休日 1


私室の机は窓際に置かれていた。
目で文字を追うことを止めたリリーナは、ふと顔をあげて窓の外を見つめる。
通常ならば、白樺の木が並ぶ緑の風景がそこにあるはずだ。
だが、窓硝子に映っていたのは、彼女の良く知る人物の顔。
笑顔で手を振る三つ編みの少年に、リリーナも思わず口元を緩める。

「どうしました?何か、急な御用ですか」
突然の訪問にもさして驚かず、彼女は窓を開けてデュオを部屋へと招き入れた。
ドーリアン家の別荘であるこの場所には、リリーナが滞在していることで物々しい警備が敷かれているはずだ。
だが、元ガンダムパイロットである彼には、この場所まで侵入することはたやすいことなのだろう。
正式にアポイントメントを取れば、会えるのは半年は先になってしまうのだから、仕方がない。

 

「急な用といえば、そうかな。はい、これ」
彼が背中に隠し持っていた物を手渡すとリリーナは驚きに目を丸くする。
淡い色の薔薇が混じった、ピンクのガーベラの花束。
彼女が好んでよく部屋に飾っている花だ。
「誕生日おめでとう。えーと、ヒイロからだ。奴は仕事が忙しくてどうしても来られないから、非番の俺が代わりに」
「まぁ」
視線をそらしながら言うデュオに、リリーナはくすりと笑う。

「デュオさん、私がこの花を好きなこと知っていらしたの」
「ちょっと調べればすぐに・・・・って、え!?」
「ヒイロからのプレゼントはもう届いています。ほら、あれです」
指差された棚の上には、首にリボンの巻かれたクマのぬいぐるみが並んでいた。
保養地にわざわざ運んでいることから、大切にしているのがよく分かる。
クマの形は大小様々だが、一番手前にあるのが、おそらく届いたばかりのものだ。

「ヒイロは私に花のプレゼントなんて、気の利いたことはしませんよ。私が一度喜んだら、何かある度にずーっと同じクマのぬいぐるみを送ってくるような人ですから」
「ちぇー、せっかく親友の俺がヒイロの印象良くしてやろうと思ったのになぁ。無駄骨か」
首の後ろで手を組んだデュオはすねたような口調で呟く。
「お嬢さんならもっと豪華なプレゼントを一杯貰っているだろうし、邪魔だったかな」
「いいえ、わざわざ会いに来てくださってとても嬉しいです。有難う」

花束を抱えたリリーナは、花に負けず劣らず綺麗な微笑を浮かべてみせる。
ヒイロが、この世で最も大事にしているお姫様。
この笑顔を見ただけで、デュオはそのわけを十分に理解できたような気がした。

 

 

「ところで、何をしていたの。誕生日だから特別に休暇を貰ったんだろ」
「ええ、皆さんに気を遣って頂いて。今が一番忙しい時期だからと私はお断りしたのですが、誕生日の日くらいはのんびり過ごして欲しいと言われて、ここに案内されました」
「誕生日パーティーとか、しないの?」
「先日テロ事件が起きたばかりなので、私の居場所は当分の間、民間の方には内緒なのです」
「・・・ふーん」
悲しげに曇るリリーナの顔を見た後、デュオは先程まで彼女が読んでいた本へと目を走らせる。

「『土地基本法と土地区画基本事業について』・・・・・これ、楽しい?」
「ええ。ちょっと頭を休めるには丁度良い読み物です」
「・・・へぇ」
頭の作りが自分と違うのだろうかと思いつつ、デュオは難しい用語が並んだ本を閉じる。
日々の仕事はただでさえ堅苦しいものだ。
休みの日くらいはTVを見たり散歩をしたりともっとリラックスすればいいと思うのだが、見回しても広い彼女の部屋に娯楽性のあるものはなかった。
ボディーガードが何十人とくっついていては、近所まで気楽に買い物に行くというわけにもいかない。
よって、彼女は自然と誰にも迷惑がかからない、私室でじっとしているという行動を選んだのだろう。

 

「籠の中の鳥かぁ・・・・」
近くにあったソファーに腰掛けると、デュオはぼやくように言う。
彼女の生活は、デュオがよく知る同世代の少女達とはあまりに違った。
世界を平和は誰もが望むことだが、それが一人の少女の犠牲の上に成り立っている事実がどうも痛ましい。
そのことを彼女が不自由に思っていないことが一番の不幸だ。

「あの、具合でも悪いのですか」
急に黙り込んだデュオをリリーナは心配そうに顔を覗き込む。
間近にある彼女の青い瞳を見つめたデュオは、難しい表情のまま低い呟きをもらした。
「・・・ちょっと、外を歩いてみない?」


あとがき??
ほんの十数行で終わるはずだったのに、何故こんなに長く・・・。(涙)
内容はすぐ思い付いたけれど、書いているうちに死にそうになった。
デュオやリリーナやヒイロ、名前を入力するだけで緊張する。大事すぎるキャラ・・・。
デュオは気を抜くとディオやヂュオになっちゃうし。(涙)入力が面倒。
リリーナ嬢は「デュオくん」と呼ぶでしょうが、デュオに「くん」付けが妙に似合わなかったから「さん」にしちゃったよ。

基本コンセプトは、デュオとリリーナで『ローマの休日』です。
続きはラブ度アップの、はずですが、書かなかったらごめんなさい。


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