太陽がいっぱい


士道不覚悟で訴えられた者は即切腹。
敵との密通など言語道断だ。
沖田に関するその噂話を耳にした山崎は、まず副長である土方へと報告する。
隊士達の挙動を観察し、土方に伝えることも彼の大事な仕事の一つだった。

 

「総悟が桂と通じてる?」
「正確には、桂というか、こっちなんですけど」
山崎が懐から出した写真には、桂と、傍らを寄り添うように歩く白い生き物が写っている。
そして、山崎の指差す先にいるのはその白い生き物の方だ。
ぱっちりとした瞳がチャームポイントで、可愛いと言えないこともないが、何しろ図体が大きすぎる。
「エリザベスちゃんという名前らしいですよ。桂はこの生き物をペットとしてどこにでも連れて歩き、尋常じゃない可愛がりようだそうです」
「そんなことはどうでもいい。これと総悟がどう係わっているというんだ」
「結婚を前提にお付き合いをしているそうです」

土方の手から、煙草が落ちる。
山崎の顔を見据えた土方だが、彼は真剣な眼差だ。
冗談を言っているわけではないらしい。
「・・・メスなのか、この生き物は?」
「さぁ。でも、愛し合っているようですよ。昨日夜が更けてから、沖田さんの部屋に忍んで会いに来たそうで・・・」
「何で誰も止めない!!」
「「白いのが来たら、黙って通すように」と門番が沖田さんに言われたそうです」
「・・・・」

 

予想だにしない事態に、さすがの副長も困惑した様子だった。
沖田が誰と付き合おうと彼には関係ない。
だが、相手が攘夷派に係わる者となると、そうも言っていられなかった。
もしエリザベスに懇願されたら、沖田が真選組の巡回ルートをもらし、桂を逃がすことに協力する可能性もある。
あらゆる意味で、禁断の恋愛だ。

「総悟はどこだ」
「・・・部屋にいると思いますけど」
立ち上がった土方はすぐさま彼の部屋へと急行する。
近藤の耳に入る前に、話を付けなければならない。
憎たらしい小僧だが、古い付き合いの彼を見捨てるわけにいかなかった。

 

 

 

「総悟、いるか。お前・・・・・」
呼び掛けるのと同時に襖を開いた土方は、そのまま二の句が継げなくなる。
沖田が、問いつめようとした相手のエリザベスと、しっかりと抱き合っていた。
目と口を大きく開けて自分達を見る土方に気付くと、彼は不満げに眉を寄せた。
「ノックくらいしてくだせェ」
「・・・・わ、悪い」
何となく、見てはいけないものを目撃した気持ちで視線をそらしたが、それどころではなかった。

「お前、そいつと付き合ってるって本当なのか!」
叱るようにして言われ、居住まいを正した沖田は隣りに正座するエリザベスへと目を向ける。
「俺達は、愛し合っているんでさァ。この気持ちは誰にも止められませんぜ」
「そうアル」
エリザベスから聞こえた可愛らしい少女の声に、土方と山崎は再び目を丸くした。
この白い生き物の性別はどうやら女だ。
すると、桂とは主人とペットの関係ではなく、恋人だったと考えた方が良い。

「お、お前、こいつが今まで誰と付き合っていたか知っていて、そんなことを・・・・」
「こいつの過去なんざ、関係ありやせん。敵対関係だったのは遠い昔の話でさァ」
エリザベスの手を握った沖田は真っ直ぐに土方の目を見つめている。
彼は本気だ。
何かの冗談のようだったが、寄り添う沖田とエリザベスを見ていると頭が混乱して、どうしたらいいか全く分からなくなった。

 

 

 

「あの・・・・土方さん」
「何も言うな!」
沖田の部屋を出るなり、おずおずと喋りかける山崎に土方は厳しい口調で言う。
風変わりな奴だと思っていたが、女(?)の趣味まで変だとは思わなかった。
「いえ、沖田さんのことではなく、見回りの時間なんですけど」
「・・・分かっている」
本当は沖田とエリザベスの衝撃で忘れきっていたのだが、土方は咳払いをして玄関へと向かう。
そして山崎と連れだって表に出た土方は、往来を歩く人々を見るなり開いた口が塞がらなくなった。

道行く人々が、全てエリザベスの扮装をしている。
右を見ても、左を見ても、全てがエリザベス。
シュールな物語の世界に紛れ込んだようで、同じように唖然としている山崎を見た土方は、かろうじて自分が正気だと思うことが出来た。
大人に手を引かれた子供が白い布地を引きずっていることから、エリザベスが増殖したわけではなく、ただ上から何かをかぶっているだけのようだ。

 

「片っ端から掴まえて、桂の居所を吐かせます?もしかしたら、一人本物が混じっているかもしれませんね」
「やめてくれ」
山崎の提案を土方はうんざりとした口調で却下する。
そんなことをしたら、隊士達を総動員しても一週間はかかりそうだった。
「もしかしたら、こういう着ぐるみが流行っているんでしょうか」
「・・・・・総悟のところにいた白い奴、どこかで聞いた声じゃなかったか?」
「語尾に「アル」がくっついてましたしね」
にやりと笑ったからには、山崎も土方と同じ考えに行き着いたようだ。

確かに、女が一人で夜道を歩くには、あのかぶり物があった方が安全かもしれない。
桂絡みではないと分かってホッとしたものの、沖田の相手が彼女だと思うと、それはそれで心中複雑な土方だった。


あとがき??
オバケのQちゃんで、こういうネタがあったんですよ。
だから、つい。
ちなみに、エリザベスの服(?)は夏涼しく冬暖かい素材で出来ていて、あまりに快適で、一度身につけると手放せなくなるそうです。

 

(おまけ)

「どうしたんだ、エリザベス!」
しくしくと涙するエリザベスを発見した桂は、慌てて駆け寄った。
「え、何だと。洗濯をしたら、風で全部飛ばされた?」
見ると、物干し台にはそれらしい物は何もなく、ただ竿が一本地面に転がっている。
竿が落ちたときに、洗濯物は風にのって散らばったのだろう。

「そんなに泣くな。次からは洗濯ばさみを使えばいい・・・」
桂に頭を撫でられたエリザベスは、目元を擦りながら小さく頷く。
以来、外ではエリザベスの偽物が多数出没するようになるのだが、彼らには関わりなきことだった。


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