休日 2
リゾート地であるその場所は、遠方からやってきた家族連れやカップルで大変な賑わいだった。
往来には大道芸人や風船売りの着ぐるみなどが人々の目を引いている。
だが、一番に通行人達の注目を集めているのは、そうした行商人ではない。
10代後半と思われる、一人の少女だ。広場の中央にある噴水の前に立つ彼女は、所在なげに周りを見回している。
通り過ぎる人々がついつい振り返ってしまうのは、彼女の体から自然とにじみ出る気品が、賑々しい町の雰囲気にそぐわないからだ。
水色のワンピースや身につけている小物は全て名の通ったブランド品。
おそらく、どこかの名家のお嬢様が付き添いの者とはぐれたのか、道に迷ったのかしたのだろう。
憂い顔の彼女は、絵画の中の聖女がそのまま動き出したような美しさだった。
日の光をまるで知らないのではないかと思われる白い肌に、神秘的な紫の瞳がよく映える。
彼女の長い髪がセピア色でさえなければ、よく似た顔立ちの少女を町の誰もが知っていた。
「君、ずっとここに立っているけれど、何か困ったことでも?」
少女の周りには一種近寄りがたい空気があったのだが、勇気ある若者の一人が一歩前へと進み出た。
驚いて顔を上げたリリーナは、親切な若者に対して柔らかな微笑で応える。
「大丈夫です、友達を待っているだけなので。気を遣って頂いて、有難うございます」
春風が吹いたかのようなその笑顔に、彼は右手をあげた姿勢のまま体を硬直させた。
あわよくばお茶に誘おうという邪な心は、彼女の清らかな微笑みによって微塵に粉砕されてしまう。
天上の音楽のような声音と自分を真っ直ぐに見つめる眼差しに、それだけで有頂天だ。「あ、あの・・・」
「はい、そこどいたー!!」
威勢の良い声を聞いたかと思うと、若者の視界から麗しい少女は消え去った。
襟元を掴まれて後方へと追いやられた若者は、自分とリリーナの間に立つ人物を怪訝な表情で見る。
「この子はもう売約済みだから。勝手に手を出さないように」
嫌に刺々しい口調で忠告したのは彼女と同じ年頃と思われる少年だ。
長い髪を三つ編みにした彼はお嬢様然としたリリーナの連れとは思えない身なりだったが、後ろに立つ彼女が黙っているところを見ると、待っている友達というのは彼のことだったのだろう。「デュオさん、この方は心配してお声を掛けてくださっただけですよ」
「・・・お嬢さんは人が良いからなぁ」
ため息まじりに呟いたデュオは、リリーナの肩を掴んでその顔を覗き込む。
「親切そうに近寄ってくる人間が一番怪しいの。絶対付いていかないこと。分かった?」
「は、はい」
真顔で凄まれたリリーナは慌てて首を縦に動かす。
怪しいなどと言われた若者は心外だったが、下心があったのは事実で、口を挟むことはできなかった。
リリーナを連れて歩き出したデュオは、彼女をこの場所に残して買いに行っていた物を差し出す。
「はい」
「え?」
「このアイスクリーム屋、チェーン店でいろんなところにあるんだよね。ヒルデなんか大好物で毎日食べて・・・・どうかした?」
コーンのアイスを持ったまま困った顔をしているリリーナに、デュオは首を傾げた。
「・・・これは、このまま食べるのですか?テーブルや椅子は」
「もちろん立ち食いだよ。他の人達もそうしてるだろ」
デュオが指差す方を見ると、確かにアイスクリーム屋の周りでは皆が立ったままアイスを食べている。
食事のたびに作法を気にするリリーナにしてみれば、考えられないことだ。
にこにこと笑っているデュオの目を気にしながら、リリーナは思い切ってアイスに口を付ける。「・・・美味しい」
「だろー。外でこうして食べるのも、たまにはいいもんだよ」
弾けんばかりの笑顔で言うデュオを前にして、リリーナは不思議な気持ちで頷く。
母に知られれば、しかられるかもしれない。
だが、立ったまま食べた初めてのアイスは、今までになく美味しく感じられたのだ。
「材料は何なのかしら。生クリームを入れれば・・・・」
「そういう難しいことは、今日は考えないの。あ、そうそう、これおまけね」
パチリと指を鳴らしたデュオは、手の中に現れた一輪の花をリリーナの胸元のポケットに入れる。
突然の奇術に瞬きを繰り返すリリーナに、デュオは満面の笑みを浮かべた。「目の前にあるものは、信じていればいいんだよ」
まるで裏表のない明るい笑顔を見つめるリリーナは、自然と顔を綻ばせていく。
「そうね」
あとがき??
な、長い。何でこんなの長くなっているんだ・・・・。
でも、物凄く楽しかったんですよ。楽しいうちに書かないと、また止まる。
何を書きたかったか段々思い出してきました。良かった。
リリーナ嬢は外に出るので一応変装していますが、その辺りはまた今度。
ヒイリリ&デュヒル前提の話だけれど、チューくらいさせてもいいかなぁ。(予定は未定)
個人的にリリーナ嬢は「顔は美人なのに奇妙な行動を取るスーパーお嬢様」というイメージなのに、私が書くと「ただの可愛いお嬢様」になってしまうところが、口惜しい。
難しいですね。