因幡


「土方さん、一目惚れって信じやすか?」
沖田の口から出た唐突な問い掛けに、土方は思わず咳き込んだ。
「一目会ったその日から、ずっと面影が頭から離れない・・・・。物語の中の話かと思ってやしたが、本当なんですねェ」
「お、おい、総悟・・・」
「白い肌が目に焼き付いて、兎に関係するものを見るたびに思い出すんでさァ」

誰のことかと訊ねようとして、それらの情報をつなぎ合わせた土方はすぐにある人物を連想した。
万事屋のチャイナ娘こと、神楽だ。
日の光を嫌う彼女の肌はぬけるように白い。
夜兎族の象徴なのか、兎模様の入った服もよく着ている。
そして沖田の周りで彼とまともに会話を出来る女子といえば、神楽しかいなかった。

「も、物好きな・・・」
「何を言いやす。あれでもよく見ると結構可愛いんですぜ」
「・・・・」
確かに顔は悪くないが、性格が大いに難ありだ。
だがその点は沖田も同様で、考えてみれば釣り合う二人なのかもしれなかった。

 

 

 

「ちょっと、顔を貸してもらえるか」
定春と散歩を楽しんでいた神楽は、土方に道端で呼び止められる。
何やら神妙な面持ちで神楽を見る彼は、困っているような様子だった。
「何アルか?」
「総悟が熱出して寝込んでる。見舞いに来てもらいたい」
「へー・・・、とどめをさしに来いってことアルか?」
「見舞いって言ってんだろーが」
思わず声を荒げた土方だったが、頼み事をしている身だ。
黙り込んだ土方を、神楽はしげしげと見つめた。

「あいつは、私なんかに会いたくないと思ってるアルヨ。きっと」
「そんなことはない」
沖田の気持ちを知っている土方は間髪入れずに否定する。
面倒ばかりかける存在だが、悪態を付く気力もなく寝付く姿を見ると、どうも心配になった。
片思いの相手である神楽が来れば、少しは元気になるはずだ。

「そうネ・・・あれを買ってくれるなら、行ってもいいアル」
神楽が指をさしたのは、巷で評判の和菓子、兎饅頭を売る露店だった。
沖田が病だろうと何だろうと、神楽の知ったことではない。
だが、腹が満たされるのであれば、少しは付き合っても良いような気がした。

 

 

「こんにちはヨー」
神楽が襖を開けて部屋に入ると、話の通り、沖田は額に氷嚢を乗せて横になっていた。
「せっかく来てやったのに、挨拶なしアルか!」
土方に買ってもらった兎饅頭を食べながら、激昂した神楽は彼の体を踏みつける。
布団の上からとはいえ、かなりの圧力だ。

「馬鹿、何やってんだ、お前は!」
慌てて神楽を羽交い締めにした土方だったが、騒ぐ二人のおかげで沖田は目を覚ました。
そして神楽の顔を見るなり、その表情は喜びに満ちたものへと変化していく。
「・・・うさ・・」
「は?何アルか??」
小さく呟く沖田に気付いた神楽は兎饅頭の袋を抱えたまま顔を近づけたのだが、どう見ても彼の注意は饅頭の方に向かっている。
「・・・食べたいあるか?」
熱にうかされている沖田は、それでも何とか首を縦に動かして自分の意志を伝えた。

 

「よっぽど気に入ってるアルねー、兎饅頭」
饅頭の袋を抱きしめて幸せそうに眠りについた沖田を見下ろし、神楽は呆れて呟く。
「・・・兎、饅頭」
土方が思いだしたのは、沖田が言っていた「白い肌」と「兎」の二文字。
兎饅頭は外見が真っ白で、兎そっくりの可愛らしい形をしていた。
「お前、一目惚れって、これのことか・・・」
「どうしたアルか?多串くん」
座り込む土方に声をかける神楽だが、彼は無反応だ。
あれほどいとおしげに語っていたのが饅頭のことだと思うと、はてしなく脱力する土方だった。


あとがき??
土方&沖田コンビ、仲良いなぁ。
沖田くんは神楽も饅頭も両方好きなんですが、よく分からないですね。
というか、神楽を好きだから饅頭も気になっているという。


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