プレゼント T


「これ、ナミさんに!」

渡されたのは、赤いリボンのついた小箱。
ナミは小箱とサンジを交互に眺める。
「え、どうして?」
ナミにはこのような物を貰う理由が分からない。
誕生日でもないし、サンジに何か礼をされるようなことをした覚えもない。

怪訝な表情のナミに、サンジは笑いかける。
「理由なんてないですよ。さっきの港町で見つけて、ナミさんに似合うんじゃないかと思って」
にこにこと笑うサンジに、ナミの頭にはまだ?マークが浮かんでいる。
「見れば分かりますって。ほら」
ナミは促されるままに箱を受け取り、包装紙をはがしていく。

白い小箱の中身は、オレンジ色のガラス細工のブローチ。
「・・・蜜柑の形」
ナミは手のひらに余裕で収まる細工を前に、小さく声を出す。
鑑定士並みの観察眼を持つナミが見れば、値のはるものではないことは一目で分かる。
「どうですか」
サンジは期待に満ちた瞳でナミを見詰めた。

下心のある男から豪華な宝石類や貴重な宝をプレゼントされたことなど数え切れない。
だけれど、このように安物の小物、しかし、心のこもった贈り物をされたことは初めてだ。
子供の玩具同然のブローチを、ナミに似合うと思ってくれる人はいなかった。

ナミは頬が赤くなっていくのを感じ、誤魔化すように目線を下げる。
「あ、有難う。・・・嬉しいわ」
どもってしまった声をナミは恥ずかしく思ったが、サンジはただ嬉しそうに微笑んだだけだった。

 

「フフッ」
部屋に戻ったあとも、ナミはブローチを見詰めて顔を綻ばせている。
ただのガラス玉。
だが、今のナミにとってそれは輝かしい宝石以上の価値があった。
ひとしきり日の光にかざして眺めたあと、ナミは何かお返しをした方が良いのかもしれない、と思いつく。
一人あれこれと思案していると、やがて扉を叩く音が聴こえてきた。

「ナミさん、いいかしら」
船にナミ以外の女性の乗組員は一人しかいない。
「どうぞ」
声をかけると同時に、ビビが室内に入ってくる。
「これ、借りていた本。面白かったわ」
「良かった!」
ナミは本を受け取りながらにっこりと笑う。
海の上でいることが長い生活において、退屈は一番の天敵だ。
ナミとビビは読む本の嗜好が似ているらしく、ビビに本を貸すと大抵いい返事が返ってくる。

「それと、サンジさんが食事ができたって言ってるわよ」
「有難う。すぐ行くわ」
言付けを伝え、踵を返そうとしたビビは、唐突に足を止めた。
何かを凝視している様子のビビに、ナミは首を傾ける。
「ビビ?」
「それ、ナミさんも貰ったのね」
ナミはビビが顔を向けている方向を振り返る。
その先にあったのは、机の上に置かれたサンジに貰ったブローチ。

「私のとお揃い。ほら」
ビビは胸ポケットに入っていた物を取り出した。
蜜柑を象ったブローチ。
ナミは注意深く眺めたが、それはどう見てもナミと同じ物だった。
そのことに、ナミは強い衝撃を受ける。
だが、ビビは単純にナミとお揃いということを喜んでいるようだった。

「さっき甲板で会った時に貰ったのだけれど、この服には色が合わないから大事にしまっておこうかと・・・ナミさん?」
はずんだ声を出していたビビは、言葉の途中でナミの表情が曇ったことに気付き、訝しげに訊ねる。
「・・・ごめんなさい、ビビ。私、今日ご飯いらないわ。そう伝えて」
「え、ナミさん!?」
ナミに背中を押され、ビビは彼女の部屋から出されてしまう。
取り付くしまもなかった。
ビビは呆然とナミの部屋の前に佇むのみだ。
自分が何か問題のある言動をしたのかと、ビビは部屋の外から懸命に呼びかけたが、ナミからの応答はなかった。

 

 

「ナミさん、どこか身体の調子でも悪いんですか」

数分後、皆の食事が終わった後で、サンジがナミの部屋の扉を叩いた。
ビビから話を聞いたのだろう。
自分を心配してのことだと分かるが、ナミには煩わしい騒音にしか感じられない。
無視しよう、という考えも浮かぶが、そんなことをすれば他の乗組員達が乗り込んでくるのは必至だ。
ナミは諦めたように椅子から立ち上がる。

扉を開けると、サンジが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ナミさ・・」
「これ、返すわ」
サンジが言葉を発する前に、ナミは手をサンジに差し出す。
その上にのっているのは、プレゼントされたブローチ。

突然のことに、サンジは目を丸くしている。
「え?」
動揺するサンジに、ナミは無表情のまま淡々と喋り出した。
「返すって言ったのよ。考えてみたら、こんな安物、私に合うはずがないじゃない。大体、私が興味があるのは値打ちのある宝石だけなのよ。知ってるでしょ」
ナミ自身、自分がこのような冷たい声が出せたのかと驚くほど、突き放した声だった。
なるべくサンジの目を見ないようにしながら、ナミは言葉を続ける。
「それに、物で私の気を引こうなんて10年早い・・・」

途中で、ナミは声を呑み込んだ。
ナミを見詰めるサンジが、今まで見たことがないほど寂しそうな表情をしていたからだ。
二股をかけるようなことをしたサンジの方が悪いと思うのに、その顔を見たらナミは言葉を続けられなかった。
まるで、母親に叱られた子供のような瞳のサンジがそこにいた。

近距離だというのに、ナミに聴こえるか聴こえないかという音量で、サンジは搾り出すように声を出す。
「・・・お金がなかったわけじゃないけど、俺は、それがナミさんに似合うと思ったんだ」
誠実さを感じるその言葉に、ナミの胸がズキリと痛む。
何故か、サンジを傷つける言葉を言ったナミの方が、より激しい打撃を受けた。

気まずい沈黙の末に、サンジはふいに表情を和らげる。
「キッチンに軽食を用意しておきますから、良かったら食べてください。そして、それはナミさんにあげたものですから、あなたがいらないと思ったのなら、捨てても構いませんよ」
無理に作った微笑で言うと、サンジはあっさりと身を引いた。

思わずその背中を追いかけようとしたナミは、はじめの一歩が踏み出せず、棒を呑んだように立ち尽くす。
罪の意識。
それが、ナミの足を止める役割をはたし、息苦しいまでに鼓動を早くしている。
どんなに辛い時でも我慢していた涙が、今すぐにでもこぼれてきそうになり、ナミは手のひらのブローチを強く握りしめた。

 

「・・・馬鹿」

ナミの呟きはサンジに向けたものか、それとも自分に向けられたものか、ナミ自身にも分からなかった。


あとがき??
・・・・・・・・・・。
誰なんですか、この人達は?
分かってます。分かってますので、何も言わないで!!!
ナミを普段書いてるサクラちゃんと全く同じノリで書いてしまった。
違和感大爆発!

異様にハイテンションで書いていたので、最中は楽しかったです。たぶん。(^_^;)


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