幕末純情伝
「マヨ、持ってきましたー」
「おう、入れ」
土方の私室に呼び出された山崎は、緊張の面持ちでマヨネーズをのせた盆を運んでくる。
マヨは土方の生きる糧だ。
それを買い忘れた咎で切腹騒ぎまであったのだから、冗談ではすまされない。
おやつのたこ焼きに見ていて気持ちが悪くなるほど尋常ではないマヨをかけた土方は満足げな笑みを浮かべている。
そして、いつまでも部屋から出ず自分を凝視している山崎に、怪訝な表情をした。「何だよ」
「いえ、あの、副長は沖田さんとは長い付き合いなんですよね」
「おお。あいつがまだ洟垂れ小僧だった頃から知ってるぞ。近藤さんにはすぐ懐いたのに、俺のことは目の敵にしやがって。昔から、ありとあらゆる手を使ってあいつには殺されかけている。厠に入っている間に外から火をつけられて焼死しそうになったこともあったな。子供の悪戯ですまされるのか、それが!!」
「た、大変でしたね・・・・」
思い出すうちに怒りが再熱したのか、声を荒げる土方に山崎は体をすくませる。
気持ちは分かるが、今、彼に聞きたいのはそうしたことではなかった。
「あの、少々お訊ねしたいんですが」
「何だ」
「沖田さんって、本当に男なんですよね」
「・・・・・はぁ?」
言われた意味が分からず、土方は素っ頓狂な声で聞き返す。
「今まで誰も沖田さんの体を見た人がいないんですよ。隊長クラスの方々は皆個室を持っていますから着替えているところは見られませんし、お風呂はいつも一人で悠々と一番風呂を使われていますし、川遊びの時も一人で釣りをしていたし、滅法強いから大きな怪我もしないし、病とは無縁だし。それで、沖田さんの性別についての疑惑が屯所内で噂になっていて」
「お前ら・・・・、馬鹿か」
掌を額に持っていった土方は深々とため息を付いた。
「あいつは男だよ。昔は裸同然の格好で道場を駆け回っていた。それに、どう聞いても声変わりをした男の声だろうが。胸だってぺったんこだし」
「そ、そうですよね」
山崎にしても、真実が分かったことでほっと安堵の吐息を漏らした。「実は、変な疑惑が浮上したのは、これが原因なんですよ」
監察方の人間らしく、山崎は懐から出した問題の物をテーブルの上に置く。
近頃、巷で人気のアイドルのブロマイドだ。
ミニスカートで笑う巻き髪の少女の面立ちは、毎日目にする顔と瓜二つだった。
「沖田さんに、そっくりでしょう」
「・・・・まあな」
女に似ているなどと軟弱だと思うが、生まれ持った顔なのだから本人にもどうしようもない。
沖田と同じ顔で微笑むアイドルのブロマイドを、土方は心霊写真でも見た顔つきで山崎に押し返した。
「お前が行って、早くそのくだらない噂に終止符を打ってこい」
「はい」
土方の命令に頷いた山崎が立ち上がりかけたとき、唐突に部屋の襖が開かれた。
同時に振り向いた彼らの視線の先には、その場に仁王立ちする沖田がいる。
「何だ、お前がここに自分から来るなんて、珍しいな。何か用・・・・・」
話している途中、突然上着を脱いだ沖田に土方と山崎は唖然とした。
「お、おい、何の真似だ、総・・・・・」
錯乱でもしたのかと驚く土方だが、その言葉は最後まで続かない。服の下、さらしが巻かれた沖田の胸元には、間違いなく少女特有の膨らみがあった。
大きくはないが、男の胸ではないことは確かだ。
驚愕のあまり目と口を大きく開けて絶句する二人を見下ろすと、くすりと笑った沖田はそのまま服を正して襖の向こうへと去っていく。
土方と山崎が何とか声を発することが出来るようになったのは、彼の足音が随分と遠ざかってからだ。「や、や、や、やっぱり女の子だったじゃないですかーーー!!!副長の嘘つき!」
「う、嘘だ!認めない、俺は認めないぞ!!」
「じゃあ、何ですか?沖田さんに好きな男が出来て、豊乳手術でもしたっていうんですか?」
「うっ、それはもっと嫌だ・・・」
真選組の屯所を混乱の渦に巻き込んだあと、当の本人は公園のベンチに座りのんびりと酢昆布を食べていた。
ベンチの傍らには、もう一人の沖田がいる。
同じ服と髪型なせいか端から見ると双子のようだが、男と女、やはり体格はだいぶ違う。
だが、全く先入観がない者ならば、少しの違和感があっても受け入れるものらしい。
彼女が屯所に入っても、あまりに態度が堂々としていたせいか、誰も何も言わなかった。「どーでした?」
「面白かったアル。多串くんが、尻餅付いて驚いていたネ」
「アハハハハッ、そいつは見てみたかったなァ」
珍しく、明るい笑い声をたてる彼を横目に、神楽は邪魔な茶髪のウィッグを頭からはずす。
これで、目に入れたカラーコンタクトを外せばにいつもの神楽に戻るはずだ。「ばれるまで、これからも時々入れ替わってみましょうや」
「また酢昆布くれるなら、いいアルヨ」
小悪魔達は、互いに何かを企んでいる表情で指切りを交わす。
周りの者の迷惑など、“天上天下唯我独尊”を地でいく彼らの頭にあるはずがなかった。
あとがき??
うーん、その後の真選組とか、書いてみたいですね。是非とも土神の方向で!!
女の子の沖田(実は神楽)にときめく土方さんとか、いいじゃないですか。(笑)
本人と身長はかなり違いますが、土方さんなら気付かないでしょう。(ボケボケ)
男所帯に美少女一人って、それだけでもえる・・・・。
沖田くんは「沖田隊長」と呼ばれているようですが、このサイトでは「沖田さん」ということで。
あと、神楽ちゃんの身長はよく伸び縮みするので、ここではピーク時ということで。タイトルは昔の邦画から。沖田役が牧瀬理穂で、土方役が杉本哲太、坂本竜馬があの渡辺謙でした。
内容はともかく、「沖田総司はBカップ」のうたい文句が強烈に印象に残っている。
土方に恋する女の子、沖田が男装し、性別を偽って新選組に入隊。
そして倒幕を目論む坂本が沖田に片思いをして三角関係に・・・。坂→沖→土。・・・思えば、凄い話だ。
渡辺坂本がとても魅力的でしたが、最終的にヘタレな杉本土方を選ぶ牧瀬沖田が好きでした。杉本哲太も好きだし。
TV放送をチラ見しただけで、原作は読んだことないです。
映画・・・・あんまり面白くなかった記憶がありますが、今見るとまた違った楽しさがありそうですね。