お姫様の理想


「格好良いアル〜〜v婿にしたいアル〜vv」
そう言って彼女がうっとりと眺めている
TV画面に映っているのは、火を噴きながら町中を歩くゴジラだった。
同じ年頃の少女達と比べると、好意を持つ対象があまりに違う。
それでも、神楽ならばと納得できてしまうのが不思議だ。

「神楽ちゃん、こういう人には興味ないの?」
番組の合間、巷のアイドルの映像が映ったときに、新八はさりげなく訊ねた。
少女達の間で絶大な人気を誇るスターだが、画面を見つめる神楽は顔をしかめている。
「んー、私が殴ったらすぐ死にそうネ」
「・・・・そうだね」
彼女の頭の中はとことん戦いが基準らしい。
「じゃあ、神楽ちゃんはどんな男の人が好みのタイプなの。・・・えーと、人間で」
再度、ゴジラをいとおしげに眺める神楽に、新八は言葉を付け加える。

「そうネ・・・・・、髪が薄茶で手足が細っこくて毒舌で優男で似合わないごつい制服を着て、女子供でも容赦なく叩きのめせるような人非人」
「・・・・・物凄く具体的だね」
顔を引きつらせる新八に、神楽はにっこりと笑いかける。
「そういう男は絶対に嫌アル」

 

 

 

いつもの散歩道に、いつもの顔。
公園の奥まった場所、木陰の下を通ると必ず彼はいた。
おそらく、仕事をさぼっての昼寝中だろう。
ぱっちりと眼の描かれたアイマスクが居眠りをする彼に代わって周りを牽制している。
だが、そのようなものは、神楽には何の意味もなかった。

素通りがてら、横たわる体を踏みつけようとして、足首を掴まれる。
転ばないようバランスを取り、その手を傘で叩くと縛めは易々と解かれた。

「何するネ!」
「こっちの台詞でさァ」
睨み付ける視線を感じたのかどうか、アイマスクをずらした沖田は上目遣いに彼女を見る。
「人の体を踏みつけようたーどういう了見でェ」
「こんな所に転がってるから、ゴミと間違ったアルよ」
じりじりと後退りながら、神楽は攻撃できる隙を探している。
刀はすぐ近くにあるが、つい先程まで寝入っていた彼は実に無防備だ。
それなのに踏み出すきっかけを掴めずにいるのは、自分を見つめる彼の瞳に威圧されているせいだろう。

「お前、毎日毎日何で同じ場所で寝てるアルか?」
「あんたが毎日毎日同じ場所を通るからでさァ」

 

 

夕飯の支度中、足りなくなった調味料を買いに出た新八は、わいわいと人だかりの出来た場所を遠巻きに見る。
公園の木々が2、3本根元から倒れていた。
非常に嫌な予感がしたが、好奇心の方が勝り、新八は人を掻き分けて前へと進む。
案の定、刀を持つ真選組隊士とやりあっているのは、彼の知人の少女だ。
このままでは公園にあるもの全てが破壊されるのではと心配する新八だが、そうした分別は彼らにもあったらしい。

「・・・人が集まってきたから、今日はこれくらいで勘弁しておいてやるアルよ」
「まァ、あんたが頭を下げて頼むなら」
「誰がアル!!!」
いまだに殺気をぎらつかせる二人だが、一応、双方武器を仕舞い引き下がる。
これ以上騒ぎが大きくなることは、彼らも望んでいない。
どのみち、勝負の再開はいつでもできるのだ。
決着を急ぐ必要もなかった。

 

てくてくと自分の方に歩いてくる沖田を、新八は凝視している。
神楽と対峙する彼の姿を見たとき、とっさにあるフレーズが頭に浮かんだ。
沖田がすぐ傍らを通り過ぎた瞬間、知らずにそれは口をついて出ていた。

「・・・髪が薄茶で手足が細っこくて毒舌で優男で似合わないごつい制服を着て、女子供でも容赦なく叩きのめせるような人非人」
「・・・・・・」
小さな声を聞き逃すことなく、沖田の足がぴたりと止まる。
振り向いた彼の眼差しは氷よりも冷たかった。
「・・・・売られた喧嘩は買いますぜィ」
「わっ、ちょっ、違います!!!誤解です!」
すらりと刀を抜いてみせる沖田に、新八は慌ててその場から駆け出していた。

たまに天の邪鬼なことを言う神楽。
好みの異性を訊かれ、一番最初に頭に浮かんだのは、おそらく彼だったのだろう。
その意味するところは?

「・・・まさかね」


あとがき??
これと対の沖田編の方を書きたくて始めたんですが、そこまでたどり着けなかった・・・。
神楽ちゃんはかぶき町の女王様ですが、坂田ファミリーの中ではお姫様(的立場)ということで。
ジャンプ流し読みなので、設定とかめちゃくちゃざんす。申し訳ない。
神楽ちゃんが伴侶に求めるのは、おそらく強さだと思われます。
昔、大事にしていたペットが死んでショックを受けたようだし。頑丈な人が好みかと。
そう考えると、沖田くん理想です。最強同士・・・・。

沖田編を書けたら満足すると思うので。部屋も消去。


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