たいせつ


皮肉なものだと思う。

この身を投じた攘夷運動。
天人を排除し、国を護ることを誓った。
沢山人を殺して、沢山仲間を失って。
最後にたどり着いた安息の地。
今、家族と呼べる人達の中に、外来人の少女がいる。

瞼に残るのは屍の山と地獄のような戦場。
果たして、何のためだったのだろう。
あの戦いは。

 

 

 

 

「銀ちゃん、銀ちゃん」
「・・・あー」
肩をゆすられ、うたた寝を邪魔された銀時は不機嫌な顔で振り返る。
すぐ背後に神楽と、夢に出てきた知己が立っていた。
「お客様アル」
「・・・・ヅラ。何しに来た」
「用件は一つしかなかろう」

ため息をつく銀時は、片手を振って神楽に部屋から出て行くよう促す。
神楽に連れられて外に行く定春の表情は、いつになく不安げだった。
飼い主の心情を読み取っていたのかもしれない。

 

「しつこい奴だなー。何度来ても答えは同じなんだよ」
「それでも、俺達にはお前の力が必要だ。このようなところでのらくらと過ごして、一体何の得がある」
「・・・・」
面倒くさそうに体を起こした銀時は、ソファーに座る桂に向き直る。
「理由、教えてやろうか?」
言いながら、眉を寄せた桂に人差し指を突きつけた。

「お前達の思想は何だ?」
「天人を掃討し、この腐った国を立て直す」
「はい、その通り」
何をいまさら、とでも言いたげな桂に、銀時は真顔で告げる。
「俺が世話してるガキ共、知ってるだろ。あれの片割れは地球人じゃない」
「・・・だから?」
「俺はもう攘夷に興味なんてない。家族を守れる力があれば、それでいい。それが仲間の墓を作りながら出した俺の結論だ」
「・・・・・」

真意を探るような眼差しを、銀時は受け止める。
そして、ふいに彼の口からこぼれた言葉に、体が震えた。

 

「あの娘がいなくなれば、いいのか」

 

冷ややかな声音は真剣な証拠だ。
表情なく立ち上がる桂の腕を、銀時はとっさに掴んでいた。
「手ぇ出したら、殺すぞ!」
「・・・昔からの仲間を斬れるのか?あんな、数ヶ月一緒にいただけの、子供のために」
静かな声で問いかける桂の瞳を、銀時は睨み返す。
答えなど分からない。
ただ、掴んだ手を離すことはできなかった。

緊張した空気の中、視線を逸らした桂は、少しだけ寂しげに笑う。
「・・・冗談だ」
目の前にいる銀時は、昔の彼ではない。
変わってしまった彼をもう一度戦場に連れ出すなど、どんなことをしても、無理な話だった。

 

 

 

「何をしている」
家から出てすぐ脇、くだんの少女が飼い犬に指導している。
餌を与えながら何か教え込んでいるようだ。
「お前に噛み付く練習アル」
「・・・・」
定春に噛み付かれ、ぼろぼろになった木の枝を見て桂は思わず無言になった。
「お前、嫌い。銀ちゃんを遠くに連れて行こうとするネ」
定春の体を撫でる神楽は、小さな声で呟く。
桂を振り返ることのない彼女は、泣いているようだった。

頭の上にのる手の驚いた神楽は、そのとき初めて後ろを見る。
顔は全く似ていない。
だが、頭を優しく撫でるその微笑は、どこか銀時に共通したものがある気がした。

「さようなら、お嬢さん」


あとがき??
新八も神楽も、定春もお登勢さんもお妙さんも、みんな大事なのです。


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