天女の羽衣


雲のない夜は、いつも窓を開けて空を眺めている。
街のネオンが邪魔をして星はかすんでいた。
ただ、月の光を眺める神楽には関係がないことなのだろう。
彼女の故郷は遠い空の向こうにあった。

 

 

 

「さみーから窓閉めろよ、神楽」
レンジで温めたふかし芋を握る銀時は神楽の後ろに立って促す。
振り向いた彼女は、何故か泣きそうな顔に見えた。
「もう少しだけ、もう少しだけお願いネ」
「お前・・・・」
何か言いかけた銀時は、そのまま口をつぐむ。
ずっと前から、訊きたかったことだ。
このまま時が経てば、よけいに訊きにくくなってしまう気がする。
芋を食べながら神楽の隣りに来ると、銀時は小さな声で続けた。
「帰りたいのか?」

驚いたように顔をあげた神楽だが、銀時は真顔だった。
まだまだ子供といえる年齢。
親元を離れて寂しいときもあるのかと思ったが、神楽は明るい笑顔を浮かべている。

 

「いつでも帰りたいアルよ。大好きなパピーとマミーに会いたいネ」
「ほー」
「でも、今は駄目アル」
話す途中、神楽はいつものように銀時に飛びつく。
「銀ちゃんが私の大事なものを持っているから、帰れなくなったアル」
「何だ、それ。俺はお前のものなんか、何も取り上げてねーぞ」
「目には見えないヨ」

懐にいる神楽が笑っているのが、体の振動で伝わってくる。
その顔が見たかったが、身長の差から俯く神楽の表情は分からない。
肌の色は尋常でなく白い彼女だが、体が重なった部分から伝わる熱は、確かに人の温もりがあった。
当然のことなのだが、そのことに無性に安心する。

「それがないと生きていけないネ。だから銀ちゃんがここにいるかぎり、故郷には帰れないアル」
「・・・・ふーん」
その言葉は理解できないが、彼女が皆に黙って突然消えてしまうことはなさそうだった。
食べかけの芋の存在を思い出した銀時は、それを神楽の目の前へと持っていく。
「食うか?」
「ん」

 

 

夜道を歩くとき、後ろに迫る満月を怖いと思ったことが何度かある。
理由はよく分からない。
だけれど、今、その漠然とした不安感は霧散してしまった。
自分にくっついているピンクの髪を撫でると、彼女は食べかすを口の周りに付けながら嬉しそうに笑う。

「銀ちゃん、まだ寒いアルか?」
「・・・それほどでも」


あとがき??
大事なものって、何でしょう。
たぶん、『カリオストロの城』でルパンがクラリスから盗んだものと一緒です。(笑)
神楽ちゃんの「私の大事なものを勝手に奪っていった」発言は、絶対アレだと思ったですよね!
体の(以下、省略)。正解は通販グッズでしたが。


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