うさぎ追いし


「ど、ど、ど、どーしたんですか、それ!!!!?」
絶叫する新八の目の前には、満身創痍の銀時がいた。
両手足、顔まで包帯でぐるぐる巻きになっている。
おそらく自分でやったのだろう、ところどころ緩んでミイラ状態だ。
「神楽&定春にやられた・・・・」
「救急車、救急車を呼ばないでいいんですか!?」
「払う治療費がねえ」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょう」

救急箱を持ち出した新八は、ぞんざいに巻かれた包帯を解いて治療を始める。
ギャグ漫画でなかったら、死ぬほどの重傷だ。
確かに神楽は見境無く大暴れすることがあるが、懐いている銀時に対して乱暴を働くことは少ない。
そして、定春も神楽の言うことには従うはずだった。

 

「何があったんですか、神楽ちゃんと?」
自分が実家に帰った夜のうちに、二人の間に何が起きたのか非常に興味があった。
不機嫌そうに横を向く銀時は、新八の塗る傷薬が染みるのか顔をしかめている。
「・・・・金をよこせなんて、生意気なこと言いやがったんだよ。断ったら定春をけしかけられた」
「ああ、お給金。ずっと払っていないんですよね」
「酢昆布買う小遣いならやってるぞ」
「でも、神楽ちゃんも女の子だし、他の子達みたいにいろいろ買い物したいんじゃないですか。服とか髪飾りとか」
「・・・・百年早い。あいつの食費でどんだけうちのエンゲル係数上昇していると思ってるんだ」
「まぁ、そうですけど」

見かけによらず人の良い銀時のおかげでただ働きの仕事が多く、さらに神楽は10人前の食事をぺろりとたいらげる大食漢だ。
家賃や新八への給金も払えず、明日の米にも事欠く身の上。
神楽が金を欲しいと言いだしても、出す金がないというのが本音だろう。

 

新八の家も姉の稼ぎが唯一の収入源で、生活に余裕があるわけではない。
だが、少しくらいなら自分の蓄えから神楽に渡そうかと思っていた新八は、その考えを見抜く銀時に鋭く睨まれた。
「お前・・・・、あいつに金握らせたらボコボコにするからな」
「えっ!!?」
思わず傷薬を取り落とした新八は、慌てて瓶を拾う。

「な、何でですか」
「あいつは無一文でないと駄目なんだよ」
「・・・はぁ」
そのまま口を引き結んだ銀時に、意味の分からない新八は首を傾げた。
治療を終え、救急箱をしまう新八を横目に銀時はぼそぼそとした声で呟く。

「金が貯まったら、故郷に帰っちまうだろ」

 

 

 

旋毛を曲げ、寝床である押し入れに閉じこもっている神楽を引きずり出すのは、簡単だった。
おひつとポット、具材の乗った皿を押し入れの前に並べて呼び掛ける。

「神楽ちゃん、ご飯だよ。早く出てこないと、鮭茶漬け全部食べちゃうよ」
「鮭!!」
がらりと襖を開けた神楽は、新八が用意した餌に食いついた。
新八がお代わりをよそう間に、おひつの中身はあっという間に空になる。
そして、腹が少しばかり満たされてから、ようやく神楽は一息ついて周りを見回した。

「・・・・銀ちゃんは?」
「いつものパチンコ。暫く帰ってこないから、平気だよ」
「・・・」
箸を握る神楽は、ホッとしたような、ガッカリとしたような、どちらともいえる複雑な気持ちで俯いた。
「神楽ちゃん、何が欲しかったの?」
「ん?」
「お金、欲しがったでしょう。何か自分の物を買いたかったんじゃないの」
「違うアルよ。私のものじゃないアル」
神楽はしきりに首を振って言う。

「普段迷惑ばかりかけてる銀ちゃんに、何かプレゼントしたかったネ。それなのに、びた一文出さないって言われて・・・・つい、殺意が芽生えたアル」
「・・・そうなんだ」
迷惑かけてる自覚はあるんだ、いや、迷惑ならば銀さんより僕の方が被っているのでは、等々、新八の頭の中で様々な思いが巡る。
天気は快晴。
万事屋は今日も平和だった。


あとがき??
銀神のつもりなんですが。あれ。
元ネタは千代の富士。
「飛行機に乗せてやる」と言われて北海道から上京し、相撲部屋に入門してからは、「あいつに金を持たせるな、故郷に帰られると困る」と親方は千代の富士の周りの人間に言っていたらしい。
すもーー。
原作、物凄く流し読みしていた人間なので、同じようなネタがすでに出ていたらすみません。


戻る