君去りし後 3


「はーー、しゃばの空気はうまいアルねー」
「もう二度と来るな」
諸々の手続が終了し、屯所から出た神楽の第一声に土方は目くじらを立てる。
神楽の言い方では屯所がまるで牢獄か何かのようだ。
最上の待遇だったというのに、そのようなことを言われては頭に来るのも当然だ。

「まぁまぁ、土方さん。これ、お土産だよ。万事屋のみんなと食べてね」
「パン屋・・・・何から何まで世話になったアル」
土産の肉まんが入った包みを受け取りながら、しみじみと呟く神楽に山崎は涙を滲ませる。
食べ物第一の神楽にすれば、飯炊き係の山崎の方が副長の土方よりも格上の存在のようだった。

「じゃあな」
踵を返した土方は、服の裾を引っ張る力に負けて立ち止まる。
「送っていくアルヨ、多串くん」
「何で俺が。山崎でいいだろ・・・」
「ここまで付き合ったなら、最後まで面倒見るヨロシ」

 

 

 

同じ頃、資金面の問題から宇宙に行くことを断念した銀時はスーパーの買い物袋を片手に歩いていた。
神楽がいないせいで、主に買い出しは銀時の仕事だ。
今までは食材集めが神楽、作るのが新八、食べるのは3人一緒だった。

「便所紙、あんまり安くなかったなぁ・・・・」
「銀ちゃん!」
とぼとぼと帰路に就く銀時は、聞き覚えのある声に反応して顔を上げた。
神楽が、向こうの道から土方と並んで歩いてくる。
まるで何度も繰り返し見た、神楽が帰ってくる夢の延長のようだ。
「・・・・幻覚に幻聴か。俺もそろそろ駄目らしい」
「銀ちゃん、待つアルヨー!!」

無視して行き過ぎようとした銀時に神楽は全速力で駆け寄った。
何しろ久しぶりの再会だ。
神楽が力の加減を忘れて突っ込むと、道端で倒れ込んだ銀時は勢いよく地面に頭をぶつける。
この痛みはどう考えても本物だった。

 

「銀ちゃんの匂いネ〜」
エヘヘッと笑った神楽は、銀時に抱きついて嬉しそうに言う。
すっかり脱力した銀時は仰向けの自分に乗っかっている神楽に文句を言う気力もなかった。
よく分からないが、神楽は戻ってきた。
その事実があれば、他はどうでもよく思えてしまう。

「・・・・悪かった」
「え、何ネ?」
「邪魔だなんて、嘘だ」
思いがけない言葉に目を丸くした神楽だったが、銀時は珍しく真面目な表情だ。
会ったらいろいろ文句を言おうと思っていた。
だが、実際に彼の顔を見てしまうと不思議と言葉は出てこない。

 

 

「おい、早く起きねーと人がくるぞ」
後ろから体を持ち上げられて立った神楽は、その時ようやく土方の存在を思い出す。
銀時にしても、それまで全く彼の姿が視界に入っていなかった。
「・・・・何でお前がここにいんだよ」
「銀ちゃん、礼を言うネ。今までずっと多串くんがそばにいてくれたアル!」
「おい」
神楽に強引に腕を組まれた土方は迷惑そうに顔をしかめていたが、そのようなことは問題ではなかった。
起きあがるなり、銀時は険しい表情で彼を睨み付ける。

「てめーがうちの神楽を誘拐していたのか!警察に突き出してやる」
「銀ちゃん、この人が警察アルヨ」
「・・・そうだった」
頭を抱えて悩む銀時に、土方も不安げに訊ねる。
「ちょっと待て。チャイナのことは山崎が連絡に行っただろう」
「誰も来てないぞ」
「・・・・」

銀時の返答に土方は思わず舌打ちをした。
おそらく、ミントンに夢中になっているうちに言いつけを忘れたのだろう。
いつものことだ。
帰ったらまたぶん殴ろうと考える土方だが、神楽の言葉のせいでさらに誤解に拍車が掛かっていく。

「食べるときも寝るときもお風呂もずっと多串くんと一緒だったアルヨーー」
「何だって・・・・」
「おい、こら、勝手に脚色するな。布団はちゃんと二つ敷いていたし、風呂も脱衣所の戸口で待っていただけだろう」
脳天気に喋り続ける神楽に土方は必死に訂正を入れる。
男だらけの屯所、何か間違いがあったら困るということで、確かに常に行動を共にしていた。
だが、色気のある事態には全く発展していないのだ。

 

 

「・・・お前、さっきから大事に抱えているそれ、何だ」
疑惑の眼差しでじろじろと二人を見る銀時は神楽が持つ紙袋を見ながら訊ねる。
「えーと、手切れ金。私はもう用済みだから、捨てられたアルヨ。これ持って出ていけって言われたネ」
神楽はとっさに思い出した昼のメロドラマの台詞をすらすらと答えた。
たいした考えもなく口にしたのだが、渦中の彼らにすれば大問題な発言だ。
紙袋から出した肉まんをぱくつく神楽の傍らで、銀時と土方の諍いはさらにヒートアップしている。

「てめー、うちの娘を拉致監禁、傷物にしておいて何だ、この仕打ちは!こいつは肉まん一袋分の価値しかねーって言いたいのか!」
「アホか!!何で、子供の言葉を全部鵜呑みにしてるんだ!」
大きな声を出し合う二人の傍らで、肉まんを食べる神楽はのんびりと考える。
屯所での食事は魚が中心だった。
今夜の夕飯のメニューは焼き肉がしゃぶしゃぶにして欲しい、と。


あとがき??
・・・よく分からない話になってしまった。
銀神のはずが、何故、土神も混じったのか不思議。
どっちも好きだから良いですけど。
神楽ちゃん、罪な女ネ。

私の書く銀ちゃんは何故こんなにニセモノくさいのかと思いましたが、あれです。
神楽ちゃんにべったりだからです。
私が書くと銀ちゃんも新八も沖田くんも土方さんも、神楽ちゃんラブです。
近藤さんも妙さんいるけど、神楽ちゃんを何気に可愛がっています。
今後もそんな感じで・・・。


戻る