逢い引き 1


「神楽ちゃん、三番目のボタン、かけ間違ってるよ」
夕食のあと、辺りをうろついている神楽に気付いた新八が声をかける。
そして口に出してから、「あれ?」という言葉と共に首を傾げた。
昼間見たとき、神楽の上着はちゃんとボタンがかかっていたはずだ。
ボタンの位置を直している神楽を横目に、新八は妙に嫌な予感を覚えたのだった。

 

 

「散歩の前はちゃんとしていたということは、外で服を脱いだってことですよ。どういうシチュエーションだと思います?」
「服の試着でもしたんだろ」
「そんなお金、あげてないじゃないですか」
言いながら、新八は思わずきょろきょろと周りを見回す。
神楽は入浴中でこの場にいるのは銀時と新八だけだが、内緒話をしているときというのは変に後ろが気になるものだ。

「近頃酢昆布のお金も要求してこないし。この前なんて、ゴッディバのチョコレートを食べて歩いていましたよ」
「何―――!!!」
TVを眺めながら相槌を打っていた銀時は、このとき初めて新八の顔をまともに見る。
「ベルギー王室御用達で、一粒300円以上する、あのチョコか!野郎、何で俺によこさねーんだ」
「問題はそこじゃないでしょう!」
いきり立つ銀時に新八はぴしゃりと突っ込みを入れる。

「これ、今日洗濯カゴに入っていた神楽ちゃんの服なんですけど、煙草の匂いが染み付いているんです」
「煙草―?俺は吸ってないぞ」
「僕もですよ。でも、これだけ匂いが付いているということは、年中煙草を吸っている人が近くにいたってことでしょう?」
「・・・・下のばーさんじゃねーのか?」
「お登勢さんはキャサリンと一緒に町内会の温泉旅行です。お店も閉めています」
「そうだったか?」
首を傾げる銀時の傍らで新八の声音はどんどん真剣味を増していく。

「最近金回りがいい事と、煙草の匂い、今日の服の一件が関係があるとしたら・・・」
「何だよー、葉巻吸ってるどこかのエロ親父と援助交際でもして金を稼いでるって言うのかー?」
ハハハッと笑った銀時だが、新八は真顔で口をつぐんでいる。
「・・・・・え、マジな話?」

 

 

 

神楽が昼間の散歩に定春を連れて行かなくなったとき、最初に異変に気付くべきだったのだ。
不審を抱いた日の翌朝、トレードマークの傘をさして歩く神楽を、銀時と新八はこそこそと隠れながら追う。
神楽にかぎってそんな馬鹿な、という思いは拭いきれない。
しかし、何をしでかすか分からないのもまた彼女の特性だ。

銀時達の尾行にはまるで気付かず、スキップをする神楽は公園へと入っていく。
たどり着いたのは、広い公園内でも人通りが少なく、過去に何度か引ったくり等の事件が起きている故障中のトイレの前だった。

 

「お待たせヨー」
「おせえ!!」
近くのベンチに腰掛け、じりじりと神楽が来るのを待っていた土方は開口一番に言った。
煙草の吸い殻を足で踏みつけて消すと、軽快な足取りで近寄ってきた神楽の襟首を思い切り掴む。
「おら、さっさと服を脱げ」
「え、ここでか?」
「今日は時間がねーんだよ。こっちはちゃんと金を払っているんだからな。早く言うこと聞け・・・」
「ちぇすとーーーー!!!」

突然その場に響いた薩摩流の掛け声と、凄まじい殺気に、土方は後ろへと飛び退った。
突き飛ばされた形の神楽は地面に転がったが、もちろん怪我はない。
「あれ、銀ちゃんと新八・・・」
「神楽ちゃん、無事!?」
駆け寄った新八は何故か瞳に涙を滲ませている。
「うう、僕らがろくに給金をあげなかったばっかりに、体を粗末にするなんて・・・」
泣き続ける新八を神楽が不思議そうに見ていたとき、その脇では銀時と土方が火花が飛び散る睨み合いをしていた。

 

「何だ、お前ら」
「こっちの台詞だ、この性犯罪者が!幼女捕まえて何しようってんだ」
「・・・・はぁ?」
木刀で挑み掛かってきた銀時につられて抜刀はしたが、何か、話の行き違いがあるような気がする。
「何のことだよ、それは」
「とぼけるな!警察の分際で、年端の行かない子供をこんな寂しい場所に連れ込んで悪戯しようたー、幕府が許しても俺が許さん!」
「ちょっと待てーーーーー!!!」
身に覚えのない罪状を突きつけられ、土方は思わず絶叫していた。
女に不自由しているわけでもなく、そうした疑いをもたれること自体、彼には不名誉なことだ。
そもそもこうしたややこしい事態に陥ったのは、全ては神楽と、彼の所属する真選組の隊士達のせいだった。


あとがき??
え、続くの!?Σ( ̄□ ̄;


戻る