・・・あ、何か、言っちゃったかも」
「ひどいですよ!神楽ちゃん、寝ないでずっと銀さんの帰りを待っていたのに。それに、あれでも気を遣って、毎日お茶漬けご飯で我慢していたんですからね」
「頭に響くから大声出すなって。それで、お前は引き留めなかったのか?」
「追いかけましたよ。でも、どこを捜しても神楽ちゃんはいないし。朝になっちゃったんで、ここに戻ってきたところだったんですよ」
そして、新八は再び銀時を睨み付ける。
「可哀相に。故郷に帰るお金もなくて、ここより他に行くとこなんてないのに」
「・・・・・」
新八の一言一言が、胸に突き刺さるようだ。

身支度を整えた銀時は、さっそく新八と共に神楽の探索を始める。
チャイナ服といい、傘といい、彼女の服装は目立つ。
すぐにも発見できると高を括っていたのだが、それから数日経過しても、彼女の行方は杳として知れなかった。


あとがき??
「君去りし後」、NARUTOでも使ったタイトルですが、これがどこから出てきたか分かっていなかった。
それがつい先日、判明。
『うる星やつら』だった!ラムが故郷に帰っちゃった話ですよ!!
子供の頃(小学校?)に読んだ漫画のサブタイトルが忘れずに頭にあって今頃出てくるとは。
ちょっと驚きでした。凄い好きだったんですよね、この漫画。従兄の家にそろっていた。『めぞん一刻』とか。
ということで、この話のオチも『うる星やつら』の「君去りし後」と一緒です。
真選組も出すぞー。待っていて土方さんーー。(?)


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