休日 3
「デュオさん・・・私、とても見られている気がするのですが、やはりどこか変なのでしょうか」
さも不安げに訊ねるリリーナにデュオは軽い口調で答える。
「大丈夫、大丈夫。可愛いから平気だって」
「はぁ・・・」
よく分からず頷く彼女を横目に、デュオは笑いをかみ殺していた。
どのような大物政治家と対面しても堂々としている彼女が、慣れない町中に出たとたん萎縮していることが、おかしくてたまらない。
こうした意外な一面を見られただけで、家の者に無断で連れ出したかいがあるというものだ。
連日TVや雑誌ではリリーナに係わるニュースが流れ、その顔は子供でも知っている。
よって、彼女は今、セピア色の髪のウィッグにカラーコンタクトで見事別人に変身していた。
外見の印象はがらりと変わったが、その正体に気付く者がいなくても、十分すぎるほど人目を引く容姿だ。
本人にその自覚がないことが、また可愛らしく思える。「でもさー、本当にここだけでいいの?遊園地とか映画館とか、近くにいろいろあるけど」
「ええ。十分です」
周囲を指差しながら訊ねるデュオに、リリーナは笑顔で答える。
公園のベンチに座る二人の目の前を、子供を連れて遊びに来た夫婦や、散歩中の老人、初々しいカップル等、様々な人が通り過ぎていく。
そうした光景を、リリーナは微笑みながら見つめていた。
「皆の努力がこうして平和な日々に繋がっている。それを実感出来るだけで、私は幸せです」
「・・・そう」
町を案内しようとしたデュオの考えは計画倒れになってしまったのだが、リリーナが嬉しそうに笑っているのだから、彼にしても満足だ。
「あ、ちょっとごめん」
携帯電話が鳴っていることに気付いたデュオは、慌ててそれを耳元に持っていく。
「はいはいー、どちらさま・・・・」
一瞬の間をあけて、デュオの顔がみるみるうちに青ざめていった。
怯えた眼差しで自分を見たデュオに、リリーナは首を傾げる。
「デュオさん?」
「バレた」『・・・どこにいる』
不機嫌な声を耳にした瞬間、デュオは反射的に通信を切ってしまった。
たった一言だが彼に間違いない。
すぐさま彼に小突かれる自分の姿が想像できてしまって、デュオは泣きたい気持ちになる。
「えー、何でだよ。まだ2時間も経っていないぞ」
どういった経緯で彼がリリーナの失踪とデュオとの接点を見付けたかは分からない。
だが、このままリリーナを連れ回していれば彼は絶対にやってくる。
宇宙のどこにいても。
そして、被害が大きくなることも確実だ。「残念ながら、お嬢さんの騎士様から帰還命令が出てしまいました」
「まぁ」
デュオの言う「騎士」の心当たりがあるのか、リリーナはくすりと笑う。
「大丈夫ですよ。私の意思で外に出たと説明すれば、デュオさんが叱られることはありません」
「話が通じる相手ならいいんだけどね・・・」
メインストリートは相変わらずの賑わいだが、人混みを避けて裏通りを歩くと、倍以上の時間がかかってしまう。
仕方なく、人の波をかき分けて歩くデュオは、後ろから付いてくるリリーナの手を強引に掴んだ。
「繋いで歩くよ。はぐれたら大変だか・・・ら・・」
段々と喋る速度が遅くなったデュオは、リリーナの手をまじまじと見つめていた。
白くて細い彼女の指先、触れたところから溶けてしまうのではないかと思うほど柔らかく、すべらかだ。
並外れた容姿といい、本当にリリーナは自分と同じ人間という生物なのかと疑うデュオだが、見ると彼女の方も妙に戸惑った表情をしている。「えーと、もしかして、ヒイロと繋いだことないの?」
「握手なら、ありますけど・・・・」
言われてみると、彼女と手を繋いで大人しく歩くヒイロの姿は確かに想像できない。
「じゃあ、初繋ぎだ」
子供のように邪気のない笑みを浮かべたデュオにつられて、リリーナも口元を緩めた。
ヒイロとは全くタイプは違うが、共通した純粋さがガンダムパイロット達にはある。
彼らが二度と危険な戦いに身を投じることがないよう、平和を維持することが彼女の何よりの望みだった。
「ここからは、一人で大丈夫です」
角を曲がれば屋敷の門が見えるという所で、リリーナは立ち止まる。
このままデュオを連れて行けば、いろいろ尋問されることだろう。
彼女の束の間の休日は今、この瞬間に終わるのだ。「・・・・あの」
「ああ、悪い」
繋いだままだった手を放したときには、彼女の顔がすぐ間近にあった。
頬に軽く触れるキスは感謝の印だ。
その場所に掌をあてて呆然とするデュオに、リリーナは柔らかく微笑んでみせる。
「今日は本当に有難うございました。とても楽しかったです」
思わず、「こちらこそ」と言いそうになって、デュオは口をつぐんだ。
リリーナが有意義な誕生日が過ごせるよう、協力したつもりでいた。
だが、彼女の微笑みを見ると、幸運をもらったのは自分の方ではないかと思ってしまう。
「・・・ヒイロに何て言い訳しよう」
気分は天国から地獄へと落ちる咎人だ。
小走りで去る彼女の後ろ姿を眺めながら、デュオは自然と大きなため息を付いていた。
あとがき??
NARUTOで書いたネタをいろいろ使い回し。
長々と時間がかかってしまいました・・・・。たいした話ではないのに、申し訳ない。
改めて思いますが、この二人、好きですねぇ。お姫様と庶民。(笑)
ヒイリリが一番ですが、彼らはすでに私にとって神聖な存在となっているので、自分では書けないです。
ヒイロ×リリーナは永遠に一番好きなカップリング。ここまで読んで下さった方がいらしたら、有難うございました。
この話を書くきっかけになった野原さんに捧げさせて頂きます。