カノン 1


「のだめちゃん、ここのところ毎日だねぇ」
中華料理店『裏軒』のオーナーである峰の父は、麻婆豆腐を頬張るのだめに笑顔で話しかけた。
いつもなら大好物の麻婆を歓声を上げながら食しているのだめだが、近頃は浮かない顔でレンゲを握っている。
「・・・千秋先輩が家にあげてくれないんですよ。ヨーロッパの知り合いが向こうの演奏会の録画テープを送ってきて、先輩俄然はりきってるんです。毎日毎日譜面を眺めていて」
「お前、飯はここか千秋の家でしか食べないのか」
「のだめ、おむすびしか作れませんし。両方共とっても美味しいですから、もう他では食べられないです」
呆れ顔の峰に、のだめはもそもそとした口調で答えた。
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。これはサービスだよ」
峰の父がさりげなくテーブルにアイスクリームを置くと、顔を上げたのだめはようやくにっこりと微笑んだ。

 

 

 

空気の澄んだ冬の朝。
学舎へと向かう道すがら、千秋は何か忘れ物をしたような気持ちで、振り返る。
出かける前日から荷物のチェックをするような完璧主義の千秋に、本来忘れ物など通常あり得ない。
だけれど、何故か引っかかるものがある。

「何だか、ここら辺が寂しいような・・・・」
手で傍らを探った千秋は、ようやく足りないと感じたものに気づいた。
毎日、自分の授業のない日でも千秋に合わせて一緒に大学に通っていたのだめ。
それが数日前、飯をたかりに来た彼女を追い出してから、ぱったりと姿を見せなくなった。
いれば厄介な人間でしかないが、年中行動を共にしていたおかげで、彼女の不在に妙な不安を抱いてしまう。

「何やってるんだ、あいつは」
ぶつぶつと呟きながら、のだめのレッスンの日を指折り数えていた千秋は、道の向こうから来たカップルを見るなり思わず電柱の陰に隠れる。
千秋が素早く動いたからか、それとも二人が会話に熱中しているせいか、彼らは千秋に気づいた様子はない。
男の方は知らない顔だが、女の方は先ほどまで千秋が思いを巡らせていた相手、のだめだ。
あの特徴的なしゃべり方は聞き間違えるはずがない。

 

「有難うございましたーー」
「いや、僕も楽しかったよ」
マンションの入口までやってくると、頭を下げたのだめに対して青年はにこやかな微笑で応えた。
手を振って別れる二人を、千秋は呆然を見送る。
時間は朝の8時。
千秋が初めて目撃したのだめの朝帰りの現場だった。

 

 

 

「あののだめが、毎日髪の毛を洗っているみたいなのよ」
「のだめが!!!!」
のだめの親友、マキの言葉に、クラスメートの女子は目と口を大きく開ける。
それが普通のことだが、自分の身なりをまるで気にしないのだめを知っている者には、驚きの事実だ。
「そういえば、レッスンが終わるとすぐに帰っていくし、恋人でも出来たのかしら」
「その可能性は大ね。・・・・のだめに先を越されるなんて」
肩を落としたマキは気落ちした様子で呟く。

「でも、のだめって千秋様を追いかけ回してなかった」
「高望みはやめたのよ。きっと」
生徒達でごったがえす食堂にいるマキ達は、すぐ後ろの席に千秋が座っていることも知らずに談笑を続けている。
何となく面白くない気持ちで食事を終えた千秋は、早々にその場所から立ち去った。

 

のだめの私生活にはまるで興味がない。
だが、自分の前ではまるで飾らず、何日も同じ洋服を着ているようなのだめが、恋人が出来るなりがらりと変わったのが気にくわない。
相手の男のことはよく分からないが、何故か負けたような気持ちになっている千秋だった。


あとがき??
ごめん。オリジナルキャラが・・・・。
千秋先輩って、名前「真一」だっけ。しかし、「真一が・・・」等と書いても誰だか分からない気がするので、「千秋」にします。
のだめの口調が普通なのは、あの独特なしゃべり方を書けないからです。(笑)
凄いよ。のだめ
×千秋じゃなくて、千秋×のだめみたいになってるよ。ここまで原作無視でいいのか。
次はもっとラブラブかもしれない・・・・。ど、どうしよう。


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